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ばかばっかり!  作者: 弥塚泉
2013年、うろな町役場企画課
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『水着コンテスト企画要綱』

 うろな町役場総務部企画課。

 より住みよく、より魅力ある町にしていくために町を思う人間がせわしなく働いている町役場の一階、資料室の一画に対面したデスクが二つ置いてある。そこが企画課の職場だ。

 その職務内容は名前の通り、様々な企画や政策を考えて町の発展に繋がる良案を町長に提出すること。という至極立派なものであるのだが……。

「ふあーあ、めんどくさいなあ、ツイッターのリプ返」

「どうしたら秋原さんの水着姿見れるやろ……」

 携帯のいじりすぎで落ちた視力をコンタクトで補っている爽やかな茶髪のバカに、エロゲのやり過ぎで下がった視力を黒縁眼鏡で補っている真面目そうな黒髪のアホしかいないのである。普段は他の課から雑用を回されてしまうくらいに仕事がないこともあって、まともな職場を用意してもらえなかったのだ。

「佐々木君まだ言うてんの? それやったら秋原さんがコンテストに出る言うてこないだ狂喜乱舞してたやん」

 茶髪の方、香我見遥真かがみはるまは携帯越しに目の前の同僚を見る。

「それが……審査員らしい……」

 静かな部屋とはいえギリッと歯を食いしばった音が聞こえるくらいだから相当悔しいようだ。この黒髪の方は佐々木達也ささきたつやという。かなり上級のアホではあるが企画課に回される雑用の七割をこなす程の有能さを持っており、今も手元は忙しくノートパソコンのキーボードを叩いて夏祭りの出店リストを作成している。

「ってことは?」

「ミズギ、ミレナイッ!」

「片言なっとるよ」

「むしろなんでそんな落ち着いてんねん! アホか!」

「客観的に見てアホは間違いなくキミや」

 パクッと携帯を折りたたみ、香我見はようやく佐々木の方を見た。

「ゆうて、水着コンテストやったら他の女の子も出るやろ。コンテストの対象年齢は?」

「十三歳から」

「キミの対象年齢は?」

「三歳から」

「問題ないやん」

「…………香我見クン、キミはなんもわかってないわ」

 そう言うと佐々木は両手でパソコンを閉じてゆっくりと立ち上がる。

「例えば香我見クン、キミは確か魚が好きやったね」

「うん」

「ブリとハマチはおんなじか? スズキとセイゴ、バレロンとアリストテレスはおんなじか!?」

「それは違うけど……なに? 要するに体の大小、歳の老い若いを無視してひとくくりにすんなってこと?」

「その通り。スクール水着には初々しい、例えるならば木に成っているココナッツのような瑞々しさがあり、競泳水着には引き締まった、さながらパイナップルのような爽やかさがあり、ビキニには艶やかな、完熟したキウイフルーツのように溺れそうな甘さがある」

「どうでもええけど、なんで例えが全部南国チョイスやねん」

 香我見はため息をついた。彼が適当なところでまとめなければ佐々木はいつまでも語り続けてしまう。

「まあつまりそれぞれの良さがあるってことやね」

「神がかってるとすら言えるやろな」

「そこまでか」

「女の子おらんかったら死ぬからな、ボク」

「真顔やめて、怖い」

「いやホンマに」

「もうわかったから身ぃ乗り出さんといて。要するに佐々木君は秋原さんの水着を見たいと」

「イエスッ!」

「じゃあ秋原さんの好きなもんで釣ってみるゆうんはどうや? 水着コンテストの担当部署に手ぇ回して賞品として並べてもらう」

「それはええけど、秋原さんって何が好きなん?」

 くるくると鉛筆を器用に回してあからさまにやる気のない香我見のことも気にとめず、佐々木も着席した。彼は自分の温度が上がっても他人にそれを強制しない、分別のあるアホなのである。

「いや、知らんけど」

「うーん、女の子の好きなもんってゆうたら甘いもの、可愛いものとかかなあ」

「女の子っちゅう歳か」

「女の子はいくつになっても女の子なんや!」

 ただし意味の分からないこだわりに関しては押しつけがましいところのある佐々木である。もっとも、香我見の方も彼の扱いは慣れたもので、適当にいなしながら手元にある不要になった資料の紙を裏返した。

「はいはい。じゃあとりあえず『京庵みやこあん』の食事券千円分と熊のぬいぐるみを賞品に入れてもらうとして……」

「千五百円な」

「自腹切んの? 本気やな」

 口笛を吹きつつすらすらと鉛筆を走らせていく。

「あとは男かな」

「へぁっ!?」

「女の好きなもんゆうたら男やろ。佐々木君は夢見すぎ」

「しゃあない。俺が行こか」

「あかんあかん、生き餌やないと食いつき悪いわ」

「ボクが死んでるってか!?」

「佐々木君の場合、どっちかっていうとルアーやな。ルックスは上等やのに中身腐ってて食えたもんやない」

「なんちゅう言いよう……じゃあもう香我見クンでええよ」

「俺が食べてもええの?」

「アホか!」

「冗談やって。秋原さんって俺の好みちゃうし。せやから俺もエサ向きやないな。そのコンテスト、町長は来たっけ?」

「確か来たはずやけど……えぇー、あいつぅ?」

「町長に向かってあいつゆうな。あとその顔は酷い」

 香我見の呆れたような言葉に酷い表情はひっこめたが、佐々木の唇はとがったままだ。

「だって絶対モテるであいつ。しかも確実に無意識。ボクがいっちゃん嫌いなんはああいう天然ハーレム野郎やねん」

「キミの好きなラノベエロゲは全部そんなんやろ」

「それはええねん。主人公と自分を重ねて楽しむもんやねんから。ボクのコレクションに寝取られものは一切ない」

「聞いてないし。どっちにしても町長は来るゆうんやったらこの議論は無駄やな」

 とん、と鉛筆の先で紙を叩いて香我見はそれを手渡した。

「賞品のことしか決まらんかったけど、とりあえずそれでいい?」

「もちろん」

 佐々木が話しながらも起動していたパソコンのキーボードを叩くと部屋の隅に置いてあるコピー機が大きな作動音を立てながら紙を吐き出す。

「はい、企画書完成っと」

「水増ししすぎやろ。いつもより分厚すぎひん?」

 香我見がコピー機のそばまで行って紙の束にひもを通し、企画書の体裁となったものをパラパラ捲って中身を確認する。

「ああ、ついでにコンテスト会場設営の企画もまとめといた」

「相変わらず効率ええことしよんなあ……ってちゃっかり撮影ポイント設けとるし」

「バレた?」

「まあたぶん通るやろ。ほな町長サンとこ行こか」

 香我見が上着を着るのを待って二人で資料室を出る。佐々木はすれ違った職員にお疲れ様ですなどと声をかけるが、香我見はさっと会釈をするだけだ。何事にも対照的な二人なのである。

「おっと榊坂サン、お疲れ様です」

「いや、榊だから……」

「すんません、ウチのアホが」

 町長室に向かう途中、ちょうど階段で彼らの先輩と出くわした。企画課は二人しかいないから直接の先輩というわけではないが、まだ彼らがうろな町に来たばかりの頃に指導役となったのが縁で今でも親しくしている。

「ところで二人揃ってどこに行くの?」

「ちょっと町長サンとこに企画書出しに行くとこで」

「そうなの? 町長は今留守みたいだけど」

「えっ、ホンマですか?」

「しゃあない、いったん出直すか」

「あら、佐々木さん、香我見さん」

 二人の背後から親しげながらも毅然とした声がかけられた。

「企画書なら私がお預かりしておきます」

 振り返ると、きちんと背筋を伸ばした綺麗な姿勢で歩いてくる秋原がいた。

「あ……」

「終わった」

 その後二時間相当の説教を五分で受けた彼らはどっさり書類を抱えて泣きながら帰ったという。

「というか、もともと水着コンテストは町役場の管轄じゃないですよ」

 最後に何気なく添えられたこの言葉が一番佐々木の心を傷つけたことは誰も知らない。

どうも。弥塚泉です。

うろな町企画に参加させていただきました。

この作品を読んでくすりと笑っていただければ幸いです。


今回はシュウさんの『うろな町』発展記録から秋原さんと榊さんをお借りしました。

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