完璧で笑顔で腹黒くてモテ男な彼
「あのっ・・・、これ・・・」
一年生の女の子は、顔を紅潮させモジモジしながら、可愛らしいピンクの便箋を、目の前にいる二年生の男子に差し出した。
少しだけ手が震えている。
男子は女の子から便箋を受け取り、しばらくそれを見つめた後、ムカつくくらい照れた様子もなく女の子に尋ねた。
「あ、ラブレター?」
「っ!!は、はいぃ・・・」
女の子はますます顔を真っ赤にさせ、恥ずかしそうに目を伏せると、小さくコクリと頷いた。
頭からプシューと湯気が出てもおかしくないくらい真っ赤っかな顔をして、誤魔化すようにモジモジしている姿は、同性の私から見てもとても可愛らしい。
「見てもいい?」
しかし腹が立つくらい照れた様子を見せることなく、男子はさらに女の子に尋ねた。
女の子もさすがに驚いたようで、真っ赤な顔を上げ男子を見る。
潤んだ瞳を丸くさせ、尋ね返した。
「えっ!?い、今、ですか・・・?」
しかし男子はそれに答えず、女の子の前で便箋を開き始めた。
その行動にさらに驚いて、女の子はあわあわと慌てだす。
「あ、あのっ、い、い、家で・・・」
「・・・・・・」
「家でっ、読んで、ほしいです・・・・」
「・・・・・・」
「あっ、えっ・・・と・・・っ」
「・・・・・・」
「っ、し、失礼しますぅー!!」
しまいには、女の子の目の前で真剣な顔をして手紙を読み始める男子。
耐えきれなくなったのか、女の子は一目散に走り去ってしまった。
その一部始終を見ていた私。
男子は女の子がいなくなると、手紙を見ながらトコトコと私の元へとやってきた。
「波原さん、見てよー。また告白されちゃった。しかも手紙で!」
私のいる受付のカウンター越しに、男子は手紙を私に見せつける。
何か含んだようなこの笑顔は、いつ見ても気味が悪いもんだわ・・・。
「オーオー、ホントモテモテネー、ヨカッタネー。ところで丸井君、これで何回目か数えていないけど、いちいち告白場所をここって指定するのやめてくれる?なんで私があんたが告白されるところをいちいち見なくちゃなんないの?」
「波原さん棒読みひどいなー。仕方ないじゃん。図書館でいい?って聞いたら、女の子はみんないいよーって言うし、現に波原さんいるのに告白してくるよ?」
「私が全力で気配を消してるの分かってる?図書室での告白はひっじょーに迷惑で他ならない」
そう言っても丸井君は「えー、そうなのー?」と言って笑っただけだった。
彼は隣のクラスの丸井君。下の名前は知らないし、興味ない。
丸井君は簡単に言うと、モテてそのくせ腹黒い男。
いつも告白されてるらしいけど、そのたびに図書室に来るから私はとても困っている。
最初はなんでこんなことをするのかわからなかったけど、最近になって気付いた。
これは私に対する彼の嫌がらせだと。
丸井君は毎日のようにいろんな学年の生徒から告白されているため、自分がモテていると自覚している。
自覚しているからこそ、ますますたちが悪い。
「丸井君のどこがいいのか、私にはさっぱり理解できないわ・・・」
「・・・顔じゃない?ほら、僕いっつもニコニコしてるしー」
「うん。恐ろしく腹黒い笑顔だけど、それ」
「波原さんの毒舌ほどじゃないよー?」
ニコニコと笑いながら結構言ってくれるなこのモテ男野郎。
心の中で私はそう言った。
丸井君の笑顔は嫌い。
作り物みたいでなんか怖いし・・・。
「・・・・ところで丸井君。あんた部活入ってなかったっけ?」
「うわ、その質問今更過ぎると思うんだけどー・・・、まあいいか。部活は入ってないよー。代わりに生徒会入ってるけどね」
カウンターから離れ、近くにあった椅子によっこいしょと座り、丸井君は私の問いに答えた。
そうか、今更過ぎたか・・・。
実はこの男、ただモテてるだけじゃなく、運動できて頭も良いというすばらしい設定を持っている完璧男でもある。
だからどんな部活に入っているのか、少し興味があったんだけど、生徒会か・・・。
「生徒会での役割って・・・」
「・・・・・、波原さーん。僕ら知り合って半年以上は経ってるよー。それでも本当にわかんない?」
「だって今まで丸井君には興味なかったし。まあ今もなんだけど」
「もー、心外だなー。僕、一応副生徒会長だよ?」
「そうなの?」
「そうだよ。ちなみに次期生徒会長候補ー」
「あ、それは興味ない」
「えー、ひどー」
そして副生徒会長という設定も入ったかこの男・・・。
どうりでモテる訳だと、私は一人納得した。
普通の子ならますます好感度が上がるんだろうけど、不思議なこともあるもので彼に対する私の好感度は全くもって上がらない。
すると、丸井君は椅子から立ち上がり、またまた私の方へとやってきた。
受付のカウンターにもたれ掛かって、嬉しそうに私をじーっと見る。
「ていうか、僕初めてなんだー。これだけ僕に興味を持たない女の子って」
「その言葉、ずっと聞いてる気がするんだけど?」
「本当のことだしー」
私の嫌いな笑顔で、彼はそう言った。