009 現実に戻されます。~ユルシュル・シュミット子爵令嬢side~
不穏な空気ですが、全く重たくならなくて・・・
「貴方が、ユルシュル・シュミット様ですか?」
図書館へ向かう渡り廊下を歩いていると後ろから声をかけられた。一瞬懐かしい気持ちになったが声と雰囲気から少し嫌な予感をしつつ振り返る。
そこには、秋桜のような薄紅色の美しい艶やかな髪を結い上げた、サファイアの様な勝気な青の目を真っ直ぐにユルシュルに向けたご令嬢が立っていた。ユルシュルはゆっくりとダニエラ様仕込みのカーテシーの形をとり挨拶をする。
「ユルシュル・シュミットでございます」
低い姿勢を取りながら、顔を上げる許可が下りるのを待つがすぐに声がかかる。
「顔を上げなさい」
ゆっくりと姿勢を戻し真っ直ぐに凛と立つ。なぜかニコラ嬢が一歩後ずさった気がしたが気のせいかと思いなおし、更にダニエラ様仕込みの微笑みを浮かべ次の言葉を待つ。
「私は、オクタヴィアン第五皇子殿下の婚約者のカディア・ニコラです」
「存じ上げております」
「そう。ここでは他者の邪魔になるでしょう。少し付き合って頂ける?」
「はい。畏まりました。大変恐縮でございますが。司書の先生へ言付けて参ります。いずこにお伺い致しましたらよろしいでしょうか」
「司書様とお約束があるのですね。それは、変更なさってもよろしいのですか?」
ユルシュルは、目をパチパチとしてしまった。不躾に呼び出しをしたのだ。こちらの予定に慮ってくれるとは一切思っていなかった。あっけにとられるのは一瞬で止め答えを返す。
「はい。司書の先生より私の予定を優先して下さいとおっしゃって頂いております。ですが、急遽顔をお見せしませんとご心配をおかけしますので」
「・・・・・そう・・・・・・・ティールーム棟3階第一ルームにてお待ちしております」
「畏まりました」
了承を伝えながら礼の形をとり、カディアが去るのを待ち顔を上げる。内心で少しため息をつきながら図書館へ向かい言伝をすると、カディアの指定の部屋に向かった。
◇◇◇
「失礼致します」
ユルシュルがティールームに入ると、そこにはカディア様の他に数人のご令嬢が席についていた。1番手前の席が空いているのでユルシュルの席だろうと思い近づき挨拶を述べる。
「お待たせして申し訳ございません。子爵家が長女ユルシュル・シュミット、招待に預かり参りました」
先ほど同様に優雅ではないが整然としたカーテシーを行うとカディアの声が発せられる前に、他の令嬢の声が飛び交う。
「まぁまぁ。どなたかと思ったらウルリーケ第三皇女殿下の侍女殿ではございませんか」
「まぁ~流石ですわねぇ~このカーテシーはダニエラ・キュンネケ様からご指導いただいたのかしら?」
「あのっ!」
「まぁ!田舎の子爵令嬢の癖にダニエラ様にご指導頂けるなんて!贅沢ではございません?」
「ウルリーケ第2皇女殿下も何故、子爵令嬢など召上げたのでしょう?」
「わたくし・・・」
「あの方も、小国のランゲーリーヴに嫁ぐ身ですもの!我が国の高位貴族を連れていくのは忍びなかったのでは無くて?」
「なっ!」
カディアの周囲の令嬢たちは、公爵や侯爵令嬢なのだろう、カディアは第五皇子の婚約者ではあるが伯爵令嬢。顔を上げる許可を出せずに周りの令嬢たちの会話に、口を挟めずにいた。
だが、ユルシュルはダニエラ筆頭侍女より女性の陰険な口撃に対してもきちんと指導されていた。なんといっても、子爵令嬢が王族の側近になることは稀である。
図書館での手伝いも、ユルシュルを助けた。毎日、数十冊という重い本を広大な図書館のあちらこちらに分類ごとに返す作業は足腰を鍛える。
数分でも辛いカーテシーをユルシュルは半刻ほどなら苦も無く出来る。しかし、ウルリーケ殿下まで貶められている事に心がチクチクと痛むが子爵令嬢ごときでは反論もできなく歯噛みする。
そこに意を決したようにカディアが声を張り上げる。思いのほか大きな声になったので恥ずかしくなり後半はだんだんと小さくなっていった。
「ユルシュル・シュミット嬢!お座りなさい・・・・」
ユルシュルは少し目を瞬いたが、表情を整えゆったりと顔を上げ失礼致しますと席に着く。周りの令嬢はカーテシーのまま、ユルシュルが耐えきれず体制を崩してしまう、あまつさえ転倒するまで放置するつもりだったのだろう。面白くないと顔に出していた。ウルリーケ様の傍に仕える方々を見慣れたユルシュルは、高位貴族の子女がこれでいいのか溜息をつきたくなる。
そんな中、カディアは、頬に手を当て首をかしげるとおっとりと話始める。
「皆さまが、ユルシュル嬢にお話を伺うのでしょう?ウルリーケお姉様がなんでしょう?」
「えぇ。失礼しました。カディア様」
「あらあら!今、話題のユルシュル様とお話するのが楽しみすぎてついついおしゃべりが過ぎてしまったようですわ」
「いやだわ!懐が深いところがありますね。と申し上げたつもりでございましたのよ」
「えぇそうですわ」
伯爵令嬢ではあるが、第五皇子の婚約者。未来の公爵夫人をないがしろにしてはいけないと慌てて令嬢達が其々が言い訳めいた事を口々に囀る。
「えぇ。そうですわよね!ウルリーケお義姉様は大変慈悲深いだけではなく、懐の深い帝国が誇る才女であらせられるのですから隣国の王家より婚約の打診があったのですわ!王族へ嫁ぐことが出来る方が何人いらっしゃるのかしら?」
お前たちも、高位貴族ではあるくせに王族、皇子であれば5人もいるのにもかかわらず王族との縁が無いだろうと言外に苦言を呈する。
「左様でございますね。こちらに留学していた第二王子殿下に見染められたとか」
「えぇ。隣国と友好な交流は我が帝国にもすばらしいことですわ」
カディアの声に、侯爵家のご令嬢は賛同し声を上げる。公爵令嬢たちは、賛同したくないのかカディアを軽んじてるのか。両方の可能性もある。このお茶会の本題へと話題を変える。
「ねぇ。シュミット嬢。あなた、ステファン卿とお付き合いされているとか?」
「えぇ。そうですわよね。いくら皇女付とは言え、子爵令嬢で一介の侍女でしょう?」
「そうですわねぇ」
「少し高望みがすぎるのではなくて?」
ユルシュルはやはりこの話か。思ったよりも遅かったなと内心で溜息をつきながらも淑女の顔を崩さず答える。
「はい。わたくしには過分のお声がけにございます」
ユルシュルの答えが不満だったのだろう。否、なんと答えても不満はあるのだろう。令嬢たちの声がとがる。
「あら?貴方、ステファン様からお声かけ頂いただけだと仰りたいの?」
「まぁまぁ、ご自信がありますのね!」
「ふふっ流石、第2皇女様の侍女様ですわね!傲慢です事」
そんな、令嬢たちの口撃はどうでもいいかのようにカディアが口を開く。他の令嬢たちと少し態度が違うように感じ、ユルシュルはカディアを不思議な気持ちで観察する。
「シュミット様。ご卒業後の事は考えてらして?」
「はい。ウルリーケ様へ同行いたします」
ユルシュルの淀みない返事にカディア以外の令嬢達は押し黙る。そんな、令嬢たちを歯牙にもかけずカディアは続ける。
「では、ステファン卿とは?」
「はい。卒業式までかと」
「そう」
カディアは思案気に頬に手を当てる。話が終わったのを見計らったようにまた令嬢達は賑やかになる。
「えぇそうよね」
「弁えているようですわね!」
「本気なわけないのが分かっているようで安心したわ!」
「いい思い出が出来て良かったわね」
辛辣ではあるものの、先ほどより尖った感情が緩まった中。ユルシュルは苦しい気持ちになりながら言葉を返す。
「はい。殿下の戯れでございましょう」
ユルシュルの言葉に、今迄ガヤガヤと好き好きに話していた令嬢たちがぴたりと止まり、カディアが目を見開いて止まる。
「殿下の?」
「・・・・・・はい」
それを聞いて、今迄まったく話に入ってこなかった公爵令嬢がにんまりと笑う。
「ふふっ。シュミット様もご存じでしたのね!あれは、オクタヴィアン殿下とステファン様の賭け事の罰ゲームと」
ユルシュルは最近のステファンの猛アプローチにほだされて薄れかけていた、本当の理由を思い出しギュッと心臓が絞られるように痛む。
「・・・・・はい」
「まぁまぁ可哀想に!」
「あらあら優しいのね。シュミット嬢は!」
「まぁ罰ゲームにお付き合いしているのね。殿下のあの癖も困りものですね。カディア様!」
更に、喜色を孕んだ令嬢たちの言葉ににこやかに淑女の微笑みの顔をつくりつつ視線をぼやかしていたユルシュルは知らなかった。カディアが驚愕の顔になり青ざめていたことを。
拝読ありがとうございます。
ユルシュル・シュミット子爵令嬢(16)今年で卒業で成人
髪型:ストレートロング一つ三つ編み 髪色:シアン 瞳:スカイグレイ
カディア・ニコラ伯爵令嬢(14)
髪型:ストレートロング姫カット 髪色:チェリーピンプ 瞳:サファイアブルー
その他、侯爵令嬢・侯爵令嬢




