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白い結婚のまま、さようなら ~女好きな夫との離婚は決定事項です  作者: 白まゆら


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23/30

はっ、猿が何か言ってますわ

 突然訪ねて来た夫を不信に思いながらも、こんな廊下で揉めている訳にはいきません。

 正直、部屋に入れるのは心底嫌ですが、自室ではないのでここは諦めるしかないでしょう。

 私はモナに合図して扉を開けるよう促します。

 モナは仕方がないという風に、扉の鍵を開けて夫を室内に招きました。


 室内に入ると、夫は持っていた書類を乱暴に机の上へ置きました。

「これに署名と印を押せ。俺を待たせるな」

 そう言って机の後ろにある窓まで歩くと、外を眺めます。

 私と顔を合わせたくないという事でしょう。

 背中を向けている夫に呆れていると、リックが書類を手にして私の方に持ってきてくれます。

 とりあえず何の書類かを確かめます。

 むやみやたらにサインなど、できませんからね。


 そうして私は絶句しました。

 その書類はドレスと宝石の請求書だったのです。

 それもかなり高額な。

 私は軽い眩暈を起こします。

 横から覗き込んでいたモナとリックも呆然としていました。


「……殿下、これは一体どういう事でしょうか?」

 私は夫に訊ねます。

 正直言いますと、これが何を意味するかは想像できました。

 どうせクラウディア様かカロリーナ様かのプレゼントでしょう。

 しかしどうしてその請求書に、私がサインしなければならないのでしょうか?


 夫は窓の外を眺めながら、抑揚のない声で答えます。

「お前の印があれば、その費用は王太子妃の予算から引き落とされる」

「ですから、どうして私が身に覚えのない宝石などの費用を払わなければならないのですか?」

「煩い! どうせお前とはすぐに離婚するのだ。次の王太子妃はカロナなのだから、王太子妃の予算を先に使って何が悪い⁉」

 夫は窓に向かってそう叫びました。

 いい加減こちらを向いてくれませんかね。

 あ、いや、別に顔を見たい訳ではないので、このままでいいです。


 私はリックに、書類を机に戻すよう目配せします。

「でしたら、そう宰相にお伝えして彼を通してください。宰相が納得しましたら、私も印を押しましょう」

「なっ、何であいつを間に挟まなくてはいけないんだ」

「何を今更? 今までも、ずっとそうしてきましたでしょう」

「あいつは関係ないだろう。だいだいお前は……あー、人が下手に出ていたら調子に乗りやがって。その反抗的な態度が昔から気に食わなかった……」


 窓に向かって叫んでいた夫が、その体制で私に文句を言うのには無理があるとやっと気付いたみたいで、勢いよくこちらを振り返りました。

 そうして文句を言い続けていた夫が私と視線が合った途端に、ピタッと言葉と動きを止めたのです。

 いえ、視線は合っていませんでしたね。

 夫は私の胸に釘付けになっていましたから。

 失礼ですね、人の胸をマジマジと見るなんて。いくら夫でも無礼ではないでしょうか⁉

 そうして一分ほど固まっていた夫が再び動き出しました。


「ツルペタどこ行った~~~~~⁉」


 本当に失礼な人です。

 私の胸を凝視しながら、夫が十二歳の時の私の胸の状態を叫びます。

 この方は何を言っているのでしょうね。

 貴方が年を取れば私だって取るのです。

 離婚まであと半年という事は、成人を迎えるのだって半年後という事です。

 そう、今の私は十五歳なのです。

 いつまでもツルペタなはずがございません。

 クラウディア様ほどではございませんが、私だってそれなりに背も手足もお胸だって成長するのです。

 成長期をなめんな、ですよ。


 呆然と胸を見つめていた夫の視線から、扇で胸を隠します。

 いやらしさは感じませんが、不快ではあります。

 すると弾かれたように夫が顔を上げました。

 そうして今度は本当に、視線が合いました。

 夫はまたもや目を大きく開いております。

 何をそんなに驚いているのでしょうか?

 夫の奇行に、物理的に引いてしまいます。


 そんな私の前にモナとリックが立ちはだかりました。

 不躾な夫の視線から、私を隠してくれたのです。

 すると夫はハッとして、二人に怒鳴りつけました。

「邪魔だ! そこをどけ!」

「申し訳ありませんが、カール殿下とクレイン様が接触する事があれば邪魔をするように、陛下から厳命されております」

「は? なんだ、それは? 俺たちは夫婦だぞ!」

「半年後に離婚する夫婦でございましょう。申し訳ありませんが、殿下のご命令は聞けません」

 リックとモナが畏まりながらも、キッパリと言い切りました。


 そんな二人に夫がキレます。

「おい、お前たちは飾りか⁉ 俺の護衛なら、こいつらをどうにかしろ!」

 夫が自分の護衛騎士に、リックとモナの排除を命令します。


 身構えるリックではありましたが、護衛の騎士は動きませんでした。

 そうして夫に頭を下げます。

「我々も陛下よりご命令が下っております。カール殿下とクレイン様を接触させないようにと」

「何⁉」

 驚く夫に、騎士の二人は平然と答えました。

「先程その侍女が申しました通り、クレイン様との離婚は決定事項だと。とすれば、クレイン様はエイワード国の要人として丁重に扱わなければなりません。カール殿下の好きに扱ってよいお方ではないのです」

「俺たちは夫婦だぞ、顔を見るぐらい何の問題がある?」

「申し訳ございませんが、殿下の先程からの態度からして、クレイン様に無体を働かないとは言い切れません。これ以上無理を言われるのであれば、陛下に報告しなければいけなくなります」

「なっ!」


 夫と夫の護衛騎士二人が睨み合います。

 あらあら、護衛対象を睨むなんて、なんて素敵な騎士様でしょう。

 今まで夫と接触がなかったから分からなかったけれど、陛下はちゃんと私に夫を近付けないという約束を守ってくれていたのですね。

 そんな騎士様の姿に私が安堵していると、開いていた扉から私が待ち望んでいた声が聞こえました。


「これは一体、何事ですか?」

 ジアス様です。

 キラキラと眩い光を振りまいて、ジアス様が私を見てニッコリと微笑みました。

 夫が部屋の一番奥の窓の側に居て、その前に夫の護衛騎士二人、そしてリックとモナ。その後ろに私は隠されていたので、扉から入って来たジアス様に一番近い場所にいた私は、ジアス様にててっと駆け寄りました。


「ジアス様、よくいらしてくださいました」

「クレイン様、お変わりはございませんでしたか?」

「ええ、お陰様で体調には問題ございません」

「それは良かった。暫く来られなかったので、心配していたのです」

「まあ、気にかけてくださって嬉しゅうございますわ」

「おい、夫を無視するな!」


 ジアス様と久しぶりの語らいを楽しんでいたら、夫が端から叫んできました。

 煩いですね。

 邪魔者は早く帰ってほしいものです。

 私がそんな視線を夫に向けていますと、ジアス様が朗らかな声で夫に話しかけました。

「カール殿下、御無沙汰しております」

「……貴殿は俺の妻と、どんな関係なのだ? 頻繁に我が国に訪れて、暇なのか?」

 夫がとても失礼な口を吐きます。

 しかもわざわざ妻などと言って、不貞を疑うような言い草ですね。

 ジアス様になんて失礼な、と叫びそうになるのをグッと堪えます。

 いけません、いけません。私が取り乱したら動揺しているとみなされて、ますます疑われてしまいます。


 私は努めて冷静にコホンと咳払いをして、夫に振り返ります。

「ジアス様はお忙しい時間を割いて、私の様子を見に来てくださっているのです。母国で私の身を案じてくださっている高位な方もいますので、その方たちの名代としてですわ」

 私がそう言いますと、夫が私を遠くから首を伸ばして見てきます。

 モナたちの背中から出てジアス様に近付いたので、私の姿が良く見えるのでしょう。

 私はツンッと文句があるかというように、背を逸らして夫を見ます。

 すると夫の顔が、見る見るうちに赤くなっていきました。

 背を逸らしたので、お胸が強調されてしまったのかしら?

 嫌だわと、スッとジアス様に近付きます。


 ジアス様は私を安心させるようにニコリと微笑んで、夫の視線から私を隠してくれました。

 その仕草が何とも自然で、思わず見惚れてしまいます。

 そうして私の代わりに夫と対峙してくれました。

「カール殿下、クレイン様に何かご用でしょうか?」

「夫が妻の仕事場に居て悪いか⁉」

「悪いですね。カール殿下とクレイン様は名ばかりの夫婦であって、それもあと半年もすれば解消される間柄です。今更お二人で話す事など……」

「解消はしない」

 は?

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