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勇者との戦いを終えた魔王は、現代で心を癒やす  作者: ひろボ


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8/9

後日譚② ミリアの旅路──赦された勇者──

 風が吹く。


 丘の上から見下ろす村は、穏やかな午後の光に包まれていた。

 笑い声。

 畑の匂い。

 それは、かつて私が守ろうとした世界の形だった。


 だけど、もう剣は持っていない。

 鞘は空のまま。

 それでもいい。

 そう思えるようになってから、私は旅を続けている。


 ある日、とある村で奇妙な噂を聞いた。


「夜になると、黒い霧が畑を覆うんだ」


 その言葉に、胸がざわつく。

 黒い霧――魔力の残滓。


 あの人の“欠片”かもしれない。


 夜。

 丘を登る。

 霧が揺れている。


 かつての戦場の匂いがした。


 手が、剣の柄を探す。

 だが、そこには何もない。


 ――もう戦うな。


 脳裏に浮かぶ声。

 アークルの声だ。


 私は目を閉じて、ゆっくり息を吐いた。


「私はもう、剣じゃなく言葉で救う」


 そう呟くと、霧の中に人影が見えた。

 怯えた村の少年だ。

 霧のせいで錯乱している。


「大丈夫。怖くないよ。」


 手を差し出すと、少年の目がゆっくりと戻っていく。

 黒い霧が消え、朝が来た。


 空が白み、風が吹いた。

 そこに残ったのは、ただの畑と、静かな光だけ。


 翌朝。


 村を発つ前に、少年が駆け寄ってきた。


「お姉ちゃん、ありがとう! あの黒い霧、もう出ないよ!」


 私は笑った。


「それはね、誰かが見守ってくれているからだよ。」


 見上げた空に、

 淡く揺れる黒い影が見えた。


 まるで、微笑んでいるように。


「……あの人らしいな。人間の霧になってまで、世界を見てるなんて。」


 旅は続く。


 私は今日も歩く。

 戦うためじゃなく、生きるために。


 いつか、また会えたら――

 その時こそ、本当に笑って言いたい。


「ありがとう、アークル。」


 風が頬を撫で、朝の光が差し込んだ。

 新しい日が、また始まる。

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