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白い結婚のまま、さようなら ~女好きな夫との離婚は決定事項です  作者: 白まゆら


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24/30

はぁ、一度殴りましょうか

 突然発した夫の意味不明な言葉に、部屋の中の全員がポカンとしています。

 今この人、なんて言いました?

 聞くはずのない言葉を耳にした私は、あまりの衝撃に動けなくなりました。

 ジアス様が額を押さえて暫く黙考した後、夫に真意を確かめます。

「何の冗談ですか、カール殿下。こちらの国も我が国も、お二人の婚姻を解消するために動いております。今まで真面に接触さえされなかったのに、何を今更血迷った発言をされているのですか?」

「煩い! お前には関係ない! これは夫婦の問題だ」

 ジアス様の苦言にも、夫は怒鳴るだけで要領が得ません。


「関係ないはずないでしょう。お二人の夫婦関係は国同士の問題です。そして国同士で決めた婚姻解消を、今更しないなど軽口でも言っていい事ではありません」

「軽口じゃない。俺は真剣だ。今決めた。俺はクレインとは離婚しない。こいつはサビティ国の王太子妃。そしていずれは王妃になるのだ!」

 ……ふざけた事しか言わないあの口を、どうしたら塞ぐ事ができるのでしょうか?

 私は拳を握ります。

 脳内ではすでに百発は殴り倒しています。

 私はモナに目配せして、宰相を呼んでくるよう命じました。


 モナが踵を返して部屋を出て行こうとした瞬間、件の宰相が扉の前で呆然と立ち尽くしておりました。

 おお、なんてタイミングが良いのでしょう。

 宰相はフラフラと部屋に入って来ると、夫に視線を向けました。

 夫はバツが悪そうに、顔を背けます。


「クレイン様の執務室にカール殿下が向かったと知らせを聞き飛んで来てみたら、これは一体どういう事ですか? クレイン様と離婚しない? 王妃になる? カール殿下は女とやり過ぎて脳まで下半身に侵食されてしまいましたか?」

「失礼な事を言うな! 誰が脳まで下半身だ⁉」

 ――何ですか、この下品な会話は?

 これが城内で、しかも年頃の令嬢の前でする会話ですか?

 まあ、数年前にしっかりとモノは見させてはいただきましたが。


 ジアス様がそっと両手で私の両耳を押さえました。

「こんな下品な会話は聞かなくていいですよ。クレイン様の可愛いお耳が腐ります」

「はい、ジアス様のお言葉だけを聞き取るようにいたしますわ」

 ニッコリと微笑み合う私とジアス様に、宰相と下品な言い争いをしていた夫が呆然といたします。

「……クレイン、お前、そんな表情もできるのか?」

 何を言っているんですかね、この猿は。本当に脳まで下半身に……ケホンケホン。

 年頃の乙女としては不適切な言葉を言いそうになりました。

 私は夫にジト目を向けます。


「仰ってる意味がよく分かりませんわ。とりあえずその書類に印は押せませんので、用がお済なら早くお帰りください。私は母国より、わざわざ様子を見に来てくださったジアス様とお話があります」

 私がそう言うと、夫はハッとして先程の書類を隠そうとしましたが、それを夫の護衛騎士がサッと奪って宰相に手渡ししました。

 宰相の顔色が変わります。

 ホホホ、異国の言葉にありました。これを四面楚歌というのでしょうね。


 宰相が書類を握りしめ、夫に問います。

「これは、女性物のドレスや装飾品の請求書に見えますが、何故これらをカール様がクレイン様に印を押すよう仰ったのですか?」

「……………………」

 夫はそっぽを向いて黙り込みます。

 しかし子供ではないのですから、黙っていたって現状は好転いたしませんよ。

 私はわざと溜息を吐いて、代わりに答えてさしあげる事にいたしました。

 だって早く部屋から出て行ってほしいですからね。


「私がサインと印を押せば、王太子妃の経費から支払われると考えたようですね。因みに当然ですが、それらは私に関係のない物ばかりですわ」

 一応、誰のプレゼントか名は伏せておきます。

 私のではないという事だけお伝えすれば、馬鹿ではない限り自ずと分かりますでしょう。

 宰相が夫にジト目を向けます。


 夫は私が暴露した事で一瞬険しい表情を向けましたが、すぐにポッと顔を赤らめて食い入るように見つめてきます。

 本当に何でしょうかね、気持ちが悪い。

 そんな私の腰に手を回したジアス様が、そっと私を背に隠されました。

 宰相が現れた事で少し前に出過ぎたようです。

 夫の視線に汚されるというように庇ってくださるジアス様に、胸がキュンとしてしまいます。


「……おい、その手はなんだ? 俺の妻だぞ」

 夫がジアス様を睨みつけます。

「いい加減にしなさい! 先程からカール殿下は何を仰ってるんですか⁉ 他の女に送る物の代価をクレイン様に払わせようとするなんて。こんな事までしておいて妻と呼ぶとは、クレイン様を馬鹿にしておいでなのですか?」

「馬鹿になどしていない。愛している!」

 宰相の怒声に夫が返した言葉は……馬鹿でした。

 本当に脳まで下半身になったようです。

 年頃の乙女とか、もうどうでもいいですわ。

 部屋にいる全員がポカンとしていますもの。


 そんな中、宰相が絞り出すような声で「カール殿下」と名を呼びます。

 夫はハッとして口元に手を当てると、あわあわと慌てふためきました。

 しかしすぐにコホンと咳払いをすると、赤い顔のままそっぽを向いて答えました。

「クレインに惚れた。このまま離婚はせずに王太子妃を継続させ、いずれは王妃にさせる。そう父上に伝えよ」

「馬鹿ですか―――――?!?」

 か―――?!

 か――?

 か―っと、宰相の悲鳴に近い叫びが部屋中、いえ、城中に反響します。


 最近は仕事も真面目にするようになって、女遊びもクラウディア様とカロリーナ様だけにしたのでカミュウ殿下に王位を奪われたとしても、どうにかやって行けるでしょうと少しだけ安堵していたのに、私のミミズよりも小さい情を返してください。

 宰相がガクリと頽れたと同時に、夫が私に向かって歩いてきます。

 ハッとした宰相が護衛に命令します。

「カール殿下をお止めしろ! クレイン様に近付けるな!」

 それと同時に、ジアス様がしっかりと背中に庇ってくださいます。

 護衛騎士二人が夫を止めると、彼は騎士に怒鳴りつけました。

「おい、誰に向かって手を出している⁉ 離せ! 俺は妻に話があるんだ!」

「カール殿下を離すな! ジアス様、クレイン様を自室へお連れしてください。お願いします」

「承知した」

「あ、待て! いくな、クレイン。俺の話を聞け!」


 護衛騎士二人が夫を止めている間に、宰相がジアス様に私を逃がすようお願いします。

 それにジアス様が応じて、モナとリックを連れて四人で部屋を後にしました。

 その背に夫の叫び声が聞こえますが、獣の唸り声にしか聞こえません。

 やっとあと半年となったところで、これは一体なんの茶番だと、私は頭を抱えそうになりました。


 自室に到着した私は、息を整えます。

 これほど全速力で走ったのは、いつぶりでしょう?

 家族に虐められていたので普通の令嬢よりは体力があるつもりですが、それでもこれは流石に疲れました。

 ジアス様の手によって、優しくソファに座らされます。


「今のは一体、何だったんでしょうか?」

 ジアス様が首を傾げます。

 息が一切乱れていないのは流石ですね。

 リックもすぐに扉の鍵を閉めて外の様子を覗っている姿は、流石騎士様です。

 モナと二人で深呼吸しながら、先程の出来事を考えます。

 するとモナが「僭越ながら」と私の代わりに、ジアス様の質問に答えてくれました。


「おそらくカール殿下は今までクレイン様を子供だと相手にせず、真面にお顔すら見ていなかったのではないでしょうか。それが先程、クレイン様のお胸を見て改めて大人になったクレイン様に一目惚れされた、という事ではないかと」

「「は?」」

 ジアス様と私の声が重なりました。

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