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ばかばっかり!  作者: 弥塚泉
2013年、うろな町役場企画課
10/42

8/24『納涼肝試し大会報告書』

 うろな町役場企画課。

 うろな町をよりよくするための企画や政策を作成、提案するのがその仕事である。八月に入ってからの彼らはある二つの企画にかかりきりであった。一つは公共施設の節電の実施状況、改善策を提示した至極真面目なもの。そしてもう一つが……。

「佐々木君、これで全員や」

「よっしゃ、ほな始めよか!」

 日もとっぷり沈んだ午後八時。企画課の二人は西の山の麓にある公園に来ていた。公園とはいっても物が土管くらいしかないところで、普段は子どもたちが秘密基地を建設するくらいしか使い道のないところだ。しかし今日という日について、二十七人の待ち合わせ場所としてこれほど適した場所はなかった。

「はーいみなさん、参加者が揃ったんで肝試し大会始めますー」

 そう、正確には七月末から彼らが準備していたもう一つの企画がこの肝試し大会なのだ。企画概要には西の山で行うとしか書いていなかったが、この手の催し物では主催者が脅かしにかかってくるのが定番。例に漏れず今回の企画課も肝試しのルートに様々な小道具を仕掛けてあるのだが、それを知ってか知らずか二十七人もの参加者を集めることになった。

「まず初めに、簡単に今日の予定を説明します」

 前方に立った佐々木を扇形に設置されたパイプイスが囲む配置と夜の静けさもあって、声を張らずとも全員に声を通すことが出来た。

「大まかな流れはポスターに書いてあった通り、くじ引いて組を決めて肝試しっちゅうことなんですけど、最初にちょっとした怪談を聴いてもらおかなあと」

 傍らに持ってきたイスに座ってにやりと笑った佐々木に対して何人かが顔をしかめた。恐らく相方に連れてこられたか、無理に付き合って来た人間だろう。

「これはボクが学生時代に友達の友達が実際に体験した話やそうです。彼のことを仮に渉君としましょう」

「なんか名付けに悪意を感じるんだけど、俺、佐々木君になんかした?」

「彼はアパートに部屋を借りて一人暮らしという身分をいいことに夜毎女をとっかえひっかえして連れこむリア充でした」

「怒るポイントそこだったかー」

「彼はその日も女の一人に電話をかけて自分の部屋に呼びつけるつもりでした」

「梅原先生、これ仮名ですからね。俺そんなことしてないですからね」

「清水うるさい」

「ところが、渉君がいくら電話をかけても誰にも電話はかかりませんでした。渉君は電話帳に登録されたすべての女性に電話をかけましたが、その電話は誰にもつながることはなく、渉君がもう寝てしまおうとしたそのとき、小さな鈴の音が聞こえてきました。渉君の知り合いの中で一番本気で渉君を好いていた女性がキーホルダーにつけていた鈴の音です。渉君は彼女のことを疎ましく思っていましたが、その日ばかりはちりん、ちりん、とこちらに近づいてくる鈴の音がとても愛しく思えました。彼女はドアの前まで来ると立ち止まって、そのまま話し始めました。『ねえ、あなた、浮気してるってホント?』『馬鹿な。そんなことしてないよ』『あたし最後に言ったよね。浮気したら、死ぬ…………って』『わかったわかった。今開けてやるから』そう言ってドアを開けた彼の目に飛び込んできたのは、爪は剥げ、歯は欠けて、むしられたかのような痛々しい黒髪で、腐食した手をこちらに差し出す変わり果てた彼女の姿でした」

 ちりん、と参加者の後ろから音が聞こえ。

 参加者のほとんどが一斉に振り返った先には携帯を揺らす香我見がいた。

「あ、すんません。ストラップです」

「あっはっは、ちょっと効きすぎましたか?」

「今のどこが怪談話なんだよ! 普通に怖いストーカー話じゃないか!」

 一部の恨みがましい視線も意に介さず、朗らかに笑いながら立ち上がると佐々木は隣に並んだ香我見から箱を受け取った。

「ほな、くじ引き始めますから並んでください。早いもん勝ちでっせー」

 佐々木のその声を皮切りにわらわらと列ができる。

「んー……これかな」

「ええい、こうなったら梅原先生とのイチャラブ肝試し券は俺が必ず引き当ててみせる!」

「せめてルナと一緒になれますように」

「めんどうだ……」

「この引きに懸ける……デスティニードロー!」

「女子高生はもうごめんだ……」

「強そうな人がいいな」

「あいつは三番ね。三番こいっ、こいっ」

「誰と一緒になるかなーっと」

 くじを引いた者が次々と組になっていく。元々は二人組になる予定だったのだが、参加者が予想以上に多数だったので急遽三人組が九つ出来ることになった。おおかた顔合わせが終わったところで前方から声がかかる。

「では、肝試しの手順についてご説明します」

「あれ? 風野さん?」

 いつの間にか主催者の企画課はどこにもいなくなっていて、二人がいた位置には半袖のパーカーに短パンといったいでたちで髪をラフなポニーテールでまとめた女性が立っていた。

「センパイたちなら、準備があるからと言ってこちらの仕切りを丸投げしていきました」

 せっかく今日は一から3Dまで借りてきたのに、などと呟きながらポケットから紙を取り出す。

「この肝試しの目的は事前に説明したとおり、奥の祠からお札をとってくることです。基本的には踏みならされた道を進んでいただければ迷うことはないと思いますが、暗い山道ですから目印としてところどころ木に白いリボンが巻きつけてありますので、迷ったらそれを頼りにしてください。それでは一番の紙を引いた方は懐中電灯をお渡ししますのでこちらへどうぞ」

 風野が促すと見事に年代も性別もバラバラな三人が現れた。

「えっと、最初は高城さん、清水さん、真島さんですか」

「そして私がリーダーだ。なにせ部長だからな」

 肩くらいまでの黒髪を靡かせて颯爽と進み出た女の子が懐中電灯を受け取った。後に続くのはちょっと沈んだ様子の青年と勝ち気そうな小学生くらいの男の子だ。

「うう、梅原先生……」

「ふん、お札なんてあっという間に取ってきてやるぜ!」

 一組目が揃ったところで、風野はくすりと笑って宣言する。

「それでは肝試し大会、開始です」

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