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ばかばっかり!  作者: 弥塚泉
2013年、うろな町役場企画課
14/42

肝試し/四組目

 肝試しという催しは怖がる者がいて初めて成立するといえる。もっとも、参加者を募集する時点で怖がりな人間を誘うのが常であるし、五人ほども集めれば怖がりな人間が一人はいるので、参加者が誰も怖がらなければそれは主催者側の失敗だ。

 ならばいわゆる肝が太い人間は不要であるかといえばそれは違う。円滑な進行のためには彼らはむしろ必要な存在なのだ。

「おおお、お姉さんたちが前を歩いてくださいよ。ぼ、僕はまだ子どもなので……」

「そ、そんなこと言ったってボクだってまだ中学生だもん。い、一条さんは大人だから大丈夫だよね?」

「あ、あ、当たり前でしょ! だけどこういうのは男が前を歩くものよ、私は怖くないけど!」

「ちょっ、そんなあ……」

 四組目は相田慎也、如月澪、一条彩菜。小学生、中学生、パティシエールという肩書きや年齢、性別の違いはあるが、彼らには共通点があった。それはかなりの怖がりであることだ。企画課の二人にしては珍しくイカサマなしのまともなくじ引きなのでこういうこともあり得る。そうして怖がりが集まってしまった結果、風野に急かされてなんとか待機場所の広場を出たはいいものの山の入り口で先鋒を押しつけあうという不毛なことをしているのだ。

「わかったわ、私が行く」

 一応大人であるということで二人から責任を押しつけられた彩菜が懐中電灯を持つことで決着した。そうはいってもシンヤは彩菜の羽織っているパーカーの裾を握っているし、レイはがっちり腕を組んでいるので、実質全員が先頭を歩いているようなものなのだが、冷静な思考を保っている人間はこの場にいなかった。

 彼女たちが進むルートは緩やかな山となっていて、木で作られた段差を昇降する場所がある。注意点としては仕掛けを作りやすい頂上付近が挙げられるだろう。

「ちょっとあんた、ひっつきすぎよ。動きにくいじゃないっ」

「ひっ今何かあそこで動きませんでした!?」

「ええっ、一条さんなんとかしてくださぁい……」

「枝が風に揺れただけでしょ……絶対そうに決まってる!」

 まだ仕掛けもないうちから怖がっているこの三人に関してはどこが注意、ということもないのだろうが。

 そのあまりの怖がりように企画課は往路で手を出しかね、ついに彼女たちは何の妨害もなく帰路の下り坂へとさしかかっていた。

「ルナぁ、もう帰りたいよぅ」

「ダイサクぅ、みんなぁ……」

「うぅ……私だってこんなはずじゃなかったのに……」

 暗がりに怪物の姿を見つけるレイのせいで神経をすり減らしながらも、彼女たちは歩みを止めることはなかった。しかし前方にはうっすらと広場の明かりが見えている。もうゴールは目前かと思われた。

「誰かいる……」

「え」

 レイの一言に彩菜とシンヤも足を止めた。確かに行く手の先、うっすらと見える明かりを背負った誰かが、いる。そう、ちょうどそれは女子大生のような背丈で。

 ちりん、と鈴の音がした。

「ちょ、これって……」

「さっきの怪談の!?」

「もうやだぁ……」

 完全に足を止めた一行だが、人影はまるで身じろぎもしない。

「い、行くわよ」

 ある考えがひらめいた彩菜は二人を引きずるように前進し、人影のもとまでたどり着いた。すると、彼女の予想通り。

「なんだ、人形じゃないの!」

 見事仕掛けを見破った興奮もあって、彼女は必要以上に大きな声で笑い飛ばしてみせた。人影の正体はやたら目の大きな女の子が描かれた抱き枕に浴衣を着せた後、綿を詰めてそれっぽい人影にしただけのものだったのだ。

「なぁんだ……」

「こ、怖かったぁ」

 正体を確認し、二人とも安堵したように張っていた肩を下ろして息をついている。

「やっぱり幽霊なんていなかったんだね。……精霊はいるけど」

 レイの呟きに彩菜が振り返った。

「え? 何か言っ……た……」

 しかしその言葉の途中に彼女は見た。レイの後ろに。

「いえ、なんでもないんですけど……どうかしました? まるでボクの後ろに幽霊がいるみたいな、そんな顔をして。あっはっはっはっは、は………………」

 レイは肝試しを終えて緩んだ気持ちからか、珍しく冗談を飛ばしてくるりと満面の笑みで軽く後ろを振り返ってみせた。

 そのときの三人の悲鳴は広場まで聞こえたという。

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