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白い結婚のまま、さようなら ~女好きな夫との離婚は決定事項です  作者: 白まゆら


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19/19

うーむ、タイミングの悪さよ

 クラウディア様にも少しは常識があったようなのですが、その常識を全くもっていないのがカロリーナ様のようです。

 節操がないと申し上げたらよいのでしょうか。

 クラウディア様に注意されてもケラケラ笑っています。

「何よ、クラウディア様には関係ないでしょう。別に関係を持ちたいって言ってる訳じゃないし、ただ少しお話したいだけじゃない。それであちらがどんな感情を抱くかは、知らないけれど」

 まるでお話すればジアス様が落ちると言っているような言葉に、私はカチンときます。

 ジアス様を夫と同じように考えないでください。

 あの方をそんな風に扱うのは許しません。


 私が反論しようと口を開きかけた正にその時、後ろから少し幼い少年の声が聞こえてきました。

「こんな所で何か揉め事か?」

「うっ、クレイン様にクラウディア嬢、それにカロリーナ嬢までいるとは……」


 護衛を二人連れて現れたのは十二歳になる夫の弟、第二王子のカミュウ殿下と宰相でした。

 宰相は私たち三人を見て、一瞬にして渋い顔になりました。

 お気持ちは分かります。

 私もこんな所に居たくはありませんでしたよ。


 カミュウ殿下は私に気付くと、嬉しそうに微笑まれました。

「こんにちは、クレイン様。執務室に向かわれる途中ですか?」

「ご機嫌麗しく、カミュウ殿下。ええ、そうですわ」

「では、この方たちが邪魔をしているという事でしょうか?」

 私に微笑みながらそう訊ねられたので素直に頷くと、突然ギロリと私以外の方を睨みつけられました。

 人懐っこい笑顔のイメージがあったので、いきなりの豹変にちょっと驚いてしまいます。


「わ、私はたまたま通りかかって……」

「私もです」

 クラウディア様もカロリーナ様も、たじたじとなっております。

 しかしこのお二人は、殿下にも挨拶なさらないのですね。

 ある意味、凄いです。

 カロリーナ様の友人たちは大物の登場に隅で縮こまっています。

 はい、そのままこちらに来ないようにしてくださいね。


 殿下は二人を睨みつけたまま吐き捨てるように仰います。

「それならさっさとお戻りになられては? クレイン様は貴方たちと違って遊ぶ暇もないくらいお忙しいのです。誰かの所為でね」

 キッパリと言い切る弟王子に、私は目を丸くします。

 このような冷たい対応を取っている姿など、見た事がなかったのです。


「い、忙しいのはお互い様ですわ。私も王太子妃教育に毎日奔走しています」

 あら、クラウディア様が珍しく男性に噛みつきました。

 彼女は男性の好意を上手に利用して立ち回る方ですから、殿方に反論するような事は滅多にされません。

 明らかに格下とか利用できそうにない使用人とかなら分かりますが、カミュウ殿下は富をくれる夫の弟王子。

 媚びへつらう相手のはずですが、十二歳と子供なので彼女にとっては守備範囲外なのでしょうか?


 そんな事を考えていると、カミュウ殿下がハッと鼻で笑いました。

 私はまたもや目を丸くしてしまいます。

「王太子妃教育ねえ。貴方のは教師を雇うというお金を出して行っている行動。クレイン様は仕事としてお金を稼いでいます。同じ時間を使っても支出と収入では、有用性が違うと思いますが。それにその大切な教育も、全く進んでいないと聞いていますよ」

 クラウディア様が怒りで顔を真っ赤にされます。


 まさか十四歳も下の子供に論破されるなど、思ってもいなかったのでしょう。

 私には、まだ間に夫という者が居ますから彼の愛の比重をネタに勝ち誇る事ができますが、カミュウ殿下相手ではそのような事、全く意味がありません。

 ただ普通に子供に論破されたという事実だけが残ります。

 悔しさのあまりから、クラウディア様は扇を折ってしまいました。


 そんな様子を見ていたカロリーナ様が、カミュウ殿下に近付きます。

「カミュウ殿下は厳しい事を言うのね。カール様とは大違い。そんな態度をとっていると女の子に嫌われますよ」

 えい、親しいお姉さんからの忠告だぞ、とでもいうようにカミュウ殿下の鼻をチョンと突きます。

 え、この人、馬鹿?

 空気の全く読めないカロリーナ様に、周囲が震えあがりました。

 公の場で王族の顔を触るなんて、どれだけ無礼な行いでしょう。

 これが夫でも、彼女と夫の間がどれほど親しかろうと本来なら、絶対にとってはいけない行動なのに、それを全く関係のない王子に仕掛けたのです。

 いくら相手が十二歳でも関係ありません。


 カミュウ殿下の眼が据わり、宰相が頭を抱えてしまいました。

「私は貴方とは初対面のはずですが……」

 十二歳とは思えないほど低い声を出すカミュウ殿下。

 ですがカロリーナ様は、彼のそんな態度も気にせずキョトンとします。

「え、カール様の弟でしょう。だったらいずれ私の弟になるのだから、そんな事は気にしないで。あ、もしかして照れてるの? 女の子にこんな事されたの初めて? フフ、可愛いわね」

 彼女の距離感はどうなっているのでしょうか?

 初対面の私にはお友達と言い、同じく初対面のカミュウ殿下には弟と言っています。


 カミュウ殿下が、後ろにいる宰相に訊ねます。

「これは?」

「……カール殿下が今一番、可愛がっている愛人です。カロリーナ・ナロス男爵令嬢です」

「兄上の趣味の悪さには以前から呆れていたが、とうとうここまで落ちたか」

「はい。選ばなくていい相手をわざわざ選んでいるようにしか思えません」

 カミュウ殿下と宰相がうんざりというように話しています。

 私もお二人には同意見ですね。

 どうせ愛人を作るなら、もっと家柄的にも性格的にも素晴らしい方がいらっしゃるでしょうに。


 ですがカロリーナ様にはお二人の嘆きは理解できないようで、またもや殿下に絡もうと側に寄ります。

「もう、二人で何をお話してるんですか? 私も混ぜてください」

 しなを作るカロリーナ様の前に、宰相が立ちはだかります。

「カロリーナ・ナロス男爵令嬢。不敬罪です。ここで捕まるか、後ほど男爵家に抗議するかどちらがいいですか?」

「え?」

 宰相の言葉にカロリーナ様が驚きます。

 それでも何を言われているのか分からないようで、しきりに首を傾げます。


「何を言ってるんですか? 私はカール様に寵愛されているんですよ。なんで不敬罪なんて言われないといけないんです? カール様を呼んでください」

 夫が助けてくれると信じて疑わないカロリーナ様は、夫をここに呼べと叫びます。

 当然のように王族を呼びつけようとするなんて、それも不敬だと気付かないんですかね。

 カミュウ殿下の合図で護衛騎士が取り押さえようとすると、カロリーナ様は腕を振り回します。


「ちょっと何をするの? カール様に言いつけるわよ。貴方、カール様の弟なんでしょう⁉ 弟が兄に逆らっていいと思っているの?」

「貴方は何を勘違いしているのですか? 貴方はただの男爵令嬢。こちらはこの国の王子様なのですよ」

 宰相が間に入ってカロリーナ様を窘めます。

 ですが眉を顰めた彼女は、意味が分からないというように首を横に振ります。

「だからカール様の弟よね。いずれはカール様の下で働く、ただの駒でしょう。優しい言葉さえかけていれば尽くしてくれる、優秀だが単純な駒だと、カール様が言ってらしたもの」

「!」


 信じられない事を暴露しました。

 言っていい事と悪い事が一つも分からないなんて……。

 ああ、もう本当に夫の趣味は最悪です。


 険しい顔つきになるカミュウ殿下と顔を右手で覆う宰相。

 これはカロリーナ様だけの問題で、済まなくなりました。

「今の言葉、聞いたな。ここにいる全員を証人とする」

 カミュウ殿下の言葉に、私たちは頭を垂れます。

 クラウディア様も青い顔をしたまま、頭を下げました。

 ただ一人、まだ意味が分かっていないカロリーナ様だけがぷっと頬を膨らませていました。


 まあ今回は所詮、閨での語りとして注意だけに留まると思いますが、一応カール様の汚点として残る事にはなるでしょう。

 ジアス様が仰っていたようにカミュウ殿下が私を見初める事などないでしょうが、王太子の交代劇はあるかもしれません。

 妻と愛人二人の井戸端会議で夫は窮地に立たされます。

 まあ、自業自得ですけどね。


 あ、離婚前に交代させられたら私はどうしたらいいのでしょう?

 王太子でなくなった夫について行く気はさらさらないのですが、成人にならないと侯爵家は継げません。

 実家には帰らずにそれまでどこかに匿っていただこうかしらと考えた時、ジアス様の顔が脳裏に浮かびました。

 ヘイネス公爵なら喜んで受け入れてくれそうです。

 あら、また甘えてしまいましたね。

 いけないわ、すっかり甘え癖が付いてしまって、と頬を押さえながらもヘイネス公爵家で公爵とジアス様と幸せに暮らす姿を想像してしまいます。

 きっとそれは私の今までの経験では味わった事のない、平穏な日々になるでしょう。

 甘い誘惑に負けそうになった私は、パシンと頬を叩いて身を引き締めます。


 実戦はまだまだ先ですが、お父様と義母、異母妹の悪行の証拠は着々と集まっています。

 私が次期侯爵として継ぐ事の親戚筋の快諾も得ました。

 我が国の国王陛下、王太子殿下の承諾も高位貴族の根回しもヘイネス公爵が進めてくれています。

 後二年、早く時が経つのを待ち焦がれながら私はその時が来るのを心待ちにします。


 待っていてくださいませ、お父様。

 貴方の実の娘が、貴方をあの家から追い出してごらんに入れます。

 くだらない貴方の勘違いで、貴方が私を追い出したように。

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