表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者との戦いを終えた魔王は、現代で心を癒やす  作者: ひろボ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/9

第6話 通院卒業の日

 ──アースこころクリニックにて──


 朝の診療室。


 窓から差し込む光が、やけにまぶしかった。


 白石夕凪は、いつも通りカルテを開く。

 だが、今日だけは少しだけ笑顔が柔らかかった。


「これで、最後の診察になりますね。」


 俺は頷いた。


 魔力は完全に戻った。

 けれど、心はもうあの頃の“魔王”ではない。


 戦う理由も、滅ぼす理由も、どこにもない。


 ---


 白石が問いかける。


「この世界での生活、どうですか?」


「悪くない。

 人は弱くて、愚かで、でも……あたたかい。」


「それは、あなたが“人”として感じ取れたからですよ。」


 カルテにペンが走る音が、やけに静かに響いた。


「アークルさん、あなたの病名をつけるとしたら――」


 白石は少し考えてから、微笑んだ。


「“孤独”です。

 でも、もうほとんど完治ですね。」


 俺は笑った。

 笑うという行為が、こんなに自然にできたのはいつ以来だろう。


 ---


 扉の外では、ミリアが待っていた。


「聞いたわ。今日で卒業なんだって?」


「ああ。戦いの終わりよりも、ずっと実感がある。」


「そう。じゃあ、さよならは言わない。

 また通院したくなるかもしれないし。」


「ふっ、縁起でもない。」


 笑い合う。

 昔は、剣と魔法でしか語り合えなかったのに。


 ---


 診療カードを白石に返す。


 白石はそれを受け取り、少しだけ迷ってから、机の上に戻した。


「再診:いつでも」


「……?」


「通院は終わりです。でも、もしまた心が疲れたら、戻ってきてください。」


「ふむ……その時は、また保険証が必要か?」


 白石は吹き出した。


「いえ、勇気だけで結構です。」


 ---


 クリニックを出る。


 空は高く、青かった。

 ビルの影の間を、風が抜ける。


 かつて、この空を黒く染めたことがあった。

 今は、そんな気持ちさえ思い出せない。


「……滅ぼすより、生かす方が難しいな。」


 誰にともなく呟く。


 だが、それを言える自分が、少し誇らしかった。


 ---


 数年後。


 アースこころクリニック。


 白石夕凪は、静かに診療室の椅子に座っていた。


 扉がノックされる。


「どうぞ。」


 入ってきた青年は、どこか影のある目をしていた。


「最近、世界を救う気力が出ません。」


 白石は柔らかく微笑んだ。


「……では、滅ぼす以外の生き方を、一緒に考えてみましょうか。」


 時計の針が静かに進む。


 そして、新しい物語が始まった。



【完】




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ