口が悪くて乱暴、だけど優しい彼
ずっと嫌な笑顔で丸井君が見てくるもんだから、ちょっとこの間どうすりゃいいのよとイライラしていると、突然図書室のドアが乱暴に開いた。
私もさすがの丸井君もビックリして、顔をドアへと向ける。
「良治、てめえやっぱしここにいやがったか・・・・」
「なーんだ、すーくんかぁー。ビックリした・・・」
入ってきたのは高山だった。
高山進。だからすーくん。
札付きの不良で、よく暴力事件を起こしては警察にお世話になっている・・・という噂が学校で広まっていて生徒から怖がられている。
人呼んで『バイオレンス高山』。
しかし実際は決して不良ではなく、警察沙汰の事件を起こしたこともなく、ただ人より乱暴で口が悪いだけの健全な男子生徒。
ちなみに私と同じクラス。
そして丸井君と高山は幼なじみらしく、こんな風に親しげに名前で呼びあっているのだ。
あ、そうそう。丸井君の名前は良治だって。
そういえば、ずっと高山がそう呼んでたの忘れてた。
高山は図書室に入ってくるなり、ズカズカと丸井君に近付いてきた。
丸井君は受付のカウンターにもたれたまま、顔だけ高山の方を向けている。
高山は丸井君の傍までくると、いきなり拳作り丸井君の頭に拳骨一発。
「っ!?」
「いっっっったぁーーーーっ!!!」
ゴスッと鈍い音が鳴り、拳骨を食らった丸井君はその箇所を押さえてその場にしゃがみ込んだ。
私も突然のことにかなり驚いて、しゃがんで痛みに悶えている丸井君と、それを少し怒ったような表情で見下ろしている高山を何度も交互に見る。
あ、決してざまーみろなんて思ってはいないです。
「す、すーくん・・・、ひっど・・・・っ、マジ痛・・・」
「てめえが悪い」
「悪いって・・・」
丸井君はゆっくりと立ち上がった。
あ、若干涙目になってる。
珍しいものを見た。
「ぼ、僕・・・、何かした?」
「・・・・・マジで気づいてねえのか?わざとだったら、もう一発ど突くぞ?」
眉間に皺をつくり、拳を構えて高山は言った。
それを見て丸井くんは慌てて答える。
「いやほんと!僕全然殴られた意味わかんないから!!」
丸井君は必死な眼差しで高山を見た。
どうやら本気で分かっていないようで、高山もそれが分かったのか拳を下ろし盛大なため息をついた。
・・・なんかこんな丸井君初めて見るからなんか新鮮だ。
あと、高山も珍しい。
高山もいつも図書室に来るけど、こうやって何も言わずに丸井君を殴るなんてことはしない。
だって高山は・・・。
「てめえ書記の1年と資料倉庫の整理する約束してただろ。お前が来ないって書記の一年が困ってたから、1人でやるには無理そうだったし、俺もできる仕事だったから代わりにやっといたぞ」
「あ・・・、告白で呼び出されてたからすっかり頭から抜けてたー・・・。すーくん、ごめん!ありがとー!」
ほんっとうに心の底から優しい奴だから。
まあお人好しとも言うんだけど・・・。
ねえ、みんな聞いた?
丸井君が告白されて浮かれていたせいで忘れていた資料倉庫の整理を代わりにやったって。
しかもきちんとそれをこなすから、もう頭が下がりっぱなし。
「俺に謝んな。明日書記の奴に謝れ。いいな?」
「わかったー」
高山は丸井君が頷いたことを確認すると、今度は私に顔を向けた。
「波原、もしかしてこいつ、またここで告白させてたか?」
「んー、言われてないけどラブレター渡されてた。で、それを本人の前で開けて見てた」
「良治・・・」
「えー、だって早く見てあげた方がいいと思って。僕多分そのまま家に帰ったら読むの忘れそうだしー」
あははーと笑って丸井君はそう言い放った。
うわー、この子ほんと嫌な子だわ・・・。
高山は丸井君の言葉に眉を寄せ、ふかーくため息をついた。
「・・・否定できねえから悲しいよな」
そして疲れたようにそう言って、もう一度深いため息。
こいつは丸井君のせいで人生30%は損してそう。
私は丸井君みたいな奴と小さい頃からずっと一緒だなんて願い下げだ。
でも高山は、聞いたところ幼稚園のころからずーっと丸井君とつき合い続けていたらしい。
尊敬の念すら覚えてしまう。
「あ、波原。今日の本どれだ?」
「えっとー、今日はそこの机に乗ってる分だけ。私一人でいけるから、今日は別に手伝わなくてもいいけど」
「いや、やるやる。お前は良治の相手頼むわ」
「待って、そっちの方が嫌だから。それこそ高山がやってよ」
「いや、俺だって良治の相手はしんどいしやりたくねえ」
「わ、二人ともひどいなー。本人の前で言う事じゃないよ、それー」
図書委員の仕事のひとつでもある本の整理。
ちゃんとジャンル別で分けられているんだけど、その場所に戻さない馬鹿な生徒は少ないわけではない。
ミステリーのところに伝記があったり、図鑑のところに絵本があったり、そういうのは腹が立つわけで。
最初は、見つけた時「チッ、どこの馬鹿がしでかした」みたいなことを思うだけだったんだけど、いつの間にかその本を元の正しい場所に戻していて、それが日常化していた。
とりあえず間違えた場所にある本を見つけたら取り出しておいて、それからまとめて正しい場所に戻していくというのが主な作業。
意外にもかなりの重労働で、高山はいつもそれを手伝ってくれている。
正直すごく助かっている。
丸井君?奴はただ見ているか、本を読んでいるくらいしかしてない。
しかもたまに間違えたところに本を戻す。
もちろん高山の拳骨が後で出てくるんだけど。
「ていうかもう二人でやればいいじゃん。僕大人しくしてるよー。すーくんの拳骨、二回も受けたくないし」
結局丸井君の一言で、いつものように二人で本の整理を行うことになった。
今日は本の数が少ないから、高山が本を持って私がそれを正しい場所へ戻していく。
「高山、ほんとありがとう」
「なんだ?急に改まって」
「・・・なんとなく、ね」
「?」
しかしどうしてこんなにも人に優しくするのか。
ちょっと疑問に思った。