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白い結婚のまま、さようなら ~女好きな夫との離婚は決定事項です  作者: 白まゆら


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えっと、実はですね

 そうして三人の言った通りに、事態は進みました。

 昨日、突然現れた見知らぬ侍女の手紙に、私とモナはハッとしたのです。

 これが三人の言っていた、愚かな行動ですのねと。


 王太子妃の部屋に見知らぬ侍女が近付けるなんて、普通はあり得ません。

 ですが私の部屋にはモナと専属護衛のリックしかいないので、その行動も容易かったでしょう。

 オーガの言う通り大人しくしていた結果、妻を蔑ろにする夫の行動はこの国での私の扱いにも影響が出たという事です。

 要するに自国の王族が見向きもしない他国のお飾り王太子妃など利用価値もないという訳ですね。

 何の力もない子供である私に接したところで無駄、という貴族の態度は城で働く使用人にも影響しました。

 特に侍女として働いている下位貴族の令嬢など、態度は露骨です。

 流石に目立った嫌がらせ、例えば食べ物に毒物を入れたり、虫や動物の死骸を送ってきたりなどはしませんが、それでも冷めた食事や明かりの蝋燭を減らしたりなどの小さな嫌がらせは、日常茶飯事であります。


 小さな嫌がらせというものは、じわじわと精神に来るものです。

 実家で義母や異母妹にもっと酷い虐めを受けていなければ、耐えられなかったかもしれません。

 いえ、決してそれが良かったという訳ではないのですが。

 それでも精神は鍛えられていましたし、何よりモナとリックが側に居てくれたので、めげずにオーガの指示に従えたのです。

 そして、この事態に繋がったという訳ですね。


 あ、因みにリックはリック・ランガードというこの国の子爵家の三男で近衛騎士でしたが、ちょっとした縁で近衛を辞めて、私の専属騎士になってくれました。

 今ではすっかり仲間です。

 当然、私が国に戻っても一緒に来てくれると約束してくれています。


 しかし先程の重鎮の、私が王太子妃に相応しいという言葉はどこから出たのでしょうね。

 これほどの扱いをしておいてぬけぬけとそんな事を言うなんて、どうせ文句も言わずに黙々と執務をこなしていたからでしょう。

 執務はもちろんの事、王太子妃教育においてもこの年齢の割には、優秀だったと自負しております。

 そういうところを評価したのでしょうが正直、どの口が言うのかと、胸倉を掴みたい気持ちにはなりました。



 怪しい侍女が持ってきた手紙を広げると、そこには夫の文字がありました。

 しかし明らかに、約束の時間の数字を上から書き直した形跡があったのです。

 お父様や夫のように書類をいじくろうとする輩が身近にいましたもので、数字の偽装には敏感なのですわ。

 少しの間違いを見逃すと、命取りになりかねますものね。

 それにこの手紙の偽装は、数字の上に水をにじませたような跡があり、それが乾いた上から書き直したのでしょう。

 少しお酒の匂いがするので、アルコールでにじませたのでしょうね。

 お粗末過ぎて、ちょっと笑ってしまいましたわ。


「夫のお相手はクラウディア・イブニン伯爵令嬢でしたわね」

 モナに確認すると「そうですね」とコクリと頷きます。

「やはりというか、流石というか……切羽詰まった方の行動は大胆ですね」

「切羽詰まったというのは、どういう事ですか? 伯爵令嬢なので、年齢やら本人の性質などを考慮しなければ身分的には問題ないかと」

 モナの発言に、リックが首を傾げます。

 ああ、まだ公には知られていないのね。

 私はモナにコクリと頷きます。

 リックなら話しても構わないというサインですわ。


「イブニン伯爵家は一見問題なさそうに見えますが、その内情は借金まみれです。理由は収入に見合わない贅の暮らしぶりでしょう。伯爵家の領地は決して豊かではありませんから」

 リックは驚きに目を丸くしています。

「しかし伯爵家は、夫人も令嬢も見事なドレスや宝石をいつも身にまとっています。毎日のように城に足を運び、それゆえ王太子の目にもとまったのではないですか?」

「そうでしょうね。令嬢も失礼ながら、二十四歳と決して若くはない年齢です。必死だったでしょうね」


 私は城で見かけたクラウディア様の姿を思い出します。

 もう少しで胸がポロリと零れそうなほど大きく広げた胸元に、体にぴったりと合ったドレスはお尻の形もしっかりと分かりました。

 大胆にスリットが入った足元は、ちらちらと太腿が見え隠れしております。

 細い首元には大きな宝石が飾られ、髪や耳、指にも宝石がゴテゴテとくっついていました。

 ある貴族が「どうして城に娼婦がいるんだ?」と言って、慌てて仲間が連れて行くという一幕もあったほどです。

 しかしその餌に、まんまと引っかかったのが我が夫、欲求不満のこの国の王太子でありました。

 正直、夫の相手の名前を聞いて大きく溜息を吐いたのは、一人や二人ではなかったはずです。


「一世一代の大勝負に、クラウディア様は勝ったのでしょう。称賛に値しますわ」

 私がほうっと息を吐くと、リックがいやいやと首を横に振りました。

「いや、単にエロガキを引っかけたというだけで……あっ、いえ……」

 自国の王太子をエロガキと評したリックは、慌てて頭を掻いています。

「そうですわね。殿下も閨指導がこの国にもあれば、あそこまで欲求不満にはならなかったかもしれませんわね」

「え、エイワード国には閨指導があるのですか?」

 私の言葉に驚くリック。

「昔はあったようですわ。今は、なさりたい方はなさるという感じでしょうか? 今の国王も王太子も愛妻家なので、そのような事はないかと存じます」

「……お二人共、その話はそれぐらいで」

 顔を真っ赤にしたモナが、私とリックの会話を止めました。

 少女の前でするような会話ではなかったと気が付いたリックは、慌てて頭を下げています。

 けれどその話し相手がここにいる誰よりも年若い私である事に、リックは気付いていません。


 モナは十六歳、リックは二十歳。

 どうやら閨の話は恥ずかしい事のようです。

 十二歳の私には、今一ピンときませんでしたが。

 そういえば昨日はその行為を、しっかりと見たのでしたわ。

 クラウディア様は私に見せつけるために、他者にも見られる覚悟で行為をしたのですわよね。

 そう考えると、やはり彼女は強者です。

 しかし私にはその行為は獣が戯れているとしか思えなくて、恥ずかしくも興奮も一切しませんでした。

 後学のため、しっかりと目には焼き付けましたけど。


「何はともあれ、四年後の離婚は確実に確定したのです。後はこの国の問題ですので、王太子妃に誰がなろうと私には関係ない事ですわ。私は四年後、円滑に離婚してこの国を去り、マルシアス侯爵家に戻って屋敷からお父様たちを追い出し、侯爵領を豊かにする。それに向けて頑張るだけですわ」

 私の決意にモナもリックも、コクリと頷きました。

 さあ、そうと決まればすぐにオーガに手紙を書かなくてはいけませんわね。




 その後、四年後に離婚が決まった私は、王太子妃教育を受けなくてすむ事になりました。

 本来なら婚約期間中に時間をかけて学ぶべき事でしたが、突然決まったこの婚姻では、半年という短い期間の婚約でしたので全てを学ぶ事が出来なかったのです。

 その上、私は他国の人間。

 さらに学ぶ事もあったのですが、私の祖国エイワードはこのサビティ国より大国です。

 侯爵家の娘とはいえ、淑女として恥ずかしくない程度には学習しておりました。

 当然、お父様は新しい家庭教師など雇ってはくださいませんでしたから、お母様の幼馴染のマリッサが教育係りとして、大切な事を全て教えてくれました。


 後はサビティ国の内情の勉強でしたがそれはこの二年の間、王太子妃の仕事が忙しいとか先に他国の言葉を優先したりとかして、のらりくらりと躱していたのです。

 うっかり内情を知ってしまうと、離婚しにくくなってしまいますからね。

 そうして夫の不貞が大々的にバレて、私は晴れて王太子妃教育から解放されたという訳です。



 しかしながら王太子妃教育はなくなっても、王太子妃としての仕事はあれからも毎日こなしています。

 執務室で書類に目を通している私の前には、あの会議以降、何故か頻繁に私の元に訪れるようになった宰相が、本日も同じ言葉を発していました。

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