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白い結婚のまま、さようなら ~女好きな夫との離婚は決定事項です  作者: 白まゆら


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トホホ、宰相の苦悩

 カール殿下を廃嫡すると決めた私たちだが、何故かその後はまともな様子を見せる殿下に苦悩する。

 カミュウ殿下の提案通りに、クラウディア嬢とカロリーナ嬢以外の女性関係を清算したカール殿下は、大人しく公務に取り掛かる日々を過ごしていたのだ。

 クラウディア嬢もカミュウ殿下に進まない王太子妃教育を馬鹿にされたのが悔しかったのか、ほんの少しだけだが成果を上げるようになってきた。

 それでもまだ、高位貴族令嬢にも届いていないが……。

 カロリーナ嬢も、あれから城に来る回数も減っているし、登城してもカール殿下と部屋に籠って大人しくしているようだ。

 あの時わざと処罰をせずに、どうせすぐにボロを出すだろうと様子を見ていたのだが、二人揃って問題を起こす気配がない。

 本来ならば喜ばしい出来事のはずだが、カール殿下を廃嫡したい今となっては、その行動が忌まわしい。


 そんな風にモンモンと過ごす日々を送り、埒が明かなくなったある日、カミュウ殿下を王太子に望む財務大臣が声を上げた。

「クレイン様に、カミュ殿下の伴侶になっていただくのはどうでしょうか?」

「何を言っているのだ? クレイン様は離婚を望まれていて、その方向で両国とも調整したではないか。今更、残ってくれなどと言えるはずないだろう」


「しかし、今回の件で皆様も気付かれたでしょうが、この国の王太子妃としてクレイン様ほど相応しいお方はいないでしょう」

 その言葉に、皆大きく頷いてしまった。


 大国の侯爵家という高位の家柄、王太子妃の執務を完璧にこなす能力、冷静に状況を判断し己の優位に持っていく力量、そして大国エイワード国に意見が主張できる存在、どれをとっても彼女が王太子妃として君臨してくれれば、これほど心強い事はない。

「それに、カミュウ殿下もクレイン様にはお心を許されているご様子です」

 やはりそこには皆、気付いていたかと全員で顔を見合わす。

 そうなのだ、カミュウ殿下は真面目な分、兄と違って簡単には女性に心を許さない。

 いや、あの兄の行動で女性嫌いになったのではないだろうか?

 とにかく女性に対して厳しい目を向けられるのだ。


 カミュウ殿下に強力な後ろ盾をつければカール殿下を廃嫡できるのではないかと、何度か高位貴族の令嬢との縁談を勧めたのだが、カミュウ殿下のお眼鏡は大変厳しいものだった。

 能力重視はもちろんだが、性格にも言及する。

 過去に少しでも過失があれば許さないし、それが噂程度であれば徹底的に調べて真っ白でない限りお許しにならない。

「国母になる女性に妥協は許されない。私は兄上のように馬鹿が可愛いなどとは思わない」


 十二歳の時にクラウディア嬢とカロリーナ嬢に会ってから、ますます酷くなられた模様。

 完全に馬鹿な女性には愛想笑いも必要ないという態度だ。

 そんなカミュウ殿下の姿には、高位貴族の令嬢たちも舌を巻いた。

 カール殿下の女好きにも辟易するが、カミュウ殿下の女嫌いにも困り果てたのだ。


 しかしそんな中、カミュウ殿下のクレイン様に対する態度だけは変わらなかった。

 いや、成長するにつれ甘い雰囲気が加わっているようにも見える。

 他の女性の姿になど目もくれないが、クレイン様が居ればかなりの距離であろうと走り寄って行く。

 いや、本当に走っている訳ではないが、格段にスピードが上がる。

 そして普段滅多に見せない笑顔で、挨拶を交わすのだ。

 相変わらずの無表情だが、雰囲気が柔らかくなったクレイン様にカミュウ殿下の頬は染まっている。


 まあ、元からクレイン様は美少女だったから分かる気はするが。

 一年、二年と成長に合わせて美少女っぷりが上がっているのだ。

 使用人を一掃してからは、本来の王太子妃に相応しい行き届いた管理がされる分、美しさにより一層磨きがかかったと思われる。

 そんな女性に、年頃の男が心惹かれぬ訳がない。

 二歳上の優秀で凛とした美しい女性。

 カミュウ殿下の理想の女性がクレイン様なのだろうと、皆が思わずにはいられないのは仕方がないだろう。


 それはカール殿下も同じはずだが、これはクレイン様による徹底した距離感が功を奏している。

 要するにカール殿下とは、カロリーナ嬢が問題を起こしてからお会いしていないのだ。

 だからこそ、この隙にカール殿下と離婚が成立すれば、今度はカミュウ殿下と婚姻関係を結んでいただこうというのが、財務大臣の言いたい事だったようだ。

 それは分かる。理想だ。だが、しかし……。


「あのクレイン様が簡単に頷いてくれますでしょうか?」

 外務大臣の発言に、全員が無言になる。

 そう、クレイン様はこの国に嫁いできた時から、いずれは国に帰るつもりで行動していたのだ。

 そのためだけに演技を貫かれ結果、我が国は弱みを握られた。

「しかも今は、エイワード国のヘイネス公爵が後ろ盾になっているご様子。クレイン様に無理強いをすれば、彼らを敵に回す事にもなるでしょう」

 ビクッと全員の体が跳ねる。


 ヘイネス公爵、彼らが来た日の事を思い出す。

 最初は平穏に、それこそ友好的な態度であった。

 それが一変したのは、カール殿下がやらかした後。

 カール殿下がヘイネス公爵、そのご子息ジアス様に無礼な態度を取ったのだが、その時はクレイン様が間に入ってくださったので問題はなかった。

 だがその後、再び訪れたヘイネス公爵がにこやかに、こう言ったのだ。


「クレイン様は私にとっては娘も当然な存在です。今まで彼女にこの国が何をしていたか、我々が本気で知らないとでも?」

 耳元で囁かれたその言葉に、汗が濁流のように流れた。

「まあ、それに関してはクレイン様との取引がなされたようなので、これ以上は申しませぬが、あまり舐めた真似はしない方がいいですよ。お馬鹿なのは恋に狂った馬鹿王子だけで十分です」

 笑顔の圧が凄い。

 流石、大国で一二を争う男だけの事はある。


 私が言葉を失っていると、公爵の息子のジアス様が微笑んだ。

「彼女がこの国に追いやられたちょうどその頃、母上の体調が優れなく、私たちは領地に籠っていました。その後すぐに身罷られてしまったので、クレイン様の状況に気付くのが遅れてしまった。まさか私たちが居ない留守を狙って、マルシアス侯爵が国王陛下にクレイン様を差し出すとは思ってもいなかった。私たちが居ればそんな策略など、すぐに阻止したというのに……」

 笑顔の下でスッと細めた瞳に、怒りが宿っているのが見えた。

 しかも神秘的なオッドアイの片方の瞳、黄色の方の瞳孔が何となく縦長に見えるのは気のせいだろうか?

 どちらにせよ、少年といえる年代の子息の圧が凄い。

 これは……容姿だけではなく中身まで親子そっくりな事がじわじわと伝わってくる。そんな二人に挟まれた私は気付けば体を震わせていた。


 震える私に気付いているのかいないのか、ジアス様は気にした風もなく話し続けた。

「私たちがクレイン様の実情を知ったのは、母上が亡くなった後です。マルシアス侯爵家の正統な後継者だと国王が知ったのも、その時です。ただ王太子夫妻は知っていたようですね。仮にも王女の代わりとして差し出した少女の身辺を調べるのは、上に立つ者としては当然の行為ですからね。ですが、それが分かったのは国王が許可した後です。今更、事を荒げる訳にもいかないと思った王太子夫妻は、それを胸に秘めたまま、せめてサビティ国でのクレイン様の立場が盤石なものとなるよう、結婚式に出席されたのです。それなのに貴方方は、そんなクレイン様を蔑ろにしていたとは……」

「ひっ!」

 笑顔から突如、ギロッと双方違う色の瞳で睨みつけられた私は、思わず悲鳴を上げてしまう。


「まあ、そちらもクレイン様との離婚は承諾されたのですから、これからは心を入れ替えて他国の要人として彼女を厚遇してください。ああ、表向きは王太子妃としての扱いで結構です。ええ、正当な王太子妃としての扱いです。間違ってもお飾り王太子妃などという扱いをされては、こちらも黙っていませんからそのつもりで。一応、定期的に確認に参ります。彼女が泣いていないかどうかをね」

 黒い笑みを向けるジアス様に、私はとうとう尻を床に着けてしまった。

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