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蝙蝠紳士は血を欲する

「何コレ?」


「幻聴? 疲れてるのかなぁ……」


 時刻は午後4時半。 道行く人達が耳を押さえて訝しがる。


 老いも若きも男も女の、一人残らず一様に同じような仕草を取っている。


 果たして原因は何か?


 偶然? ――そんな訳が無い。


『我が名はスポポゾンドゥ=ヌヴェ=ホッポボヴィッティ3万と飛んで17世!』


 声の主は異世界からの来訪者。


 ギリギリ二足歩行の動物にカテゴリー出来そうな姿形をしている。


 曲がりなりにも衣服を着ている。 意外と異世界っぽさの無いスーツ姿だ。


 先祖への敬意を払う、という程度の習慣は持ち合わせているらしい。


『我は欲する! うら若き、穢れなき乙女の生き血をッ!!』


 付け加えるならば処女信仰も持ち合わせている風でもある。


 上下左右前後、忙しなく見回す人々の多くは小学生と主婦とお年寄りが専ら。


 夕暮れの住宅街という立地を思えば必然と言う他ないだろう。


 ちなみにその異世界からの客人が立っているのは電柱の上。


 彼には目が無く、鼻が無く、耳が無く、丸々とした頭部はその半分以上を占める口だけ。


 両腕はコウモリの翼に近い形状をしており、筋肉や骨を持つ箇所は酷く貧相。


 しかし、その先端にある手は禍々しく鋭く力強い。


『さあ、道行くお嬢さんたち! おじさんにその瑞々しい雫を捧げてみないか!?』


 身に纏ったスーツは白と黒のストライプ。 スーツの下のシャツは真っ赤。


 シルクハットと金色の蝶ネクタイが無駄なアクセントになっている。


 そのあんまりな姿に彼を目にした人々は急激に白け、ため息をついた。


 やれやれ、と頭を掻きながら、各々が各々の日常に帰って行く。


 そんな蔑ろにされまくりの異形を遠巻きから眺めながら、ナナセはつぶやいた。


「アレ、本当に厄介なの?」


「あんなノリだけど強いよ。 ただ、あいつらに異世界渡航魔法はない筈なんだけど」


「要するに、誰かが手引きしているってことでしょ? 分かりきってた事じゃない」


 そんな事より、と杖を肩にかけながら言葉を続ける。


「あいつはどういう生き物なの?」


「この世界の言語で名づけるならクチダケコウモリセイジンってところだね」


「学名なんて聞いてない。 異世界渡航魔法を使えないあいつはどんな魔法を使うの?」


「念話、飛行、音波、砲撃、回復。 あと、あの口に特殊な魔法効果があるね」


「魔法効果?」


「硬度無視、解毒、神経毒の3つが一気に発動する。 それも全自動」


 なるほど、とこめかみに指を当てて考えるナナセ。


 彼女の脳裏に未知の魔法に対する警戒が暴力的なまでの思考能力をもたらす。


「砲撃と飛行はどうでも良いとして、音波魔法は防御も回避も無理よね、音速だし」


「念のために言っておくけど、聞く聞かないよりも振動に触れたらアウトだよ?」


 その言葉を聞いて、うへぇと顔をしかめた。


「で、触れたらどうなる?」


「さあ、そこまでは知らないね。 ただ、死ぬような事はないと思うよ」


「じゃあ、もう一つ聞くけど回復魔法は私の毒には効く?」


「問題ない。 君の魔法毒は君以外の魔法の発動、魔力の生成自体を阻害するからね」


「おーけー。 それじゃ、さっさと毒殺するわよ」


 言いながら、即座に魔法毒を生成したナナセは垂れる雫を瞬間移動させた。


 現在彼女の居る場所は近くの留守宅の2階。


 窓から異形の後ろ姿を眺めながら、万が一の反撃に備える。


 そして――即座に自身の油断のない性格に感謝した。


『おや、お嬢さん! 私にその麗し鮮血を捧げて下さるのですかな?』


 瞬間移動された魔法毒を瞬時に飛び退いて回避し、空中に宙づりになった格好で滞空。


 ありもしない双眸で静かに、しかし荒々しくナナセを捉える。


 何度も異形と戦いを繰り返した彼女だが、異形に姿を見られたのは初めてのこと。


 ひらりと一軒家の石垣に着地した怪物紳士は四肢全てを十全に使って跳躍した。


 遮蔽物の電柱を噛み砕き、窓ガラスを突き破り、勢いのままに屋根をも貫く。


 当たればひとたまりもないその一撃をナナセは瞬間移動によって難なく回避。


 そのでたらめな威力に内心冷や汗しながらも、呆れた目で彼を見上げる。


『素晴らしい! 私どもの初弾をかわすとは! 清く、麗しく、そして強い!』


「気色悪いロリコン野郎ね。 って言うか、日本語分かるの?」


『どうやら召喚魔法の恩恵のようです。 意図理解念話もあるので必須でもないですが』


 意図理解念話。 音声でも文字でもなく、意図・欲求をそのまま伝える念話である。


 情報の精度は高い反面、伝わる情報がコンパクト過ぎる為、相手への負荷は少ない。


 コミュニケーションに使うだけなら言語の壁を無効化する非常に優れた念話の形態だろう。


「まあ、そんな事はどうでも良いのよ。 気の毒だけど、死んでもらうわよ?」


『それは残念です。 お嬢さんのようなツワモノ相手にて加減は出来そうにありません』


 口だけの怪物が、たった一つの顔の構成要素を吊り上げて全ての感情を伝える。


 迫力と悪意に満ちた凶悪な笑顔。


『ここで死んでも……怨まないで頂きたい』


 翼に似た腕を広げ、力強く羽ばたく。


 一瞬にして巨大な弾丸と化した彼は、電柱に足を置いたナナセとの距離を0に縮めた。

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