うーん、イラっとします
本当の妹のように思ってくださるのは大変嬉しいのですが、ジアス様は私を買い被りすぎです。
こういう発言を、シスコンと呼ぶのかもしれませんね。
そうでないと、ここまでの事は言えないでしょう。
私を綺麗などと、可愛いなどと、魅力的などと……。
私はじわじわと頬が熱くなっていくのを感じました。
「あ、あの、ジアス様。その、心配してくださって、ありがとうございます。仰る通り気を付けるようにいたします。あの、ジアス様の方はその後、お変わりございませんか?」
私は熱くなる頬を押さえながら、この話題を変えてしまおうと、ジアス様の現況をお聞きしました。
すると、ジアス様は少しだけ眉根を寄せました。
その少しだけの表情に、私は敏感に反応してしまいます。
「何かお困り事でもありましたでしょうか?」
「いや、困ったというほどでないのですが、キャスカ嬢がね……」
その名前に私は不快感を表します。
あの子はまた、ジアス様に迷惑をかけているのでしょうか?
キャスカは私の異母妹なのですが、以前にジアス様に婚約を打診してキッパリ断られています。
それなのに、その後も何かとジアス様に接触しているようで、ここ最近では実害も出ているようなのです。
「以前もお茶に誘われて、断ったら泣かれたのですよね」
「ええ、城内で待ち伏せされて声を掛けられたので断ったのですが、大泣きされて注目を浴びました。困り果てた私に、ちょうど一緒に居た友人が自分と先約があると引っ張てくれたので、その場を離れる事ができました」
「その前は後ろから走って来て、体当たりされそうになったとか」
「ええ、嫌な気配を感じたのでサッと避けたら、そのまま転んでしまいました。彼女が起き上がらないうちに気付かないフリをして走って逃げました」
「今度は何があったのですか?」
私の問いに、ジアス様は苦笑します。
「街中で悲鳴が聞こえたので覗いてみたら、彼女が抱き着いてきたのです。もちろん避けましたが、男に襲われたと泣き叫ぶので、駆け付けた兵士に身柄を預けました。彼女は私も関係者だと言って側に居てほしいと訴えましたが、私が後から来たのは野次馬が見ていたので無関係だと証明されて、その場を離れる事ができました。けれどその後、暴漢に襲われた令嬢を一人残して立ち去った冷たい男だという噂が社交界に流れました。まあ、一時の事でしたので構わないのですが……」
私は異母妹に怒りを覚えます。
噂を流したのは十中八九、異母妹で間違いないでしょう。
「……ジアス様、本当になんてお詫び申し上げたらいいのか……」
「いえいえ、クレイン様に謝っていただく必要などありません。それに噂が一時だったのは、高位貴族が誰も相手にしなかったからです。彼女の言動は確実に、マルシアス侯爵の首を絞めていっていますよ」
ニコリと微笑むジアス様に、申し訳ない気持ちでいっぱいになります。
あの子は本当に何を考えているのでしょうか?
「ただキャスカ嬢は下位貴族の友人たちを使って、どうにか私と関係を持とうとしています。今回の街中で出会ったのも、下位貴族に誘導されたのがきっかけです。社交界の噂は警戒を怠った己の不甲斐なさなので、甘んじて受け入れます。ですがそれとは別に、彼女が私の近辺を探っているとすると、いずれクレイン様との関係がマルシアス侯爵の耳に入らないかと、そちらの方を危惧しております」
ジアス様が私の元にこうして来てくださっている事がお父様に気付かれたら、警戒され計画を邪魔される恐れがあります。
その事をジアス様は心配してくださっているのでしょう。
しかし私はジアス様の言葉を聞いて、異母妹が彼の妻の座を諦めていない事が分かりました。
本当にジアス様に惚れているのか、公爵夫人という地位を欲しているのかは分かりませんが、どちらにせよジアス様を狙っているのは確かなようです。
私は薄くなった記憶の異母妹の姿を、脳裏に思い浮かべます。
「何もできない我が身が歯痒いです。これほどまでに支えてくださっているジアス様をお助けする事も叶わないなんて、もう少しお待ちください。私が侯爵家に戻れば、彼女をさっさと家から追い出しますので」
私がワナワナと震えながらそう伝えますと、ジアス様はキョトンとされました。
そして嬉しそうに頬を緩めます。
「ハハハ、それは頼もしい。ですが私の身など心配されなくても大丈夫ですよ。度重なる彼女の異常な言動に高位貴族は警戒を示し始めていますし、近いうちに城への立ち入りも禁止になるでしょう。もちろんマルシアス侯爵夫妻も含めてです」
「え、他にも何かしでかしているのでしょうか?」
私が驚いて目を丸くしますと、ジアス様はニッコリと微笑みます。
「彼女の取り巻きの下位貴族が他の高位貴族を執拗に追い掛け回して、私のスケジュールを調べたり私と彼女の仲を持つように頼んだりしているみたいです」
「無理矢理にですか?」
「ええ、その行為に恐怖する方が続出しているのです。それに一人の男爵令息が伯爵令嬢の弱みを握り、脅したと問題にもなっております。これはまだ噂の範疇なので調べられてはおりませんが、どうやらその男爵令息はキャスカ嬢の取り巻きとの話もあります。騎士が動くのも時間の問題でしょう。そうなれば直接手を下してはいなくても、キャスカ嬢にも何かしらの罰が与えられる。少なくとも親子共に城への出入りは禁止されます」
「そこまで分かっているのであれば、ジアス様への接近禁止令も出していただければいいのに……」
話を聞いた私が不貞腐れてそう言うと、ジアス様は苦笑を浮かべました。
「それは、証拠がないのですよ。キャスカ嬢が命令したという確かな証拠がね。動いている下位貴族は全員、キャスカ嬢の名を出さないのです。自分が勝手に友人であるキャスカ嬢の恋心を応援したくてやったと言うくらいしか。それでは彼女を罰する事はできませんので」
「~~~~~」
とっても歯痒い。
私の頭の中で異母妹が、こちらを指差して笑っています。
まだマルシアス侯爵家に居た時、私の物を全て奪った異母妹が隠していた最期の人形まで奪おうとした事がありました。
抵抗すると彼女は大泣きして、その泣き声を聞きつけた義母に叩かれたのです。
その姿を見て笑っていたのを思い出しました。
その後その人形は彼女に奪われましたが次の日、飽きたと言って目の前で鋏でズタズタに引き裂かれました。
その人形は、お母様が亡くなる前に選んで買ってくださった物だったのです。
泣き崩れていた私に声をかけてくれたのは、確かアボラだったはず。
そして彼女が人形を直してくれました。
破れ目に異母妹のリボンを使って、素敵に作り直してくれたのです。
異母妹は、自分のリボンがなくなった事に全く気付いていませんでした。
私はハッとしました。
そうです。異母妹の近くにはアボラがいるのでした。
私はジアス様に向き直り、真剣な顔で提案します。
「侍女頭のアボラにお願いして、証拠になりそうな物がないか調べてもらいましょう」
「え?」
「いい加減な異母妹の事ですから、どれほど大切な物でも隠すという行為はしないでしょう。どうせ部屋の片付けも侍女任せですから、取り巻きの貴族との繋がりや手紙など見つかるかもしれません。それをこっそりジアス様に送るよう、頼んでみます」
私の言葉に、ジアス様はキリッとした男らしい眉を下げました。
「ですが、もしもその行為が見つかった場合、クレイン様と私の繋がりまで気付かれる可能性がありますよ」
「大丈夫です。アボラならそんなヘマは致しません。それに見つかったところで異母妹には、他国にいる私とジアス様を関連付ける事はできないでしょう」
「侯爵に告げ口されたら?」
「その前に癇癪を起こすと思います。様子を見てお父様に告げ口できるほど、あの子は頭が回りません。すぐに喚いて暴れるでしょうから、そんな彼女をアボラなら上手く言い含める事ができます」
私の説明にジアス様は暫し黙考すると、ニコリと微笑んでくれました。
「では、甘える事にいたしましょう。お願いできますか?」
「はい。もちろんですわ」
やっとヘイネス公爵親子に恩返しができそうです。
ずっとお世話になってばかりで気が咎めていたので、少しでも役に立つかもしれないと思うと、すごく嬉しいです。
まあ、私はお願いするだけで実際に動いてくれるのはマルシアス侯爵家にいるアボラなのですが。
ニッコニッコと笑っていると、ジアス様は私の頬にそっと手を添えました。
「ですが、くれぐれも無茶はしないようお願いします。クレイン様の計画が露呈するような事になっては、私は自分を許せなくなってしまいます」
真剣な瞳で見つめられ頬を撫でられた私は、ジアス様のオッドアイから視線を逸らす事ができなくなりました。
ど、どうして頬を撫でるのでしょうか?
困惑する私にジアス様は何度か頬を撫でた後、スッとその手を外されました。
「すみません。そんな笑顔を見せられると、ちょっと自制が効かなくなってしまいました」
フフフッと笑うジアス様からは、すさまじい色気が漂ってきます。
ジアス様はまだ十六歳のはずですが、やはり二歳の年の差というのは大きいのかもしれません。
十四歳の私にはジアス様の色気は、ただただクラクラするばかりでした。




