てへっ、話しちゃいました
ヘイネス公爵からジアス様に異母妹との婚姻を打診された話を聞いた私は、彼らを計画に巻き込んでしまおうかと考えていました。
そんな私にジアス様は安心させるかのように微笑んで、こんな風に仰ってくださったのです。
「確かに実家の侯爵家を憂いるお気持ちはお察しいたしますが、クレイン様はまだまだこれからです。他国の王太子妃とおなりの今、まずはこの国の先をお考えください。そうすれば、いずれはご実家の問題も解決できる案が浮かびますでしょう。卑小な身ではございますが、いつでもお力になりますので遠慮なく頼っていただければと思います」
またしても胸がキュンといたします。
これはもう、計画に巻き込んでしまってもいいという事ですよね⁉
私はジアス様の微笑みを見て、遠慮なく頼る事に決めました。
「実は、もうすでに実家を彼らから取り戻す計画を立てているのですが、お味方になっていただけますでしょうか?」
突然、悪巧みを口にした私にヘイネス公爵親子は目を丸くします。
しかしすぐに公爵はニヤリと少し人の悪い笑みを浮かべられ、ジアス様はスッと真面目な顔をされました。
「人払いは?」
「問題ありません。こちらの侍女は侯爵家より連れて来た私の腹心ですわ。そこの護衛騎士はこの国の者ではありますが、私専属であり、いつでも国を捨てる覚悟があります。二人共、私に忠誠を誓ってくれていますし、計画も承知しております」
それを聞いて二人は頷きました。
「私どもの方も、信頼に足る人選です。ご安心ください」
この部屋の中にいる者は大丈夫だと公爵に促され、私はゆっくりと口を開きました。
夫であるこの国の王太子の起こした不祥事と共に、四年後の離婚の予定を話したのです。
一応、この国では大人しい少女として演技をしていた私は夫の不祥事だけではなく、一つ、二つほどの弱みも掴みましたので、すでにこの国には離婚に同意させている旨。
実家の侯爵家では、使用人が総出でお父様、義母、異母妹の悪事の証拠を集めている旨。
祖国の王太子殿下との伝手も得ている旨、などを端的に説明いたしました。
二人共、先程の私と同じようなポカンとした表情を披露してくれます。
「いや、驚きました。王太子の浮気まで想像されて、すでにそのような計画をお立てになっていたなんて……」
ジアス様が苦笑されます。しかしすぐにプハッと吹き出し、声を出してお笑いになりました。
「しかし、うん。ハハハハハ、なかなかに良い計画だと思います。それならば両国、丸く収まりますね」
ジアス様が笑って肯定してくれる姿に思わず喜んでいますと、公爵が険しい顔でブツブツと何かを仰っています。
演技までして、この国を騙していた私の姑息な手段が気に入らなかったのかと不安になって耳を澄ませますと、私ではなくどうやらお父様に対してのお言葉のようでした。
「あの野郎。どれほど願ってもクレイン嬢には一切合わせず、いきなり他国の王族に嫁に出し、しかも子供ゆえに里心がついては困るので、数年は誰も面会をしないとかふざけた事を約束させやがって。それを聞いた時は腸が煮えくり返ったが、それでも侯爵家はクレイン嬢のお子の中から一人を譲り受けて跡を継がせるものだと思っていたのに、乗っ取りを考えていたとは……。しかも、どういうつもりでジアスに縁談を持ちかけた? まさか、我が家まで乗っ取る気か? いや、違うな。奴にそんな度胸も頭もない。マルシアス侯爵家の乗っ取りを盤石にするために、高位貴族との婚姻を望んだのか? それならば他の高位貴族に目を付ければいいものを、何故ジアスに? ジアスは公爵家を継ぐ者だ。一人残った娘まで嫁に出したら誰が侯爵家を継ぐ? まさか俺がジアスを差し出してクレイン嬢を裏切り、奴につくとでも思ったのか? それともジアスとキャスカ嬢の子供に公爵、侯爵家を継がせようとでも思ったのか……。どちらにせよ、舐めやがって」
どうやら公爵の疑問は、迷宮に入ってしまったようですね。
けれど、あのお父様にそのこまでの悪巧みはなかったと思いますわ。
多分、単純に異母妹がジアス様に惚れたとか、そういう事。
お父様は異母妹に強請られて、手紙を送っただけなのではないかしら?
まあ、ヘイネス公爵家と血縁関係が結べると浮かれたのは間違いないでしょうが。
お生憎様、ヘイネス公爵もジアス様も貴方たちの思い通りにはなりませんわよ。
しかし、この国に来てエイワード国から誰も私に会いに来なかった理由が分かりましたわ。
普通なら友好国であるこの国に、我が国の外交官がいてもおかしくはないのに、私が来てからは一人も来ませんでした。
不思議だなあ、とは思っていたのですが、まさかお父様がそんな邪魔をしていたとは。
私が侯爵家の血筋の話でもしたら困るとでも思ったのかしら?
ちょっと知恵があるところを見せつけられて、私はぷうっと頬を膨らせます。
「ヘイネス公爵は、私の事をずっと気にしてくださっていたのですね。ありがとうございます。安心してください。公爵やジアス様にこれ以上、迷惑をおかけしないためにも私、絶対に離婚して侯爵家に戻ってみせますわ」
ふんすと力説いたしますと公爵は毒気が抜かれたようなお顔をして、すぐにハハハと大笑いしてくれました。
「全面協力させていただきますよ、クレイン様」
どうやら公爵も私に協力してくださるそうです。
笑いが収まったところで、ジアス様が私に視線を向けました。
「では、サビティ国の了承は得ているという事で、クレイン様は王太子殿下と伝手がおありのようだが、確実に事を進めるためにも私どもはエイワード国王に滞りなく離婚ができるよう、話を通しておきましょう」
「ありがとうございます。心強いですわ」
王太子殿下にお願いするつもりでしたが、ヘイネス公爵親子が国王陛下に直接お話してくださるそうです。
まあ、私の方からも王太子殿下にお願いすれば、いくらその後お父様が邪魔をしたとしても覆る事はないでしょう。
「マルシアス侯爵家には、何か圧力をかけておかなくて大丈夫ですか?」
ジアス様の問いに、私は公爵家で懸命に頑張ってくれている味方の存在を口にします。
「侯爵家の家令が申しますには、油断させておけば追い出せるネタに困らない不祥事を幾つも提供してくださるでしょうから、私が戻るまでは好き勝手させておくのが一番いいのではと。その証拠は、使用人一同が集めておいてくれるとの事ですわ」
まあ、侯爵家が没落するほどの大問題を起こすようであれば、それは全力を持って阻止すると鼻息荒く申しておりましたが。
私がそう説明いたしますと、ジアス様は「確かに」とくつくつと喉を鳴らされました。
その横でヘイネス公爵が人の悪い笑みをいたします。
「では、我々はせいぜい気が大きくなるように、彼らをおだてておきましょうか」
その返答には、慌ててお止めしました。
「いえ、公爵やジアス様がお優しくすれば勘違いして異母妹との婚約を無理に押し進めようとするかもしれませんので、私としては彼らにあまり関わってほしくはございません」
私はお二人の好意はとてもありがたいのですが、迷惑をかけるのは本意ではないとお伝えします。
するとジアス様が、父親とは違う爽やかな笑みをされました。
「では、社交界でも勝手に墓穴を掘ってくれるでしょうから、その証拠を外から集めておきましょう」
お二人の笑みがとても素晴らしかったので、私も負けじと悪い笑みをしてみせます。
「フフフ、それは頼もしいですわ」
扇を広げてわざと、見下すように笑って見せたのですが、今回は表情筋が上手く仕事をしてくれたようで誰にもビクッとはされませんでした。
私はどうやら、このような悪い笑みなら上手く出来るようですね。




