表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/30

変身バンク、始めました

 この辺りの児童達にとってはなじみの通学路にて。


「先生、おはようございます!」


 元気な挨拶と共にナナセの横をすり抜けていく児童達。


 徐々に暖かくなり、昼になれば何もしなくとも汗ばむ季節。


 それでも朝早くのこの時間はまだまだ涼しく、彼らが駆け回るにはちょうど良い。


「うん、おはよう、宮迫くん」


「おはようございます!」


「おはよう、田辺くん」


「おはようございます、奈々美先生」


「おはようございます……えーっと」


「同じ学年の担任の相良です……ってこの紹介もう4度目なんですけど」


「ごめんなさい、生徒の名前を覚えたところでキャパシティオーバーしてしまいまして」


 ナナセに声をかけたもう一人の教師の名は相良 太郎。 モブなので覚える必要はない。


 どうやらナナセが5つほど年上と知りつつも気があるらしく、何かと声をかけて来る。


 が、ナナセにとっては彼などストライクゾーンの遥か彼方、大暴投も良いところ。


 眼中にない、どころか視界に入ってくるだけでも虫唾が走るレベルなのだ!


「いえ、お気になさらず。生徒の名前を覚える方が重要ですから」


 が、生徒の名前を覚え過ぎた為に他の人名が頭に入らないと言うのも強ちウソではない。


 ナナセが名前を暗記している生徒の総数は512名。


 彼女の勤める学校に通う少年少女達の約9割に相当する数であった。


 ちなみに、覚えていない残りの1割は既に毛の生えた男子。


 要するに毛の生えた野郎の名前なんぞ覚えてたまるか、と言う事である。


 女子は毛が生えていても問題ないらしい。


『と言うか、それは間接的に女子も欲望の対象だって言ってるようなもんだよね』


『いきなり念話で話しかけてこないでよ。苦手なんだから』


『じゃ、肉声で話そうか? どうせ、肩に乗っかってるんだし』


 皮肉っぽい声と口調の主はマスコット的存在、モモンガモドキ。


 現在は姿を消す魔法を使っているのでよほどの探知魔法でも使わない限り補足は不可能。


 ナナセ宅の家事は朝と夕方以降で大体済んでしまうため、こうして学校にも同行する。


 目的は主に3つ。


 一つ目は“敵”が現れた時にすぐさま彼女にそれを伝えるため。


 二つ目はただ家にいてもやる事がないから。


 そして、三つ目は……


「あ、おっはよー、ナナセせんせっ!!」


「おはよう、水鏡さん」


 一人の少女が桃色の髪を翻してナナセの横をすり抜けて行く。


『むっほー!今日も水鏡たんは可愛いなー!!』


『黙れ、そして速やかに死ね。 このロリコン淫獣野郎』


『……そう言うナナセだって本当は興奮しまくりでギンギンのくせに』


 三つ目は……ロリ分を補給するためであった。


 ナナセとしてはいつ生徒が危害を加えられるか気が気じゃない。


 が、目の届かない所の置いておくのもそれはそれで不安なので渋々同行を認めている。


『とにかく、イエスロリータノータッチは厳守しなさいよ』


『分かってるよ。足を舐めるぐらいしかしないから』


「だから触れるなって言ったでしょうが!?」


「は、はい?」


 思わず声に出してしまったナナセの様子をモブ先生が怪訝そうに伺っている。


 自分の失敗に気付いた彼女は苦い笑みを浮かべて、


「な、なんでもありませんよ……」


 とはぐらかし、早足で校舎へと向かった。




『アンタのせいで突然叫ぶ電波女になっちゃったじゃない』


『三十路のそれは電波とは言わない。ただの○チガイだ』


『そんなもん、どっちだって良い!』


 念話で口論しながら職員室のある3階へ向けて階段を上るナナセ。


 ふと見上げると、数歩先に先ほどの少女、水鏡 美波の後ろ姿を捉える。


 これでもかと言わんばかりのミニスカートを履いており、下からだと下着が見える。


 よほど自分に自信がないと出来ない格好だ。


『ごあっ!?』


 眩い白を直視し続けたモモンガモドキが血を吐いた。


 その気配を察してナナセは、こいつ絶対童貞だわ、などと思いつつ彼女に声をかける。


「水鏡さん、下着が見えてるわよ?」


「え?違いますよ先生。見せてるんです!」


「こらこら、そういうことを言うんじゃありません」


「えー、どうしてですか?」


「安易な色仕掛けに釣られて寄ってくるのはアホばかりと相場が決まっているからよ」


『これだから小学生は最高だぜっ!!』


 たとえばこんなのよ、と言ってみせれればどれだけ楽か、とナナセはため息をついた。


 何か良い説明はないものかと考え始めた、その時――


『……! ナナセ、敵襲だよ!』


『こんな朝っぱらから、面倒ね……』


「とにかく、スカートの丈を直せるなら直してから、教室に行きなさい」


「はぁい」


 素直に返事をして手洗いに向かった彼女を見送ったナナセは職員用トイレに駆け込む。


 そして中に他の教員がいない事を確認してから、胸に両手を当てて祈った。


 と言っても、具体的に何に祈ったという訳ではなく、念じたという方が正確だろうか。


「さあ、早くして」


「言われなくても」


 ナナセの頭上にモモンガモドキが飛び乗り、彼もまた念じる。


 刹那、ナナセの衣服が消滅し、裸身が露わになると同時に彼女の全身が光に包まれた。


 すらりと伸びた四肢も、豊かな乳房も徐々に縮んで、あっという間に少女のそれに。


 輝く身体を手袋が、靴下が、靴が……何故か優先順位の低いところから隠されて行く。


 とどのつまり、典型的な魔法少女の変身シーンという奴である。


 やがて全身くまなく魔法少女の衣装に着替えたところで、身を包んでいた光も消滅。


 虚空に出現した杖を手に取り、バトンのように


 最後に何処からともなく現れたリボンが、少女の長い髪を纏め上げた。


 魔法☆少女ナナセちゃん、参上!


「さて、行きますか。ホームルームまでに片づけるわよ」


 頭上のパートナーにそう宣言すると、彼女は職員用トイレの窓から飛び出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ