023 密かな断罪 ~ユルシュル・シュミット子爵令嬢side~
すみません。本当に人が多くてすみません。
最終試験は卒業式の1月前。ユルシュルはきちんと主席を納めた。オクタヴィアン殿下の思惑は叶わず、恋愛を手に入れたユルシュルはその相手の応援によりウルリーケ殿下に相応しくあるため、満点の成績で主席をとった。しかし、ケヴィンもまた満点で同率1位を取りオクタヴィアン殿下を喜ばせた。
もろもろの準備や、それぞれの側近の多忙な仕事の合間にステファンとユルシュルはデートを重ね、仲睦まじく過ごした。流石のオクタヴィアン殿下もステファンのユルシュルへ対する気持ちが本物であると気が付き気まずい気持ちで二人を見守っていた。
卒業パーティーの日の朝。特に女性は一日忙しい。午前中のうちに卒業式が済まされ、卒業パーティーの始まる夕刻までの間に、全身を磨き、化粧を施し、髪を彩る。
ユルシュルの明るい空色の髪に合う鮮やかなレモンイエローのドレスは、マーメイドラインのほっそりとしたシルエットでユルシュルの涼やかな容姿に似合うシンプルな型をしていた。ステファンがドレスを贈るにあたって色だけは譲って貰えなかった。
嬉しい反面恥ずかしく今迄、着たことのない鮮やかな色の選択に困惑したがユルシュルに似合うように誂えられたドレスをみてテイラー達の技術と感性に感嘆の息を漏らした。
卒業パーティーの一刻ほど前にはステファンが迎えに来る。その少し前に準備を終えることが出来た。マーヤとウルズラの満足そうな笑みをみているとステファン様が箱を、持って現れた。
入室したステファンは、ターコイズの瞳を見開いて静止したかと思うとバッと持っていた箱で顔を隠しへなへなとしゃがみ込んだ。何か不備があったかとユルシュルは慌てるが叔母のウルズラや侍女マーヤは微笑ましいものを見るように眉尻を下げている。
「ステファン様。大丈夫ですか?何か、私に不備があったのでしょうか?それとも、お加減が優れませんか?」
不安と心配の混じる声にステファンは今度はバッと顔を上げぶんぶんと頭を左右に振る。折角、センターパートの片側を後ろに撫でつけているセットをしているのに崩れてしまわないか心配してると、立ち上がり箱を侍女に渡しユルシュルの手を掴む。
「綺麗。凄く美しい。はぁ駄目だ、率直すぎる言葉しか出てこない・・・色々表現したいのに・・・」
「んっ。十分です・・・・ありがとう存じます・・・・」
二人で顔を真っ赤にしながら、手を握りあっているので遅れるよとウルズラに言われ。ステファンから宝飾品の入った箱を渡され、ゆっくりと開けるとそこに緑がかった青のブルートルマリンのネックレスとイヤリングが入っていた。
私が着けても?と言うステファンにユルシュルより先に叔母と侍女がもちろんと答える。四人で笑い恥ずかしさを押し込め、宝飾品を付けてもらう。
「はぁ。このまま二人でいるのはどうだろう?」
再度ユルシュルを見つめうっとりするステファンにはいはい遅れるよと言いながらウルズラに馬車に追い立てられる。
会場に到着すると、まだ開始の時間まで間があるので侯爵家以上の家格の人間が使う待合室へと向かう。ステファンはオクタヴィアン殿下を迎えに行くので、ユルシュルは少し休んでいてと言うと待合室を出て行った。
ユルシュルは、お茶を頼みソファーで寛いでいると、扉からミュールマイスター公爵令嬢率いる一団が入室してきた。席を離れたいが、今しがた紅茶を頼んで温かいお茶を受け取ったばかりである。同じ城に仕える者として残して席を辞すのは忍びなかった。
すると、ユルシュルに気が付いたミュールマイスター公爵令嬢たちはやはり真っすぐとユルシュルへ向かって周りのご令嬢たちが声をかけてくる。
「あら?お一人?」
「流石に立場を弁えたのではありませんか?」
「まぁ。未練がましくそのようなお色のドレスと宝飾なんて」
「やだわ。恥ずかしくて私には出来ませんわ。別れた方の色を纏うなんて」
「しかも、この部屋は子爵令嬢が入る部屋ではないわ!」
好き放題話すミュールマイスター公爵令嬢の周囲のご令嬢達は、ユルシュルの返事は必要無いように交互に話している。名前を出して声をかけられたわけでもないのでユルシュルも返答するべきか否かと考えているとその中の一人が給仕が持っていた葡萄酒を受け取りユルシェルに向かい手を滑らせる。
その瞬間、ユルシュルは背後で給仕をしていたメイドのトレイを手元から取り瞬時に構え、ドレスは足払いで奥へ避ける。葡萄酒の入ったグラスはトレイに当たり手を滑らせた令嬢の元へ跳ね返る。
「キャー!私のドレスが!何ってことをするのよ!」
ユルシュルはステファンから贈ってもらったドレスを汚すわけにはと、咄嗟に動いてしまったがこの後、どうしたものかと心の中で溜息をつく。すると、視界いっぱいに自身のドレスより白が強い金の光沢のあるタキシードの背中が入る。
「ステファン様!この女が私に葡萄酒を!」
葡萄酒を浴びた令嬢はちょうどいい状況だというようにユルシュルに罪をなすりつけようと声を上げるがステファンの顔は憎悪に染まり、低い声で返される。
「貴方がシェルに投げつけたからでは?」
すでに目の前にいるのだから、だいぶ前からステファン達はこの応接室に入っていた。令嬢はいつから見られていたのか気がつき青ざめるが全てが遅かった。手を叩く音がしてミュールマイスター公爵令嬢令嬢を含む葡萄酒に汚れた令嬢もその手を叩く方向へと顔を向ける。
「いやぁ。ステファンのお相手のお嬢さん。なかなかやるねぇ。あの素早さは凄いよ!ウルの傍に君みたいな子がいるのは安心出来るな」
ゆったりと歩きながらハスキーな声は落ち着いていて、その発言は穏やかに響く。王族の正装に身を包んだオリエンタルブルーの髪を後ろに撫でつけた男性が銀の瞳を弧の字にして微笑んでいた。そこにいるオクタヴィアン殿下以外の全員が礼の形をとる。
「ミュールマイスター公爵令嬢」
「はい。我が帝国の太陽で在らせられる・・・・」
「今、挨拶はいらぬ」
「はい」
「彼女は君の友人かい?」
その人は、ドレスを葡萄酒で汚した青い顔の令嬢をチラリと見てミュールマイスター公爵令嬢に語りかける。その声はどこまでも穏やかだが威圧感はヒシヒシと伝わる。
「知らないご令嬢にございます」
「えっ!?ぐっ」
「そうか・・・・・カディア。彼女を頼めるか?」
「はい。王太子殿下の御心のままに」
ステファンと共に入室してきたのはオクタヴィアン殿下達だけでは無く、本日の帝国立の学園の卒業パーティーの挨拶を行うため陛下の名代で訪れたテオフィル第三皇子殿下だった。
王族専用の待合室もあるが、正妃である同母の妹ウルリーケ第二皇女お気に入りの侍女がステファンのパートナーとして待合室で待っていると言うので、好奇心に駆られた王太子がステファンに着いてきたのだった。
テオフィル王太子の指示によって、顔を青くした令嬢はカディアに支えられて退室した。カディアに任せておけば卒業パーティーに参加することは出来るだろうと見送り、視線をミュールマイスター公爵令嬢に戻す。まだ終わっただけではない。
「ミュールマイスター公爵令嬢は、まだ婚約者が決まっていないのであったな?」
急な会話の転換にミュールマイスター公爵令嬢を始めとしたその場の人間が内心狼狽するが、流石の公爵令嬢はすぐに気持ちを立て直し問いかけに少しの喜色を含ませ顔を上げて答える。
「はい。私に相応しい立場の殿方の役に立ちたいと望んでおります」
テオフィル王太子の、銀の瞳をみつめうっとりと答える。なぜ、笑顔だが銀の目が冷ややかにも拘らずその顔が出来るのか顔を上げているオクタヴィアンだけが溜息をつく。
「ほう。国に尽くしたいと?」
「はい。そのように高度な教育を受けております」
にんまりとテオフィル王太子は微笑み、それは、素晴らしい心がけだと称賛する。そして、思いついたような顔をして話を続ける。
「北の国キャウトィランヴ国と西の聖ルゥフィーナと我が国が重なる辺境伯領があるだろう?実はそこは辺境伯という高位貴族なのだが、まぁ魔獣もでる地域だから嫁が見つからなくてな困っていたところなんだ。其方の様に高尚な心がけの令嬢に出会えて心から感謝するよ」
「え?ですが・・・辺境伯は・・・」
「あぁ。36歳の男盛りだ。顔は少々強面だが領民思いの優しいいい男だぞ。王都で贅沢だけを好む令嬢では無理だと言っていたが、其方は国に尽くしたいのだろう?辺境伯領は国防の要。国にとって重要な場所だ。
それに、軍事力は必要だが資源が少なく財政に少々難儀をしている。国としても支援を行っているが、高度な教育を受けた其方は彼の大きな力になるだろう。
父上は来場しているか?」
「・・・・・はい。そろそろ着く頃かと・・・・・」
「それはいい。呼んで参れ」
「・・・・はい・・・・」
ミュールマイスター公爵令嬢は青い顔になり周りの令嬢に支えられ会場へ父親であるミュールマイスター公爵を探しに行った。
「兄上、本当にミュールマイスター公爵令嬢を辺境伯へ嫁がせるのですか?」
王太子はふっと笑うとまさかと答える。
「公爵には、彼女は『お国の為に』と言っていたがどうだ?と問うた後に、王都の近しい子爵以下に嫁ぐか。辺境伯へ嫁ぐか選ばせるさ。
辺境は本当に重要なんだ。公爵令嬢にも打診し断れたとなれば、年齢を理由に貴族令嬢でなくても婚姻を許せるだろうしな」
「辺境伯にも良い人が?」
「あぁ。元貴族で賢い女性だ。ずっと奴を支えている。そろそろ結婚させてやりたい」
王太子の思惑に丁度いい公爵令嬢を見つけ話をしたようだった。さすが、王太子に選ばれる方がゆったりと穏やかな話し方であるが何とも腹芸がお上手である。
「ユルシュル・シュミット嬢、すまないがこれで勘弁してもらえるかな?ミュールマイスター公爵の嫡男はなかなか優秀な男なんだ」
穏やかに申し訳なさそうにユルシュルを呼んだ王太子にユルシュルは、一瞬グレイの目を見開き穏やかに微笑み答える。
「私には何も起こっておりません。ですが、貴族令嬢として寛大なお心遣い感服致します」
「ふはっ。感服か。なかなかおもしろいお嬢さんだね。ステファン、大切にするんだよ」
王太子はそういうと、オクタヴィアン殿下を伴い王族専用の待合室へと向かった。
拝読ありがとうございます。
ユルシュル・シュミット子爵令嬢(16)今年で卒業で成人
髪型:ストレートロング一つ三つ編み 髪色:シアン 瞳:スカイグレイ
ウルズラ・シュミット子爵令嬢(24)ユルシェルの叔母
髪型:ストレートロング、ひっつめ束ねた 髪色:サファイヤブルー 瞳:カイグレイ
マーサ・バシュ元男爵令嬢(現在貴族籍なし・マーヤ)現ウルズラの家の侍女
髪型:ウェーブセミロング。編み上げ 髪色:チョコレート 瞳:オレンジ
ステファン・トリュフォー侯爵子息(16)
髪型:ストレート・ショート・センターパート 髪色:レモンイエロー 瞳:ターコイズ
オクタヴィアン・リーヴバレンティ第五皇子殿下(16)
髪型:ストレートロング 髪色:カーマイン(赤) 瞳:ジョンブリアン(黄金色)
テオフィル第三皇子・王太子(20)
髪型:ウェーブロング 髪色:シアン 瞳:チェリーピンク
ミュールマイスター公爵令嬢(16)
髪型:ストレートロング 髪色:黄金色 瞳:コバルトブルー




