肝試し/五組目
折り返しの五組目となるのは、うろな北小学校の教師である小林拓人、その愛娘である三歳児の美果、うろな南小学校六年生の皆上竜希の三人だ。
三組目、四組目が肝試ししているうちに企画課の頼んだ助っ人その二、香我見の従妹である霞橋神楽子が火やラジカセなどを仕掛け直す作業が終わったので、彼らが進むのは一組目、二組目と同じルートになる。
「ドキドキしますね。帰ってきたみなさんは怖がってたり面白がってたりで予想がつきませんし」
「そうだね。もしかしたら美果は眠っていて正解だったかもしれない」
ここまで順調に予定を消化してきているとはいえ、時計の長針はすでに下を向いている。夜も深まってきた上に広場でさざ波のようなおしゃべりの声にさらされて、美果はいつの間にか眠ってしまっていた。
そんなわけで美果をおぶっている拓人に代わってタツキが前方を照らし、二人並んで歩いている。
「あっ、人魂だ」
「凝ってるなあ。本当に燃えているようだけど」
怖がるというよりは感心したような二人は歩みを止めずに蝋燭のもとまでたどり着く。
「ああ、これ理科の教科書で見たことあります」
「ホウ素だね。今度授業で使ってみようかな」
拓人がきちんと火を吹き消すと、一行は再び歩みを再開した。
彼らが祠に到着した頃、二人は集まって緊急会議を開いていた。
「うわあ、あの人ら全然怖がれへんやん。どないしよ、もう結構ネタなくなってきたしいっそのこと……」
「いや、僕に言われても困るんだけど」
佐々木の相手は本日の助っ人その三、企画課二人の先輩である住民課の榊だ。こんにゃく禁止令が出たため、その代わりとなるゼラチンや洗剤その他もろもろを混ぜて作った不可思議な物体を持ってきてもらったのである。
「いやいやいや、このまま終わってしもたらボクらの完全敗北ですやん。それは向こうもつまらんやろうと思いはりません?」
「相性みたいなものもあるんじゃない? くじ引きだし、そういうこともあるよ」
「見損ないましたわ樹サン! それでもうろな町役場の職員でっか!?」
「それ言い間違いっていうか書き間違いだし、この状況でそんなことを言われたくもない……って、行っちゃった……。ふああ、もう帰って寝よ」
佐々木が追いついた頃、タツキたちはすでに山の入り口まで来ていた。
「しもた! はよ行かな負ける!」
彼にもはや猶予はなかった。取るものもとりあえず不可思議化学物体を両手に走り、勢いよく二人の首筋へと、
「あ」
三人の男の間の抜けた声が重なった。何を思ったのか拓人とタツキが同時に振り返ったのだ。佐々木はすかさず表情をうかがった。拓人は苦笑。タツキは、
「ああびっくりした。いきなりのことでとても驚きました」
恐怖などという感情とは無縁のその笑顔に佐々木は膝から崩れ落ち、負けを認めた。




