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白い結婚のまま、さようなら ~女好きな夫との離婚は決定事項です  作者: 白まゆら


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14/18

ええっと、本気ですか?

 ヘイネス公爵親子が私に提案してくださったのは、夫である殿下の不祥事を揉み消す事で離婚までの四年間、夫と顔を合わせないように、宰相と取引するという事でした。


 確かに先程のような扱いは、私の矜持を壊すものです。

 愛人を引き連れて、私の立場をなくすような発言をされて、母国の者を笑いものにする。

 あれは夫の頭が悪いのか、それともそれほどまでに私が気に食わないのか。

 どちらにせよ、やっていい事と悪い事があり、夫は決してやってはいけない事をしたのです。

 会わなくて済むのならもう二度と会いたくないというのは、素直な気持ちです。

 ですが、そのような事をお願いするのは私の立場からでは無理だと思っていたのですが、ヘイネス公爵親子は大丈夫だと、交渉案を提示してくださったのです。

 それが上手く締約したのですから、私は笑み崩れました。




 次の日、ヘイネス公爵親子が私のサロンへと現れました。

 私は早速、昨日の成果を報告します。

 お二人は美しい笑顔を送ってくださいました。

「良かったです。これであのような失礼な態度を、とられなくてすみますね」

「我が国の美姫を二度とあの下衆の眼に映らせないですむと思うと、私も嬉しいですな」

 ジアス様と公爵様はそう言ってくださり、私も嬉しくなって笑みを返します。

 あら、ビクッとされないという事は、私の表情筋が今日は上手に働いたという事でしょうか?

 それともヘイネス公爵親子には、自然な笑みが浮かべられるようになったという事でしょうか⁉

 どちらにせよ、嬉しい限りですね。


 三人で和やかな雰囲気でお茶を口にしていますと、またもや来客を知らせに侍女がやって来ました。

 私は正直、うんざりしてしまいます。

 この城では侍女に、来客中には他の人の入室は拒否しなさいと教えていないのでしょうか?

 そこのところ、一度詳しく宰相に訊いてみましょう。

 しかし、一体誰が来たというのかしら?

 まさか、また夫ではないでしょうね⁉

 私が拒否する言葉を口にしようとすると、その侍女が訪問者の名を先に口にしました。

「宰相様が、どうしてもお話したいそうです」

「……………………」


 昨日の件で話はついたはずなのに、わざわざ様子を見に来たという事は、本当にヘイネス公爵が許してくださったか確認に来たのでしょうか?

 私はチラリとヘイネス公爵親子を振り返ります。

 お二人が頷いてくださったので、私は侍女に宰相の入室を許可しました。

 そうして宰相は入って来るなり、公爵に頭を下げました。


「昨日は大変な失礼をいたしまして、誠に申し訳ございませんでした」

「……今回はクレイン様のお顔を立てて、不問にいたします。仲介に入ってくださったクレイン様に感謝してください」

「それは、もちろんでございます。我が国は素晴らしいお方をお迎えできました事、光栄に存じています」

「その言葉、お忘れなきよう」

「はい」


 ヘイネス公爵は私を立てるために、あえて高圧的に仰っています。

 本当は怒っているが、私のために我慢してやるという演技をしてくださっているのです。

 それにまんまと騙された宰相は、私にも頭を下げました。

 これであの約束は反故にされる事はないでしょうし、残りの四年間も私を蔑ろにする事はないでしょう。

 ヘイネス公爵親子には、本当に感謝です。


「ところで、王太子様はどのようにされていますか?」

 ジアス様が宰相に夫の様子を訊ねると、宰相は顔をこわばらせました。

「ど、どのように、と申しますと……?」

「いえ、お連れの女性と揉めてらしたようなので少し気になりまして」

「あ、そうですか。その、本日はあの女性は登城しておりません。陛下が場を弁えるようにと注意されましたので、殿下は真面目に執務をこなしているようです」

 どうやら謝罪の場は設けないとはいえ、何かあったかは陛下のお耳に入っているようで、夫と愛人は陛下にお叱りを受けたようです。


 それで夫は執務室に缶詰めにされ、クラウディア様は暫く登城禁止にされたのでしょうね。

 まあ、それぐらいの罰は受けて当然でしょう。

 私が仲介に入ったお陰で軽い罰になったのですから、感謝してほしいです。

 なんて、本当は仲介に入った訳ではなく、単に共犯者なだけですけどね。



 幾重にも謝罪を口にして、宰相が部屋を後にします。

 私はモナとリックのみをサロンに残して、他の者を退室させました。

「公爵様とジアス様のお陰で離婚までの四年間、無事に過ごせそうですわ」

「良かったです。穏やかな日々を過ごすのも、もちろん大切な事ですが、変に根回しをされて離婚できない状況にされても困りましたからね。あれだけ恩を売っておけば、下手な事はできないでしょう」

 ジアス様はいくら重鎮たちのいる前で離婚を約束したとはいえ、正式に決まるまでは油断できないと思っていらしたみたいです。

 どうにかして引き留めようと、策略を巡らす者もいるかもしれないと考えたのでしょう。

 ですが、今回の件で王家にも多大な恩を売った形になった私に、滅多な事はできないだろうと安堵された様子です。


 ジアス様が頷いていますと、ヘイネス公爵が「あ、もう一つお話が」と話を切り替えられました。

「事後報告で申し訳ありませんが、ロレント公爵にも事情を話させていただきました。王太子の行動には、かなり立腹しておりましたから、これからはクレイン様の良き協力者になると思います。彼は私の古くからの悪友ですので、遠慮なく相談してやってください」

 どうやら公爵は、サビティ国での私の協力者を増やしてくださったようです。

「まあ、なんとお礼を申し上げればよいのでしょう。大変、心強いですわ」

 私はパッと、両手を組んで微笑みます。

 ロレント公爵はヘイネス公爵の友人で、サビティ国の由緒ある公爵様です。

 現在、ヘイネス公爵親子が宿泊しているのも彼の屋敷です。

 城にはあまり顔をお出しにはなりませんが、彼の行動には重鎮たちも一喜一憂してらっしゃると聞き及んでおります。


 強い味方が付いてくださった事に、私は喜びを隠しきれません。

「本当にお二人には、感謝してもしきれません。一週間ほどしたら隣国に行かれるとお伺いいたしましたが、名残惜しいです。どうか道中お気をつけくださいまし」

 すっかりお世話になってしまった私は、お二人が居なくなる事を想像して、ふと寂しくなってしまいました。

 ですが、お二人にも予定がございます。

 私の我儘で頻繁にお招きする訳にもいきませんし、ましてや滞在期間を延長させる訳にもいきません。

 私は諦めるためにも潔く、お別れの挨拶を口にしました。

 しかし私の決意を聞いたヘイネス公爵は、苦笑いをされました。


「クレイン様はそうやって一人で頑張ろうとなされるのですね。けれど私は、この国を離れるまで毎日顔を出すつもりでおりますよ」

「え?」

「父上、それはクレイン様に迷惑です。ご公務だっておありでしょうし、短期間とはいえ毎日、父上にかける時間は作れませんよ」

 公爵の言葉に、ジアス様がジト目を向けます。

 ですが私は思わず「いいえ」と叫んでしまいました。

「公爵様とお会いする時間くらい作れますわ。でも、そんなに甘えてしまっていいのですか? お忙しいのではありませんか?」

 私がお聞きしますと、お二人はキョトンとされました。

 そして公爵様は嬉しそうに微笑まれ、ジアス様はうっすらと顔を赤くされました。


「いえいえ、私は愚息と違って時間の作り方を知っております。この国にはクレイン様のご様子を見に来たのですから、優先されるのはクレイン様です」

「わ、私だって何が大切かくらい分かっております。ご迷惑でなければ、私もお伺いして構いませんでしょうか?」

 お二人はそう言って、私にできる限り会いに来ると約束してくれました。


 母国では実母が亡くなってすぐに実父に屋敷から出る事を禁じられており、それまで友達だった子供たちとも連絡を絶たれ、実母の親しい方との面談も邪魔されておりました。

 この国に来てからも年頃の王女様ではなく子供が来たという事で侮られ、友人を作る事もお茶会を開く事も夫に許してもらえませんでした。

 そんな夫の態度に陛下も重鎮たちも見て見ぬフリをされていましたので、私を訪れる方などいなかったのです。

 それがこのように心配して気遣ってくれるなど、私にとっては初めての出来事です。

 私は涙をこらえ、へたくそな笑みを返します。

 ビクッとしないでくださいね。

「もちろんですわ。お二人が来てくださるのを心からお待ちしております」


 私のそんな姿を見たジアス様が、拳を口元に当てて何かを考えるような仕草をいたします。

 そして公爵様に徐に切り出しました。

「父上、いくら四年後に離婚してエイワード国に帰って来られるとしても、私はこの国にいる間のクレイン様が心配です」

「そうだな。私もだ」

 公爵が深く頷くのを見たジアス様は、ニッコリと微笑みました。

「そこで四年間、私がエイワード国とサビティ国を行き来するのを許してくれませんか?」

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