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白い結婚のまま、さようなら ~女好きな夫との離婚は決定事項です  作者: 白まゆら


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むむむ、宰相の苦悩

 カール殿下のお相手の名前を聞いて、皆が眉間に皺を寄せた。

 これほど適した相手はいないが、これほど悪い相手もいないのだ。


 彼女は殿下の六歳上で、この国でも五本の指に入る優れた肢体の持ち主である。

 しかし彼女は、その優れた肢体を惜しげもなく公に晒している。

 貴族令嬢でありながら、娼婦かと間違うほどの色気を城中に振りまいているので有名な女性。

 ハッキリ言おう。

 カール殿下の愛人ならば適している。だが、これが本気の愛で彼女を王太子妃に据えるとなると、彼女では力不足なのだ。

 能力は普通の令嬢以下であろう。

 王太子妃の執務は任せられないだろうし、公務も任せられない。

 他国の王族に色目でも使われたら、それこそ大問題になる。


 そんな女性が相手となると、これは浮気とかどうとかいう問題ではない。

 まずはカール殿下の真意を探らねばならないだろう。

 それも短気で切れやすい殿下をなだめながら。


 私たちは全員が落ち着いた状態で話せるように明日、改めて全員を招集する事にした。

 その際に、初めて相手を知ったかのような振る舞いをして、カール殿下の真意を探る。

 クレイン様のケアも忘れてはいけない。

 まあ、彼女ならいつものように何も言わずに我々の出した結論に従ってくれるだろう。

 彼女が嫉妬して暴れる姿など、まるっきり想像できないからな。

 これは内々で片付ける。

 決してエイワード国の耳には入らないようにしなければならないのだ。



 ……そう思っていたのに、信じられない事が起こった。

 「はい」と「いいえ」しか言わないあのクレイン様が、初めて長い言葉を喋ったのだ。いや、違う。そうじゃなくて、彼女が〔り・こ・ん〕の三文字を口にしたのだ。

 りこん? 何、それ、美味しいの?

 その場にいる全員が、現実逃避した。

 いやいやいや、待て待て待て。

 あの無表情のクレイン様が歪な笑顔を浮かべてまで、成人したら離婚すると口にしているのだ。

 唯一の救いはカール殿下の浮気は内密にして、あくまで子ができないのと性格の不一致で通してくれるとの事。

 それならばこちらの一方的な落ち度ではなくなるので、国同士で揉める事もない上に多額の賠償金も払わなくて済む。

 まあ、六年間夫婦であったのだから多少の金額は払うが、それでも落ち度のある賠償金とは桁が違ってくるのだ。

 しかも周辺国にも言い訳が立つ。

 それはありがたい。心底ありがたい。だが、しかし。


 クレイン様は将来設計をしっかりと立てていた。

 よくよく聞けばクレイン様の実家の侯爵家には、今現在正当な血筋の後継者が一人もいないとの話。

 だから離婚して自分が跡を継ぐ、という事なのだが、これは彼女が最初からその計画で行動していたのでは⁉ という疑惑を抱かせた。

 何故なら今、皆の前で話している彼女はどう見ても人形姫などには見えないのだ。

 生き生きとした大人びた令嬢。

 キッパリと言い切る姿には、見惚れてしまう。

 まさに王太子妃の風格を持った少女なのだ。


 これは絶対に手放してはいけない!

 全員がそう思った瞬間、うちの馬鹿王子がまたやらかした。

 クレイン様の提案に乗ってしまったのだ。

 愛人の体を好きだとほざいた挙句、王太子妃に相応しい金の卵をいとも簡単に捨てると言った。

 ようするに離婚を受け入れたのだ。

 もう、口をあんぐりと開くしかない。


 そんな中、財務大臣が進まない話を無理にでも進めるために離婚に乗ったフリをした。

 その上で、クラウディア嬢には王太子妃は無理だと口にして、他の令嬢を考える素振りをする。

 駆け引きのつもりなのだろう。

 こちらが引けば、少しはクレイン様が焦ると思ったのかもしれない。

 子供の言う事だから本気ではない、と高をくくったのだ。

 だがこれは悪手だった。

 クレイン様はあっさりと引き、後は自分には関係ないと言わんばかりに退出された。


 そして私には、今までのクレイン様に対しての仕打ちで脅してきた。

 考え直してほしいと縋った私が悪かったのだが、彼女は円満離婚できないのなら貴族の態度や使用人による虐めなどを諸国に暴露すると、口にしたのだ。

 いや、ハッキリとは口にしていない。

 だがそれらが含まれた言葉に、私は彼女の意思を尊重するしかなかった。


 ここで初めて、私が彼女の本質を見誤っていた事に気が付いた。

 彼女はこの国に嫁いできてから二年間、ずっと演技をしていたのだ。

 どんな仕打ちをされようとも決して表情を変えない人形姫。

 その内なる思いは、いかなるものだったのだろうか?

 これではうちのカール殿下など、相手にもされないのは仕方がない。

 体だけは六歳上の大人だが、心は子供。

 頭だけは悪くないので王太子としての仕事はこなせるが、欲求に弱い。

 下半身に引きずられてすぐにお馬鹿になってしまう姿を見て、体は子供だが心は大人の彼女が、殿下をどういう目で見ていたのかと思うと、ゾッとする。


 あ、詰んだ。


 私はできるだけ彼女の意思に沿おうと決めた。


 そうして、その後もカール殿下は色々とやらかしてくれた。

 エイワード国の公爵に無礼を働いたり、クラウディア嬢一人では飽き足らず女を次々と増やしていったり。

 もうこれではクレイン様が内密にしてくれると約束してくれた浮気も、諸外国に知れ渡った今では、全く隠せなくなってしまった。

 完全にこちらの国の落ち度による離婚は確定。

 だがクレイン様が親しくされている公爵の恩情で、どうにか離婚は平和的に進められそうだ。

 エイワード国がクレイン様の意思を尊重すると約束してくれたので、そのクレイン様が円満離婚を望まれている以上、賠償金などはいらないとの事で話を進めてくれたのだ。

 全くもってクレイン様、さまさまである。


 これはもう一日でも早く、国内から王太子妃に相応しい相手を見つけようと頑張っていた我々だが、それを横目にカール殿下が次々にロクでもない女に手を出すから、なかなか先に進めない。


 ようするに我々が見付けた王太子妃候補の令嬢が、カール殿下の女遊びに拒否反応を示しているのだ。

 中には女遊びは気にしないが、相手が悪いという令嬢もいた。

 あれらと同類に扱われるのは矜持が許さないと言う。

 彼女たちの意見は、もっともだと思う。

 とにかくカール殿下は豊満な肢体の持ち主ばかり選ぶのだ。

 頭の中や性格は別物。

 その結果、家柄も含めると最初に浮気したクラウディア嬢が一番マシだというのだから、恐れ入る。


 その中でも一番新しい令嬢は、本当に酷かった。

 カロリーナ・ナロス男爵令嬢。

 家柄も礼儀も何もかもが及第点。肢体も今までの浮気相手の中では一番、貧相だ。

 顔はまあ、可愛らしいとは思うがクラウディア嬢や、ましてクレイン様には到底叶わない。

 それなのにカール殿下は夢中だ。

 何がそんなにいいのか分からないが、とにかく彼女が王太子妃になるなど、絶対にありえない話である。

 仕方がないのでクラウディア嬢に王太子妃教育を続けさせているが、虚しい事にこれもまた一向に進む気配がない。


 頭を抱える中、今度はこの男爵令嬢がやらかした。

 何とカール殿下の弟君、カミュウ殿下に無礼を働いたのだ。

 その前にはクレイン様とクラウディア嬢にも喧嘩を売っていたようだと聞いた時には、一国の宰相として渡り歩いてきた流石の私も頽れてしまった。


 その男爵令嬢は、国王夫妻の前でも一向に悪びれた様子も見せず、あろう事か皆の前でカール殿下を篭絡させてしまった。

 これはもう、カール殿下を王太子の座に置いている事さえ無理になってきた。

 あんな女にいいように使われているようでは、この国を任せられるはずがない。

 幸いにも弟君であるカミュウ殿下はカール殿下より優秀だし、性格も王に相応しい。

 我がサビティ国は代々長兄が国王になってきたが、これはその規定を覆す必要がある。

 二人の世界に入ってしまったカール殿下と男爵令嬢を見ていた全員が、決意を新たにした。

 今度カール殿下が何かをしでかしたら、問答無用で廃嫡すると。

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