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ばかばっかり!  作者: 弥塚泉
2013年、うろな町役場企画課
12/42

肝試し/二組目

「さて、次は誰かなあ……っと」

 佐々木は再び草むらに潜んで着替えながら、参加者を待っていた。一組目が仕掛けをすべて消化しきらなかったので二組目も同じルートで歩いてくることになっているのだ。

<では、二組目は梅原さん、小林果穂さん、宵乃宮さんですね>

「ふんふん、なるほど」

 佐々木の手元から風野の声が聞こえてくる。これは香我見が遊びで作ったトランシーバーで、市販のトランシーバーを分解して手のひらサイズにまで収めたものだ。これによって企画課、もとい肝試し委員会の二人は事前に次の参加者を知ることができる。もっとも、先ほどの怪談の際は暗闇のせいで参加者の顔を確認することができなかったために、初対面の人間は分からないことに変わりはないのだが。

「梅原先生と小林先生は知っとるけど宵乃宮サンは知らんな。もし男やったら……ふふふ、ハーレム野郎には死を……」

 勝手な妄想でまだ見ぬ宵乃宮に呪言を呟きながら先ほどと同じ茂みで待ち伏せしていると、なにやら騒がしい三つの人影が視界に入った。火と声の仕掛けは取り去っているのでここまで仕掛けはなかったはずなので、どうやらその中の一人が暇を持て余して他の二人を脅かしているらしい。主にびくびくしているのは小柄な人影だけだが。

「また参加者が共犯かい。俺ら、もしかしていらんかった?」

 少々不満を抱きつつも企画者の責任を果たすべく渋々手元のボタンを押した。

「ひっ」

 すると彼女たちの歩く道の左側の茂みががさがさと不穏に揺れる。

「きゃー、司ぁ助けてぇ」

「わわ、わかったから離せ果穂! 動けないだろう! そして押すな押すな!」

 絡み合った二人が茂みに近づくと茂みを揺らしていたものが、草をかき分けてその正体を現した。

「な、なんだ…………猫か」

「司、超震えてなかったぁ?」

「ふ、震えてないっ!」

 茂みから飛び出してきたのは茶トラの猫だった。ちなみにこのリモコン操作でふたが開くケージも香我見作だ。そして真の恐怖は彼女たちの後ろに迫る。今度はパーティーグッズのコーナーで買ったゾンビのマスクをつけた佐々木だ。前方に二人がいて心に油断が生まれる三人目を狙う。しかしあと一歩で手の届くところで彼女が振り向いた。不意に木々に差し込む月の光を彼女が目で追ったのだ。そこで初めて佐々木は三人目の参加者、宵乃宮雪姫との邂逅を果たす。月が照らす彼女の絹のように流れる真っ白な白髪に、紅赤ルビイの瞳という人間離れした外見を目の当たりにした。そして、

「うっひゃあああああああああああああ!!!!!!」

 逃げた。奇声をあげつつ脱兎のごとく逃亡した。こんな企画を立てるくらいだから彼もお化け屋敷やドッキリはむしろ楽しむ方だ。しかし、常識の通じない相手というのは理屈なしに怖いものである。






 宵乃宮雪姫の側から見れば意味不明、強いて言えば謎の人物の大声で少し驚いたくらいだ。

「何があったんだ雪姫?」

「あーもう! 見逃したぁ!」

 二人が猫に夢中になっている最中の出来事だったので彼女たちはゾンビの情けない醜態を目撃していなかった。雪姫としても今のことをどう説明していいのか言葉に困るところだったので、企画課の方が私を見てびっくりしたみたいなどと適当にごまかしておいた。それは紛れもない事実なのだが。

 そんなことを話しながら歩いていると、あっさり祠まで着いてしまった。途中、カラスの声や女性の悲鳴に梅原が肩を震わせることはあったものの他二人は少々つまらない思いを抱きつつ道を引き返すことになる。

 不可解だったのは祠に傘が三本立てかけてあったことだ。この祠に知名度なんてないし、たまに参る者がいるとしても傘を三本も忘れるというのは考えにくい。

「とりあえず持って帰ろう。後で企画課の二人に聞いてみて、知らないようなら交番に届ければいい」

 それはこんな状況でも持ち前のお人好しを発揮する梅原が三本ともまとめて待機場所の広場に持ち帰ることで決着したのだが、

「ちょちょちょっ、天気予報じゃ晴れだって言ってたのにっ」

「仕方ない、この傘を借りよう。お前たちに風邪を引かせるわけにはいかない」

「梅原先生も今は無茶しないでください」

 偶然にも通り雨が彼女らを襲ったのだ。当然、傘を開く。すると突如視界が真黒に塗りつぶされる。天からぶら下がる蜘蛛で覆い尽くされたのだ。

「きゃああああああああああああああああああああああっ!!!!」

 三人が三人、申し合わせたかのように傘を打ち捨てて体をあちこち手で払いながら走り去ることになった。











「おおきにタカさん、下ろしてください!」

 香我見の声とともに、あたりの雨はたちまちあがった。通り雨の正体は水に浸した笹を対象の頭上に掲げたもので、傘はもちろん内側に蜘蛛の形に切り抜いた黒い紙を釣り糸でぶら下がるように仕掛けていたのである。傘はともかく、笹を持ち上げる方は仕事が仕事なだけに生半可な腕力では務まらないためにダメもとで頼んでみたところ、生半可ではない腕力を持つ助っ人に協力してもらえることとなった。

「おいこら、ユキを脅かすなんて聞いてねえぞ!」

「いや言った言った言いました! 聞いてなかったんですか!? トランシーバーで!」

「あん? その、しるばにあってのはあれのことか」

 今回企画課の頼んだ助っ人その一、前田鷹槍が顎で指したその先にはなぜか煙を上げている黒い物体があった。

「どないしたらあんな壊れ方しますの!? ていうかドールハウスの話とかしてないし、わざとやろ! あんたもサカキシンドローム患者やろ!?」

「あのなんとかって住民課の若造のことか? もちろん覚えてるに決まってるだろうが。えー…………」

「覚えてないし!」

 肝試しの夜はまだまだ続く……。

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