雨の夜の怪─後編─
ユウトはケンジに引きずられるようにして電話ボックスから這い出した。
雨が顔を叩き、冷たい地面に膝をつく。
手に握りしめたエナジードリンクの缶がドクン、ドクンと脈を打つ。
太い缶からは低く唸るような声
「ケンジ……俺だ、タケシ。アヤミとマコトもいる。……助けて」
スリムな缶からは啜り泣くような声が聞こえる。
「ケンちゃん、ごめん、僕が、僕が行こうって言ったんだ、ごめん、ごめんなさい」マコトの声だ。
「マコっちゃん、今それ言ってもどうしようもねぇだろ、とりあえず全員絶対助けるからよ、泥舟に乗ったつもりで安心しろよ」
「ごめん、ケンちゃん、こんな時にあれなんだけど、それ多分、大船、かな」
「ちっ、ちげーよ、ワザとだ、ギャグだギャグ」
こんな状況なのに缶の中から少しだけ笑い声が聞こえた。
村の言い伝えなんて、あの古い立て札の言葉なんて、なんのこっちゃと思っていた。インチキくさい迷信だろうと。
でも今ならその古ぼけた文字の意味が分かる。鮮明に思い出せる。
電話ボックスのガラスには、外側からつけられたびちゃびちゃの手形が残り、曇った内側には水草の跡がうねっている。
「さてと、いつまでも呆けてらんねぇな、行くぞ、ユウト」
ケンジは手にした鉄パイプを振り上げ肩に乗せた。
「え、どこに? この缶は? どうするの?」
「どうするって、持って行くに決まってんだろ、タケシとマコトとアヤミだぞ。置いて行けるわけねぇだろ」
「や、もちろん、置いては行かないけどさ、ど、どうするの? どこに行くの?」
「とりあえず、じいちゃんのところ、なんか知ってるかもしんねぇ。年の功より亀の甲って言うだろ?」
「……ケンジ、それ多分反対だ」
缶の中からタケシが低い声で突っ込みを入れる。
「わっ、ざとだって言ってんだろ、さっきから、なんなんだよ、おめぇら、阿呆の子供のくせして」
赤い顔をしたケンジがぶっきらぼうに怒鳴る。
ユウトとケンジが並んで歩き出したあと、雨足は一層強くなり、タケシが閉じ込められている太い缶がズシリと体積を増した。
「ユウト、逃がサ……ナイ、逃げルナ……お前ハ、4本目ダ……」
背後で川の音が濁流のような水音に変わる。
村の外れの神社、古びた鳥居の奥、雨に濡れた石段を登る。
「本当に、ふぅ、……ここかよ、じいちゃん、嘘、ついてねぇよな」
「いや、嘘、なんか、つく、……わけ、なく、ない?」
段数はそんなにないが、勾配が急なため、息が切れる。
ケンジの爺さんは、ユウトが手にした3本のエナジードリンクの缶を見て眉根に皺を寄せた。
「お前たち、立て札を無視しよったな。水の怪の呪いに触れたか」
ユウトとケンジの説明を聞いて頷く。
「逆さまの世界の奴がタケシたちの魂を閉じ込めたんじゃな、急がないと、魂を喰われ自我を失うぞ」
「じいちゃんどうすりゃいんだよ、どうしたらタケシたちを助けられるんだよ」
「昔、……ワシが生まれるよりもずっと前のことじゃ、雨が降ると村を流れる川がよく増水して氾濫したそうじゃ。それを抑える供物として捧げるために村の若い女が選ばれた。生贄として川の真ん中に立てられた杭に生きたまま逆さまに磔にされ、川が氾濫するその日まで、何日も何日も括られたままだったらしい。女は付き合っていた村の男にどうか助けてほしいと懇願して泣いたが、その男も、女の親も兄弟も、村人も誰も助けようとはしなかったそうじゃ。4日目の夜に雨が降り、川は増水し、氾濫した。女はどこかに流されたらしく、遺体も上がらなかった」
「ひでぇな。女を生贄にするって発想がそもそもキチガイだろ」
「生贄なんて捧げても、結局、増水も氾濫も止められなかった訳だしね」
「昭和になってから、川の氾濫を止めるために堤防が整備されて、川が荒れることは無くなった。じゃが、その頃、あの道に公衆電話の電話ボックスができた。後からできたのに、何故かそこが『門』になってしまった。雨が降ると、受話器から気味の悪い声が響き、近づくと魂が喰われてしまう。自我を失い、廃人になった人間が何人もいたという話じゃ。薄気味が悪いと、何度も取り壊そうとしたが、何人で挑んでも、重機を持ってきてもどうしてもあの電話ボックスを取り壊すことはできなかったそうじゃ。ついには、国が諦めて、あの電話ボックスはそのままになった。まぁ、晴れていれば問題はないし、電話機の交換なんかも問題なくできる、ただ取り壊すのだけはどうしても駄目だという話じゃ」
「って、話が長ぇ、昔話はいいからさ、とっととタケシたちの助け方だけ、教えてくれよ」
「分からん」
「なんでだよ、じいちゃんイジワルすんなよ」
「意地悪ではない。ただ、雨の日にあの電話ボックスに近づいた人間は、川に引き摺り込まれて、魂を喰われ自我を失った状態で神社の祠の前に捨てられているという話じゃ、もしかすると川の底と神社の祠がつながっているのかもな。じゃが、あまりにも危険じゃ。噂によると、逆さ女はギョロギョロした目で睨み、口は真横に裂けギザギザの歯の間からカビ臭い息を吐く。形はなく半透明で今にも崩れそうで、水草みたいな髪の毛がまるで生きているかのように襲ってくるという……」
ユウトの脳裏に先ほどの電話ボックスの怪物の姿が浮かぶ。あれが逆さ女だ。
……生贄として生きたまま磔にされ、段々と水かさを増す川の上で絶望を味わったのか。
可哀想という感情ではない。今だって恐怖の方がはるかに強い。でも、……。
すぐに神社へ向かうと言うケンジをケンジの爺さんが引き止める。
「待つんじゃ。今、村の奴らに連絡をする。明日の朝みんなで神社に行こう。お前まで喰われてしまうぞ」
「待ってられるか。急がねぇとタケシたちの魂が喰われちまうってじいちゃんが言ったんだろ。ユウトも来い。タケシたちをオレらで助け出そうぜ」
ケンジが鉄パイプをギュッと握りしめる。
マコトとアヤミが囚われている缶の表面の紋様が強くなる。川の水音が遠くから徐々に近づいて来る。
怖いけど、でも、みんなをこのまま見殺しにはできない。
ケンジの家にあった金属バットを武器に、二人で神社に向かう。3本の缶はショルダーバックの中に入れて斜め掛けにした。
水辺で戦うことになるかもしれないから長靴に履き替えた。出稼ぎに行っているケンジの父親の長靴だ。少し大きい。
村の外れの神社、古びた鳥居の奥、雨に濡れた石段を登り切るとそこに神社の祠がある。
神社の周りは静かで、雨の音以外何も聞こえない。
「くっそー、どうしたらいいのか、全く分かんねぇ、神社の祠と川の底がつながってるってどういうことだよ」
イライラを募らせたケンジが鉄パイプを乱暴に振り回す。
「ちょ、ケンジ、あっぶないって」
鉄パイプを避けようとした拍子に、ぶかぶかの長靴が滑り尻餅をついた。
「ああああ!!! ね、ねぇ、ケンジ、これ、これ、御神体っていうの? 受話器に似てない?……もしこの祠の御神体が電話ボックスの受話器に似ているのなら、もしかして……」
ユウトが指差した神社の祠の御神体は、先ほど怪異を退けた電話ボックスの受話器そっくりだった。
「やったぜ、ユウト、ぜってぇこれだ、天地を正せ! 違げぇな、今が天地が正されている状態だから、逆だ。天地を逆さまにしろっ」
「本当に大丈夫かな、ケンジ絶対思いつきで言ってるでしょ」
疑いの眼差しを向けるが、他に方法など浮かばない。早くしなければタケシたちの魂が喰われ、自我を失ってしまう。
ままよ、と御神体を掴み、天地の位置を逆さまにする。
ゴゴゴゴゴゴゴ、大きな地鳴りが響き、ケンジもユウトもその場にしゃがみ込んだ。
揺れが収まり、二人が目を開けると、自然のことわりに反した光景が目の前に広がっていた。
二人は急な勾配の石段を登って、登って、神社の祠に来た。山の上だ。
それなのに目の前に川が流れている。雨が強まり、川の水かさは増し、ゴウゴウと音を立てて流れている。
二人のヘルメットに取り付けた懐中電灯の灯りが水面を照らす。川の底にうっすらと石の祠が見えた。
「あれだ、行くぞユウト」
ケンジが足を踏み出す。ユウトは足がすくむ。
水面が揺れ、びちゃびちゃという音がする。逆さまの影が浮かぶ。
ギョロギョロとした目がユウトを睨み、グズグズと崩れそうな身体、水草の髪を揺らす。
「ユウト……4本目、……お前ハ……私ノ、モノ……」
声が水面を震わせる、斜め掛けにしたカバンの中の缶がドクンと暴れる。
「ユウト、気をつけろ、ぜってぇ缶を渡すな! 逆さ女に近づくな! 祠は俺がやる!」
ケンジは石の祠に向かって歩を進めた。
カバンごと缶を抱きしめるユウトの前に逆さまのままの水の怪が迫る。
ギョロギョロとした目玉が光り、口から赤い水が溢れ、グズグズの腕が伸びる、ユウトの足元で水草が絡みつく。
「お前、……この村ヲ捨てた、この村カラ逃げた、要ラナイ……4本目ノ缶ニ……ナレっ!」
雨は強く、街灯などは何もない。暗闇の中ヘルメットに取り付けた懐中電灯の灯りだけでは心許ない。
ケンジは臆することなく川の中を進む。膝まで浸かっているからもう長靴は役に立っていないはずだ。
その無鉄砲さに呆れながらも、頼もしさを感じていた。昔っからこうだった。ケンジは熱くて、向こうみずで、ちょっとバカで、でも誰よりも頼れるオレたちのリーダーだった。
「くそっ、この化け物、ぶっ殺してやる。みんなを返しやがれっ! チキショー、水の勢いが強いぇぇぇ、ダメージ与えらんねぇー!!」
ケンジが鉄パイプを振り下ろす音が聞こえたが、逆さ女の水草がユウトの視界を覆い、姿はよく見えない。
逆さ女のギョロギョロした目玉がユウトを睨み、グズグズと崩れそうな半透明の身体が揺れる。水草の髪が生き物のようにうねり絡みつく。
口から溢れる水がカビ臭い、ギラギラの歯が懐中電灯の灯りに照らされ光る。
「ユウト……ナゼ逃げた、裏切りモノ……許サナイ、許セナイ……お前ノ……」
半透明の身体が倍の大きさにに膨れ上がる。伸びた腕が、ユウトの手を掴む。水草の髪が絡みつき、深いところへ引き摺り込まれた。
長靴の中に入り込んだ水がまるで氷のように冷たい。
「クソったれ、ユウトを離せっ!」
ケンジが鉄パイプを振り上げる。グズグズの半透明の身体には何のダメージも与えられない。
このまま自分が取り込まれ、ケンジも取り込まれる。そうして魂を喰われ、自我を失った状態でタケシたちと一緒に神社の祠の前に捨てられる。
水の中に引き摺り込まれた瞬間にガボっと息を吐いてしまい、酸素が尽きてしまう。
その時、目の前の川の底の祠が光った。ギョロギョロとした目玉がこちらを見つめる。その視線は先ほどの逆さ女の恨みがましい、睨みつけるような視線とは違う。少しだけ悲しそうな視線に感じた。
「ユウトっ!」
腕を掴まれ、川面に引っ張り上げられた。水から顔が出たから、息を思いっきり吸い込む。肺に新鮮な空気を送り込む。
「ケンジ、ちょっとだけ、少しだけ待ってくれ。これ、頼む」
荷物を取り出し、タケシたちが閉じ込められた空き缶が入ったままショルダーバッグをケンジの肩にかける。
そして自分はもう一度、息を大きく吸い込んで川底に潜る。
川底の祠に、持っていた歯ブラシを当てる。
(こんな苔だらけで。村のために犠牲になったのにな、可哀想に、ごめんな)
そう思いながら、川底の祠を歯ブラシで擦った。長年付着した苔はなかなか取れないが、そのまま擦り続けた。
「ナッ、や、ヤメロっ、ユウト……人間は、汚い、裏切り、逃ゲル……」
息継ぎのために一旦川面に出ると、ケンジが言った。
「こんな化け物、気持ちや言葉なんて通じるわけねぇ。大昔、何があったかは知らねぇし、じいちゃんが言っていた話が本当だったら、村人はひでぇことした。けどな、だからって、そのあと、こいつがしたことだって、悪りぃだろ。何人喰ったと思ってるっ!」
「もちろんだ、逆さ女の悪行は許せない、でも、村人の仕打ちも酷い。だからさ、せめてもの罪滅ぼしじゃないけど、逆さ女の安寧のために、川底に祠を祀ったんだろ、それが忘れ去られて、こんな苔だらけで、可哀想だ。せめて、……きれいにしてやりたいよ」
そう言って、もう一度川底に潜り、祠の苔を歯ブラシで拭った。ギョロギョロの目玉の横には、小さな御神体があった。神社の祠にあった御神体と同じ形、受話器のような形をしている。『トミ』とカタカナで彫られている、おそらくそれが人間だった頃の逆さ女の名前なのだろう。
ユウトはその御神体を優しく撫でた後、天地を正した。
眩しい光が溢れ、川の水が一気に引いた。
ケンジが手にした缶からタケシとマコトとアヤミが飛び出してきた。
三人ともずぶ濡れで、ゲホゴホと咳き込んだが、怪我はなく自我も失われていなかった。
五人でキレイになった川底の祠に手を合わせ、トミの冥福を祈った。
「付き合っていた男や親兄弟にも助けてもらえなかったなんて、トミさんどれだけの絶望だったんだろう」
「雨が降るまでの4日間、ずっと逆さまのまま磔にされてたってのも酷すぎて、考えただけでもツラい」
「大体、生贄が若い女ってのが、意味が分かんねぇよな」
ケンジやユウトから話を聞いたタケシたちも憤った。アヤミが自分がつけていた髪飾りを外し、祠に供えた。
神社の祠で、先ほどユウトとケンジが逆さまにした御神体を元に戻す。
先ほどと同じように、ゴゴゴゴゴゴゴ、大きな地鳴りが響き、五人全員でその場にしゃがみ込んだ。
揺れが収まり、五人が目を開けると、川は消え、いつも通りの山の上の神社の祠に戻っていた。
同時に、「おーい、おーい」という声が聞こえ、懐中電灯を手にした村の人たちが大勢助けに来てくれた。
安心したせいか、ユウトはそのまま気を失った。
目が覚めると、懐かしいばあちゃんの家の居間だった。
身体は不思議と清潔で、まるで誰かに世話をされたかのようだった。部屋の中にばあちゃんの懐かしい匂いがするような気がした。
雨と汗とカビ臭い川の水で汚れた身体はきれいで、洗い立ての清潔な寝衣を着せられ、そしてふかふかの布団に包まれていた。
ちゃぶ台の上に、ホカホカの真っ白なご飯と味噌汁、あの頃田舎くさくてつまらないおかずだと思っていた、野菜の煮物や漬け物がたくさん並んでいた。
吸い寄せられるように箸に手が伸び、勢いよくかき込んだ。胃の中に染みるような温かさ、うまいうまい、と全て平らげた。
食後のお茶を飲み一息ついた後、今更のように、仏壇に飾られたばあちゃんの写真に手を合わせた。
障子の隙間から柔らかい光が差し込み、畳に細長い影を落とす。
「ホーホー、ホッホー」とキジバトの鳴く声が、遠くの山から響いてきた。
屋根の上でチュンチュン鳴いているのはスズメだ。
遠くから川のせせらぎの音が聞こえる。
窓を開けると朝のひんやりとした空気と、土と草の匂いが鼻をくすぐった。
もう一度仏壇の前に座り、昨日のことは夢だったのだろうかと話しかける。
開け放した窓から入ってきた風がばあちゃんの写真をカタカタと揺らした。
手で写真立てを押さえると、その下に白い封筒があることに気付いた。
ユウトへ、と書かれていた。ばあちゃんから自分に宛てた手紙だった。
そこには田舎暮らしをさせてしまったことへの謝罪が綴られていて胸が痛んだ。亡くなった母親のことも書かれていた。そして、最後に都会暮らしは大変だろうと労わる言葉が連なり、何かの役に立てればと、ユウト名義の通帳が同封されていた。毎月毎月、おそらく多くない収入から貯められていた貯金は決して大きな額ではなかったが、自分のためにとせっせと貯金してくれていた祖母の気持ちを思い、手紙を抱きしめユウトは泣いた。
ばあちゃん、ごめん、ばあちゃん、ありがとう。
ごめん、ごめん。ありがとう……。
「ちょっ!ユウト!おまっ、なんだよ、なんで勝手に帰ったっ!?」
怒鳴り声とともに飛び込んできたケンジは昨夜の汚れた格好のままだった。
「何だよ、お前、一人で戻ってきて、風呂に入って飯まで作って食ったのかよ」
「え?」
「昨日あの後、お前が神社の祠の前で気を失ったから、みんなで担いで、俺の家に連れてきて、汚ねぇ身体だからそのまま土間にゴザ敷いて、転がされたんだよ。じいちゃんが起きたら風呂の用意してやるって。さすがにマコトとアヤミは自分の家に帰ったけどな、俺とタケシとユウトは雑魚寝した。だけど起きたらユウトがいねぇってんで、大騒ぎだ。まさか一人でばあちゃんちに戻ってねぇよなぁって探しに来たんだよ。居なくなってなくて良かった。したら俺も風呂入って飯食ってくるわ。今日みんなで遊ぼうぜ、あとでまた迎えに来る」
そう言って、ケンジは帰っていった。
昨日、気を失うくらい疲れ果てて、ケンジの家の土間に雑魚寝しているところから、一人でここに来たのか?
風呂に入って寝巻きに着替えて、布団で寝て、朝ご飯の仕度……いや、してない。自分でした覚えがない。
ばあちゃんの家の居間で目覚めた時、身体は不思議と清潔で、まるで誰かに世話をされたかのようだった。
部屋の中にばあちゃんの懐かしい匂いがするような気がした。ばあちゃんが、やってくれたのか?
オレをケンジの家から連れてきて、風呂入れてくれて、寝巻きに着替えさせてくれたのか? 布団と食事の支度も。
ありがとう。ありがとうな、ばあちゃん。
それからごめん。オレ全然いい孫じゃなかった、父さんや母さんが死んだ後、ばあちゃんがオレを引き取って育ててくれたのに、ろくに恩返しもしないまま家を飛び出した。
こんなオレを最後まで心配してくれたんだよな。
ばあちゃん、オレやるよ、まだ何をしたらいいか全然分からないけど、地に足つけて頑張る。この金はありがたく使わせてもらう。
そんでちゃんとして、立派な人間になって、ばあちゃんにしっかり報告するよ。待っててくれ。
窓の外には陽光が差し、再出発への決意を祝ってくれているようだと思った。
遠くから聞こえる川のせせらぎも穏やかで、昨日のことがまるで嘘みたいに感じられる。
風に乗って、かすかに「ユウト……」と呼ぶ声が聞こえた気がした。声は「逃がサナイ……」と続いた。
フォローさせていただいている方がポストしてらっしゃった不思議な写真(電話ボックスにMONSTER の空き缶3本、受話器が外れ電話機本体の上に放置されている)を見て、思い付いたお話です。
((( ;゜Д゜)))ガクガクブルブル