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勇者との戦いを終えた魔王は、現代で心を癒やす  作者: ひろボ


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9/9

後日譚③ 白石夕凪のカルテ ──地上に生きる医師──

 夜のクリニックは、今日も静かだ。


 患者の波が引き、廊下の明かりだけが残っている。

 私はカルテを閉じ、深く息をついた。


 この仕事をしていると、

 時々、本当に“心”というものが見えた気になる。

 でも、きっとそれは錯覚だ。


 人の心なんて、誰にも完全にはわからない。

 私にできるのは、ただ隣で話を聞くことだけ。


 机の引き出しを開ける。

 古びた診療カードが二枚。


 アークル=ヴァル=ゼルグ

 ミリア=ノート


 どちらも、奇妙な患者だった。

 彼らの語る“異世界”の話を、私は半分信じて、半分笑っていた。


 けれど、不思議なことに、

 二人が通っていたあいだ、クリニックの植物がよく育った。

 あの日、壊れた時計も、気づけば直っていた。


 偶然かもしれない。

 でも――もしほんの少しだけ、

 世界のどこかに“魔法”があるのなら、

 私はそれを「回復」と呼びたい。


 窓の外では、春の雨が降っている。

 街の灯が滲み、静かな夜の匂いがする。


 机の上には、新しいカルテが一枚。


 今日来た青年の言葉が、まだ耳に残っている。


「最近、世界を救う気力が出ません」


 私は少し笑って、ペンを取った。


「じゃあ、世界は少し休ませておきましょう。

 代わりに、あなた自身を少し救ってください。」


 カルテに小さく書き込む。


 再診:いつでも


 そして、灯りを消す。


 翌朝。


 いつも通りの街。

 通勤の人々。

 すれ違う顔の中に、ふと、見覚えのある後ろ姿を見た気がした。


 振り返っても、もう誰もいない。


 でも、そのとき胸の奥で、なぜかあたたかい風が吹いた。


 私は小さく笑って呟く。


「おはようございます、アークルさん。

 ……今日も世界は、生きていますよ。」


 完

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

この物語は、「滅ぼす」でも「救う」でもなく、“生きる”という選択を描きたくて書きました。


魔王という存在が、人として心を取り戻す。

勇者も医師も、同じように迷いながら、それでも前に進んでいく。

そんな小さな希望を、少しでも感じてもらえたなら嬉しいです。

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