表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者との戦いを終えた魔王は、現代で心を癒やす  作者: ひろボ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/9

後日譚 再診:いつでも

 ──アークルのその後──


 あれから、いくつの季節が過ぎただろう。

 アースこころクリニックを去ってから、俺はただ“生きる”ということを続けている。

 戦いもなく、使命もなく、静かな時間が流れていく。

 かつての魔王が、今は人として、ひとつの小さな日常を持っている。

 それは、世界を滅ぼすよりもずっと難しく、けれど確かな幸福だった。 


 ──数年後、どこかの町で──


 朝の光がまぶしい。


 カーテンを開けると、窓の外に青い空。

 もう、あの黒い雲はどこにもない。


 俺はゆっくりとコーヒーを淹れた。

 湯気が立ちのぼる。

 昔は煙と炎しか知らなかったのに、

 今はこの香りに、安らぎを感じるようになった。


 今の職場は、小さな本屋だ。

 店長は頑固だが、本を愛している。

 俺は、主に配達と補充を担当している。


 紙の匂い。

 ページをめくる音。

 それだけで、心が落ち着く。


 人間たちは時々、俺に尋ねる。

「なんか雰囲気ありますね。昔、何してたんですか?」


「少し前まで、世界を燃やしていました。」


 冗談だと思われて、笑いが起きる。

 俺も笑う。

 それでいい。

 今は、それで十分だ。


 昼休み。


 ポケットの奥から、古びたカードを取り出す。


 アースこころクリニック

 再診:いつでも


 角が擦れて、色が薄くなっている。

 けれど、この小さな紙切れが、

 今の俺の世界を支えている。


 白石医師とは、しばらく会っていない。

 ミリアは旅に出たらしい。

 きっと、また誰かを助けているのだろう。


 俺はといえば、ここで本を並べ、

 たまに客の少年に絵本を薦める。


「勇者と魔王の物語です」


 少年は笑って言う。

「これ、最後に仲良くなるやつでしょ?」


 俺は頷く。

「そうだ。お互い、少しだけ賢くなったんだ。」


 夕方。


 店を閉め、帰り道を歩く。

 西の空が赤い。

 炎の色に似ているが、もう恐ろしくない。


 俺は空を見上げて、静かに呟く。


「……滅ぼすでも、救うでもない。

 ただ、生きる。それでいい。」


 風が頬を撫でた。

 その温かさに、少しだけ涙が滲んだ。


 世界は、思っていたよりも優しい。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ