019 お茶会と告白 ~ユルシュル・シュミット子爵令嬢side~
21時までには上げたいとは思っているんです。
<<ユリス視点>>
あぁ少し顔色が良くなっているな。ステファンが入室してくる姿を見てユリスは少しほっとする。ふと目が合うとお辞儀をしそうになっているのでそれを小さな合図で止める。
「初めまして、ユルシュルの兄のユリス・シュミットと申します。以後お見知りおきを」
ユリスに続いてオデットがこちら側の人間ですというように自己紹介する。こちらは、ケヴィンとは家のつながりで面識があるが、ステファンは初対面という体で進める様だ。たしかに、ケヴィンとオデットの雰囲気は気安く初対面というのは無理だろう。
最近、商会の関係で知り合い時々顔を合わせるという事にしてるのか・・・ちょっと無理ないか?結構、頻繁に会っているような気がするが・・・分かっていて、分からないふりをすることは、シェルにも出来るかと考える。
自己紹介が済み、ケヴィンがユリスに領では何をしているのか、今回の帝都滞在は何の用で来たのか。という質問から、春にはオクタヴィアン殿下が公爵領を賜り、自領を運営していかないと行けないと話をしていた。
ユリスも5年前の天災により、農耕地域であるシュミット領は大ダメージを受けたこと、それによる借金があるが順調に返済している事。
さらには、シュミット子爵家の土地は桑が多く生育しているため、今度オデット嬢が蚕の生育をしていくのはどうかと提案してきたので、小規模から気候が自領に合うのか挑戦するといった事を話していた。
ステファンは、真面目に相槌をうちつつ時々ユルシュルを見る。目が合うと二人で微笑み合うという少しの焦りはあるが穏やかな時間を過ごしていた。
ユルシュルも、1週間前よりは顔色が良くなっているとは言うもののステファンは明らかに体重を減らしている姿に痛ましく視線を向けていた。ユリスやケヴィン、オデットの話にも相槌をうちつつ時折体調は大丈夫かとステファンを気遣う姿はどう考えてもお互いを思いやっている二人だった。
「今日は、本当に楽しかったよ」
ユリスの言葉に、このお茶会の終わりを感じステファンが少し慌てる。ケヴィンもオデットまでもが困った様に眉を下げる。1つ下の彼らを可愛いと言ったら怒られるのかなと思いつつユリスは話を進める。
「トリュフォー卿。最近、ユルシュルの時間を私が取ってしまっていたようです。本日は、まだ時間はございますか?」
ユリスの言葉に、ユルシュルは慌てて兄の袖を引くがユリスはこの為に、このお茶会を開いてもらったのだから引き下がるわけがない。少し呆然としたステファンが慌てて意味を飲み込み、ユリスへの返事とユルシュルへの伺いを立てる。
「ユリス様と呼ばせて頂いてもよろしいでしょうか?私もステファンと呼んでください。
お心遣いありがとうございます。私にはこの後予定はありません。ユルシュル嬢は今からお時間ありますでしょうか?」
「あぁ。今日はこの後は二人での晩餐以外予定もない。そうだ!晩餐までステファン様もどうだろうか?」
「是非!」
ユルシュルが、返事をする前にユリスが答える。ユルシュルにお兄様!と呼ばれるがユリスには何も響かない。それに、ステファンがお招きを受けてしまっては今からユルシュルがお断りするのは難しい。ユルシュルは、会うのをためらっていただけで、会いたくなかったわけではないので困ると嬉しいが入り混じった感情を持て余しつつステファンとの逢瀬に了承した。
◇◇◇
ケヴィンとオデットを見送りに玄関に出ると、突然ユリスが晩餐までには戻ると言って2人を乗せたレノー家の馬車に乗り込んでしまった。
ユルシュルは、ポカンとしているステファンと共に一緒に立ち尽くす。突然の二人きりにされ焦っていると、侍女のマーヤが小さな庭ですが、最近温かくなり花が増えておりますと小さく伝えて来た。
小さなタウンハウスなので、あまり大きくはないが庭がある。マーヤの夫が庭師なのでこの屋敷を始めこの地域の庭も手掛けていると聞いたことがある。愛でる時間がなくても、邸を整えるのは貴族の義務というわけで職人を複数人で雇用しているわけである。
ステファンに、庭に参りますか?と伺うと先ほどまでの貴族的な微笑みでは無くふにゃっと顔が緩み是非と言いながらユルシュルにエスコートの手を差し出す。驚いて顔をじっと見つめてしまったらしくステファンは顔を耳まで赤らめ逸らしてしまった。それでも、まだ差し出されたステファンの手にユルシュルの手を乗せてる。
あちらですと先導する侍女に促されステファンが歩み始める。小さな中庭は歩き回れるほどの大きさは無いが建物の陰になる場所にいくつかのベンチが設置されており、夕方に差し掛かり始めて陰ったベンチへとステファンが歩みを進める。
ベンチに着くとステファンが上着を脱ごうとするが侍女によってベンチに暖かそうな敷物が敷かれ、更にユルシュルの膝の上にはブランケットが素早くかけられる。少し面食らった顔になったステファンも敷物が敷かれ温かいベンチへと腰を降ろす。
侍女は、後ほど温かいお飲み物をお持ちしますと言って館へ戻って行った。ステファンとはお見かけはしていたが、一月ほどこのように落ち着いて会っていない。何となく沈黙が続く。沈黙を破ったのはステファンだった。
「・・・・シェル・・・私は君に言わなくてはならないことがある」
思わずステファンの方に顔を向けると、彼は頭を深く垂れて頭を抱えるように項垂れていた。
「シェル。君は・・・僕が何故、君に告白したのかを、正しく知っていない」
胸のあたりがギュッと苦しくなり鉛のように重くなる。あぁ。もう終わりなのだと悟る。こんなに早く終わりを迎えるのであれば、避けてデートを断らなければよかったと浅ましい気持ちが湧きあがる。
ステファンは、ゆっくり立ち上がりユルシュルの前に跪く。石畳は敷いてはあるがそこまで磨きこまれた庭ではない。服が汚れると思ったがステファンの真剣な顔にこの言葉は飲み込まれる。
ステファンは、膝の上に組まれたユルシュルの手を握り一度俯く。彼は嘘の告白などしたくなかったのだろう。きっと、彼が痩せたのは罪の意識だろう。罪悪感で彼をここまで追い詰めてしまったのだとユルシュルは思い至った。自分が、長引かせた為に苦しい思いをさせてしまったのだと目の奥が熱くなる。しかし、ここで自分が泣いては卑怯だと。彼が騙したことの罪悪感が増してしまうとユルシュルは必死で涙を堪える。
「シェル。私が、貴方に私の心を伝えたのは、殿下の悪戯に便乗しての事だった・・・
だが、私が貴方を・・・・貴方を慕っている気持ちは・・・心は・・・嘘偽りがないのだと知ってほしい。
君を愛している。
君に会えなくて辛かった。
自分の愚かさに嫌気がさした。
君に嫌われてしまうのは仕方が無いとは思う・・・・けど、私の気持ちが偽りでないということだけは知ってほしかった・・・・
今迄・・・・ありがとう・・・・・」
そう、言い述べたステファンの手がユルシュルから遠ざかろうとする。温もりが離れた手は思わずその温もりを追いかけた。少し周りに赤みがさしたターコイズブルーの瞳を見開きステファンが固まる。
ユルシュルは、自身も伝えなくてはいけないと・・・浅ましくも自身も同じ気持ちであると伝えなくてはならないと・・・けれど、喉の奥から溢れてくる感情は頬に熱を与え、瞳を潤ませ、鼻の奥を刺激するだけで一向に言葉にならない。
ただただ、繋がれた手だけは離したくないとギュッと握りこむ。ユルシュルのいつもとは違う様子にステファンもどうしたらいいのかわからないのだろう。彼まで、目が潤んでるように見える。私の目が霞がかかっているのでそう見えただけかもしれないけど・・・
ステファンは、ユルシュルが縋るように握りしめた手を上から包み込むと再びユルシュルの前に膝をついた。握られた手はステファンの額に押し付けられ、どれくらいの時間そうしていたかわからない。ユルシュルの手は解かれ、その手はそのまま下に降ろされステファンの頬を包み込む。
「私は・・・希望を持ってもいいのだろうか?」
ステファンの言葉にユルシュルは目を瞬く。希望?なんの?混乱しているユルシュルには何も返せない。ユルシュルが返事を出来ずにいると再びステファンから問いかけられる。
「貴方から・・・愛されるという・・・希望をもってもいいの?」
愛される?私から?私はステファンをお慕いしているし、デートを重ねて愛・・・してるかもしれないとは思っている。私は、ステファン様を愛している。そこまでは、分かる。
何故、ステファンが希望を持つのか・・・不思議な気持ちでステファンの顔を見る。彼の顔は全体的に色味を失っているが目元だけが赤い、ターコイズブルーの瞳は透明な何かで揺れている。
ユルシュルは、やっと。初めて理解した。ステファンが囁く愛が【嘘】【偽り】無く【本当】であるという事に・・・・ならば、ユルシュルも本当の気持ちを伝えなくてはいけない。絞り出す様に声を押す。
「わっ。私も・・・1年の・・・時から・・・ステファン様を心より・・・・・お慕い・・・・・しております」
涙の防波堤が限界だった。そこからは、二人抱き合い涙腺が壊れたように号泣した。泣きやんだタイミングで温かい飲み物を持ってきた侍女には全て把握されているだろうと恥ずかしくなったが、ステファンと目を合わせて二人で笑いあうと恥ずかしさはどこかへ行った。
その後は、真っ暗になってランタンまで掲げられている庭から談話室に移され暖炉の前に二人並べて座らされ晩餐はなしです。と言う侍女にブランケットを二人まとめてかけられ。たくさんの具が入った温かいスープと卵がたっぷりの卵サンドを出され二人でお行儀悪く寄り添いながら食べた。
後から聞いた話では、お茶会からユリスの手配で私たちがいい雰囲気な所に帰りたくないと言ってちゃっかりケヴィン様のお宅にお泊りしていた事に嬉しいやら呆れるやらで何も言えなくなった。
拝読ありがとうございます。
ユルシュル・シュミット子爵令嬢(16)今年で卒業で成人
髪型:ストレートロング一つ三つ編み 髪色:シアン 瞳:スカイグレイ
ステファン・トリュフォー侯爵子息(16)
髪型:ストレート・ショート・センターパート 髪色:レモンイエロー 瞳:ターコイズ
オデット・レノー男爵令嬢(16)
髪型:くせ毛ロング・ハーフアップ 髪色:ラズベリー 瞳:オリーブ
ユリス・シュミット子爵子嬢(17)
髪型:くせ毛ツーブロック 髪色:キャロットオレンジ 瞳:スカイグレイ
ケヴィン・エチエンヌ伯爵子息(16)
髪型:くせ毛・ミディアム 髪色:ボトルグリーン(深緑) 瞳:グレープ
マーサ・バシュ元男爵令嬢(現在貴族籍なし・マーヤ)現ウルズラの家の侍女
髪型:ウェーブセミロング。編み上げ 髪色:チョコレート 瞳:オレンジ




