025 なんでこうなった! ~オクタヴィアン皇子視点~
そう!殿下のその後です。
ざまぁ?なのかな?
俺は何故、今床に膝を付けて座っているんだ。皇子なのに。公爵位を賜っても王族なのに・・・・
しかし、新築の新しい執務室の真新しい絨毯だけあって毛足が長くて良かったぁ。膝も脛も思ったよりも痛くない。
「聞いてるの!オクト!」
怒声にビクッと体が反応して、背筋がピンッと跳ねる。俺の目の前にはチェリーピンクのサラサラした長い髪を背中に流し、肩幅に両足を広げ腰に手を当てサファイアの様な美しい青の瞳で俺を睥睨している女性が立っている。婚約者のカディアだ。
「ねぇ。どうなっているの!?私、皇都でステファンとケヴィンからも暇の挨拶を受けたんだけど!」
先月、学園を卒業した俺は、再来年になるだろうか。2つ下の婚約者であるカディアが学園を卒業し婚姻したところで賜る皇領西の端の公爵領へ来ている。公爵領主邸は三番目の兄上が皇太子に任命された3年前から着工しており、3ヶ月前に完成した。3づくしだなとどうでもいい事を考える。
公爵を賜るのは2年後でも、それまでに準備をすることは多い。幼少の頃より仕えている執事を家令に任命し、家令の奥方を家政婦長に任命すると彼らは城での執事業務をその息子に任せ公爵領を整えに先行していた。
使用人部屋を整え、執事はそのまま家令の息子に任せるとして、侍女はカディアが連れてくる段取りなので、家令はフットマンや下男、メイドや下女を雇い入れ、まずは領地管理の執務を手伝う側近たちの為の別棟を整え、本館の準備をする俺達の訪れを待っていた。
学園の在学中も長期休みにはステファンやケヴィン、それに執事のリューイ。他の側近たちを連れ立って視察に訪れ、俺の執務室と、側近たちの執務室、会議室から着手し、本館の俺の寝室と主寝室(夫婦の寝室)等を整えていた。調度品や他の部屋はカディアの采配を聞いてからということで今はまだ空っぽの部屋が多い。
そんな館にカディアがいる。何故?長期休みだからか?
「ねぇ。本当に聞いてるの?」
俯き加減になっていた頭を上げ、カディアを見る。怒っているが、ものすごく怒っているが今日も可愛い。
「この体勢じゃ話にならないわ!立って!ここに座るわよ!」
カディアが手を引いて立たそうとしてくれるが、足がびりびりしていて奮える。こんな状態ハジメテだ!病気か!?
「もう、どれくらい床に座っていたの?足がしびれているのね。はい。ゆっくり歩いて」
俺の手を引いてくれるカディアは女神のようだ。あぁ手も柔らかい。テキパキと使用人にお茶と軽食を頼み、俺の横に座ってくれるカディア。天使かな?
「ねぇ。オクト、本当に大丈夫?何で、ステファンもケヴィンもいない事になったの?
私が皇都を離れてる間に何があったのよ。しかも、知らない顔も増えてるし。彼、私と同じ年よね?
2人が揃って辞めるってどういうこと?色々相談したかったのに!」
「・・・・・ステファンは、姉上の侍従になった。隣国ランゲリーヴへ行く。ケヴィンは・・・・・レノー商会に就職した・・・・・」
「はぁ?何で?」
オクタヴィアンは逡巡した。何処から話すかを、【嘘告】はバレてる。でも、その後の色々なことを知らない。そして、二人の希望を最大限に叶えるって言った私の発言がバレたら絶対怒られる。でも、後でバレたらもっと怒られる。怒れる女神はそれは恐ろしい。
少しの間を空けて執事が淹れてくれたお茶を飲み干す。女神のお茶も空になるだろうか。そろそろ温くなっただろうか・・・。そして、ポツポツと事の始まりから話し始める。最後にステファンは愛する人を、ケヴィンは夢を追って俺から離れて行ったと。
女神は、両手で頭を抱え長い、それは長い、ものすごく長い溜息を着いた後に放った。
「ばっかじゃないの?」
淑女教育をかなぐり捨てた女神の鉄槌が心を抉る。
「あの2人をなくして、公爵領なんか回るの?」
女神は独り言のように天井を仰いだ。
そして、俺は背中に冷たい汗を感じた。嫌な予感がする。カディアはあの2人をかなり頼っていた。もしかして、あの2人がいるから俺の婚約したのか!?顔から一気に血の気が引く。がばっとカディアの手を掴むとカディアはびっくりしてサファイヤブルーの目をまんまるとしながら俺の顔を見上げた。びっくりした顔が可愛い。
「どうしたの?オクト。顔が真っ青よ」
掴んでいない方のカディアの手が、俺の頬を撫でる。優しくて暖かい。俺の涙腺は崩壊し、涙を我慢することが出来なかった。する気もなかったけど。
「カディア・・・まで・・・俺から・・・離れないで・・・・」
自分でびっくりするほど擦れた声だった。滝の様に涙を流しながら成人した男が2つも下の天使の様な婚約者に何を言ってるんだ。俺は俺に呆れた。
「どうしたの?急に?」
「・・・・うっ・・ステファンも・・・・ケヴィンも・・・・おっ俺から・・・はなっ離れた・・・うっうっ」
俺は泣きながら、カディアに縋った。離れて行ってほしくない。カディアだけでも、むしろカディアさえいてくれれば・・・頑張れる。
「ふふっ」
カディアが笑う。天使かな?にっこりと微笑み、頬に当てていた手を俺が握った手の上から包み込む。暖かい。ニコリと俺と目線を合わせるといい笑顔で答えた。
「自業自得じゃない?」
悪魔だった。天使の顔をした悪魔だった。そこから、更に辛辣だった。
「オクト。私と貴方との婚約は王命。お・う・め・い・なの。覆らないの。第二妃様のご実家がニコラ伯爵家の寄り親なんだから拒否権なんかないわよ」
「カディアは、俺との婚約嫌だったのか?」
「え?もちろん嫌に決まってるわよ!」
俺はさっき戻った熱を失ったんじゃないかと思うくらい全身が凍り付くように冷たくなる。
「当たり前じゃない?婚約してすぐのお茶会で、私はすごくすっごく緊張したけど頑張っておしゃれしたのよ!それなのに、挨拶もそこそこに蛙。か・え・る出してきたのよ貴方!
あの日は晴れてたけど、前日の雨のせいで芝生が水を含んでたのでしょうね。気絶した私のドレスは背中がまっ黒になって使えなくなったわ。あのドレス、1番のお気に入りだったのに!
そんな男と、王命で婚約して・・・しかも、悪戯は治らず・・・はぁ~他の令嬢に婚約者の変更を何回願い出たことか。でもね!覆らなかった。ナディーヌ様が絶対私がいいっていうのよ。
さらに、あの頃、オクトはたまに会うとウルリーケ様の話ばかり、姉上が~。姉上は~。婚約者のお茶会で聞かされるウルリーケ様の話。
まぁ、私もウルリーケ様の話を聞くうちに尊敬してましたから嫌な気持ちになったのは最初のころだけでしたけど、だってオクトって婚約者っていうより手のかかる弟みたいな感じですもの?」
俺、ふたつ年上なんですが・・・ナディアの話は更に続く。
「あぁ!シュミット嬢に意地悪しようとしたのって好きだったからっていうんじゃないでしょうね!」
「はぁ?何故だよ!なんで俺が!」
「だって、シュミット嬢、ウルリーケ様に似てるじゃない!色彩も確かに似ているけど稟とした佇まいとか才女なところとか、冷たそうに見えてお優しいところとか!
あぁ~そ~ゆ~事ねぇ〜。彼女の事が気になってたけど?自分には婚約者がいるから!側近にちょっかい出させて自分も仲良くって魂胆?
はぁ?側近の妻として来た。夫好みのご令嬢と私暮らさなくてはいけなかったのかしらぁ?
はぁ~嫌になっちゃう!ウルリーケ様がシュミット嬢を連れて行ってくれて本当によかったわ!私、王命で逃げられないのに、そんな結婚生活悲しくてしょうがないわ!」
「違う!俺が好きなのはカディアだ!天使の様に可愛くて!女神の様に俺に寛大で優しくて!俺の事見捨てないでちゃんと叱ってくれて、頭よくて、良い匂いがして、柔らかくて、甘そうで!」
「ちょっと待って!なんか途中からおかしな事になってるわ!」
俺が一生懸命カディアのいいところを言っているのに口を塞がれてしまった。掌が柔らかい。はぁいい匂いがする。俺はカディアの手首を掴んでそのまま掌にキスを落とす。更に指先にキスをし、カディアの顔を見上げる。
真っ赤になってる天使が可愛い。
「そういうのは、駄目って言われたじゃない」
狼狽えてるカディアが可愛い。
婚約した当初、オクタヴィアンは9歳、カディアは7歳だった。すでに恋人がいた第一皇子は、それは、それはその恋人と婚約できそうで舞い上がり溺愛していた。そんな第一皇子がオクタヴィアンにキスをする場所には意味があるんだよ!とにこやかに教えた。余計な事を教える男である。
もちろん、教えられた素直な9歳のオクタヴィアンは実行する。オクタヴィアンは馬鹿ではない。しかし、融通がきかない。愛する人に言葉以外で愛を伝える方法なんだよ。と教えられたオクタヴィアンは婚約者に実行する。
慌てた大人の側近や親たちから待ったが入り学園に入るまでは接近を禁止された。エスコートすらさせない徹底ぶりで、接触を禁止された。
人一人分が必ず空いているお茶会が交流の時間だった。だから、気を引きたくて悪戯が加速したのだがカディアを守るにはそれしかなかった。
さすがに成人してエスコートも出来ないのは困るので、カディアが学園に入ったところから婚約者としての節度ある接触が許された。
「俺は学園を卒業したし、君も学園通っているだろう?婚約者としての節度ある接触の範囲内だと思うが?」
決め顔で、流れるようにカディアの手首に顔を近づけた瞬間。
バシッとオクタヴィアンの額に痛みが走る。額を手で抑え目の前に星がチカチカしているなか振り向くと、ケヴィンの様な笑顔を作った怒りの表情の執事のリューイが高級使用人の持ち物として品の良い扇子にも見間違えるような平たく長い木板に布を巻いた物を右手に持ち、左掌に打ち付けパシパシと音をたてていた。
「オッお前!」
「ステファンより賜りました。オクタヴィアン様専用お仕置き棒にございます。カディア様の危機には行使してもよいという許可を第二妃様より厳命されております。素晴らしくないですか?私めの好みの布と装飾をされてございます。ちなみに、この棒を利用した護身術までご指導いただきました」
にっこりと微笑む執事。あっ!という表情をしてカディアに向き直り隣に控えていた従者の独りから受け取った書類の束をカディアに差し出す。
「こちらは、ケヴィンよりカディア様へとお預かりしております」
紙束を受け取って、パラパラとめくるとカディアが女主人として知りたい事が全て纏まれていた。更には、カディアの好みの装飾品や家具が置いてある商会や作成する職人まで纏めてあった。そう、彼女はこの情報の為に領主館に来たのだった。
「流石、ステファンとケヴィンだわ。貴方もよろしくお願いしますわ。リューイ!」
名を呼ばれ目を見張るリューイに、嫁ぐ家の者だものみんな覚えているわよというカディア。だからこそ第二妃様はカディア様を手放せないんだろうと思って微笑んだ。
書類に目を通しながら感嘆の声を漏らすカディアには先ほどの甘い雰囲気は霧散して、カディア専用の執務机に向かいお仕事モードである。がっくりと肩を落としたオクタヴィアンも粛々と自身の執務机に向かった。
最後まで読んで頂きありがとうございます!
ラブコメなので、最後はあははと終わってほしいなと
3話書いたころには決まっていた最終話オクタヴィアン殿下のその後です。
まぁ、二人は離れて行きましたがカディア様もリューイもいるので
プチソフトざまぁかなと思います。
オクタヴィアン殿下に辛辣な側近たちに囲まれて公爵領を発展させてくれると思います。
次の次か、次の次の次くらいに第一皇子殿下が出るお話を載せていきたいと思います。
いたな、こんな人くらいで覚えてもらえたら幸いです。
また、別の作品でお会いしたいです!
最後まで読んでくださりありがとうございました。




