018 其々の思いやり ~ステファン・トリュフォー侯爵子息side~
ちょっと暗めになりました。
コンコンとノックの音が響き、入室の許可を出す。昨日の午後から今日1日休みを貰っていた。少しオレンジ色の入った光が差し込む自室でステファンは集中できない本を読んでいた。
入室してきた幼馴染のケヴィンは、ステファンの顔を見るなり少しほっとした顔をして席につきながら少しは食べれたのか?と聞いてきて、従者が準備するお茶に口をつけた。
「あぁ。昨日から少し食事が変わったから吐かなくなったんだ」
「そうか。気持ちが元気出ないときは、身体が通常の食事を受け付けない事があるそうだ」
「そうなのか。使用人に誰が指示したんだろう・・・」
現在、両親と長兄家族はトリュフォー侯爵領の領主邸に戻っている為、ステファンが住んでいるトリュフォー侯爵家のタウンハウスには学園に通うステファンと城に出仕している次兄が生活している。次兄は、宰相省に籍を置いているためか常に忙しく週に数度しか帰らないと使用人たちからも聞いていたしステファンも月に数度会えばいい方だった。
「それは、ユリス様からの手紙を家令に渡したからだ」
「ユリス様が?」
「あ~ん~・・・」
「なんだい?」
ステファンの問い詰める様な声に、ケヴィンはためらったが無言の圧力に負けて観念して話し出す。
「ああ。シュミット家の下の妹君は少し思い込みが激しい?らしく、良く食事をとれなくなるらしい」
「は?」
「それで、まずはホットミルク、それを吐かない様なら次はミルクパンがゆ。それが食べれたら薄く塩味だけの卵パンのかゆって感じの指示書を昨日書いてくださったんだよ」
「え?」
ステファンは何を言われているのかわからなかった。ただでさえ、ユリス様の妹・・・ユルシュルに迷惑をかけている自分に何故?そんな助言をと困惑するしかなかった。また、頭がボーとしだしたがケヴィンの呼び声に反応する。
「ステファン!ユリス様からの言われたことを覚えてるかい?」
「え?」
「まずは、きちんと食事と睡眠を摂って体力を回復しなさいって。シュミット嬢とはユリス様が必ず会わせてあげると約束して下さった。まずは、何も考えず休め」
とたんに鼻の奥がツーンと痛み、目から温かいものがボロボロと落ちる。あぁしょうがないなと言いながらケヴィンが席を立ちハンカチを渡す。私の従者にたぶん足りないからタオル持ってきてと頼むのが聞こえた。大きなお世話だ・・・・・が、余計に涙が止まらなくなったのでケヴィンの言う通りハンカチじゃ足りないだろうと思いなおす。
「それで、昼食は何を食べた?」
突然のケヴィンの質問にえぐえぐと返事が出来ないでいると、タオルを持って戻ってきた従者がケヴィンに向き直り昼食は塩味の卵パンがゆ、お茶の時間にはそれに砂糖を足した物をお召し上がり頂き、嘔吐はございませんと伝える。
「そうか。順調だね。それを続けて。今日、ユリス様からそれ以降の食事を手紙で頂いたからまた家令に渡しているんだ。気分が悪くなるようならその1つ前のレシピに戻してって仰っていたよ。それもメモに書かれてるとは思うよ。
あっ!ステファン。君は1週間休みだ。流石に、最近の顔色の悪さは尋常じゃない。殿下のせいですね。って言ったら殿下も了承したよ」
爽やかに黒い笑顔でケヴィンは言い放った。ケヴィンも怒っているのだろうか・・・自分の周りの人間、初対面なのに体調を心配してくれるユリス様のおもいやりにまた涙が溢れだした。
「まぁ。君は少し休みなさい」
じゃあ、また様子を見に来るねとケヴィンは帰って行った。泣き疲れた私は眠くなり、楽な服に着替えさせてもらいベットへと入った。夕食前に、お声がけしますねと従者が出て行く頃には意識は遠のいていた。
◇◇◇
お休みを貰ってから、三日が経ち今日の朝食は普通のパンとスクランブルエッグにソーセージが付いていた。生野菜はもう少し様子を見たいと家令に言われ茹でられた人参とブロッコリーだった。それから、吐き気も無いので今は庭園で散策している。
食事が取れるようになったら鍛錬と基礎体力運動をしないといけないと考えながら散策して自室に戻る。すると、自室の執務机の上に二通の手紙が届いていると従者が持ってきた。
薄い青に銀糸の模様が描かれた封筒で心が跳ねる。もう1通は、上質だがシンプルな白の封筒だった。薄青の封筒が気になりはしたが、それを読んで平常を保てるのか分からず、先に仕事かもしれない白の封筒から封を切る。
それは、ユリスからの突然の手紙を詫びる言葉から始まり、体調を伺う文面が並んでいた。ケヴィンが訪ねて来た日から涙腺は崩壊して度々、号泣するという事を繰り返していたが、昨日よりやっと涙腺がまともに仕事をし始めたと思ったらまた涙があふれる。
体調を気遣う文面の後にはユルシュルと2人で会うように言うのは、今の二人には酷かもしれないからユリスの我儘でユルシュルの友人に会いたいと理由を付けてお茶会をすることになった事が書かれていた。
しかも、参加者はステファン・ケヴィン・オデットとユルシュルとユリス。事情を知る者たちだけでステファン殿が話が出来そうなら3人はいつでも席を外せるようにするとまで書かれていた。
また、涙腺が壊れたように瞳から溢れる温かいものに従者はすぐさまタオルを渡した。もう、慣れてしまっていることに苦笑いをしつつタオルに顔を埋める。従者は擦ってはいけませんと言いながら席を外す。飲む水と顔を冷やす準備をしにでるのもここ数日の彼の仕事になっていて非常に居たたまれない。
従者が、戻るころには落着いた涙をふき取り水を貰う。深呼吸を数度繰り返した後に、薄青の便箋の封を開ける。タオルは残念ながら離すことが出来ない。
ずっとこの色の便箋を、毎日、毎日心待ちにしていた。でも、それは彼女が殿下との【賭け】の事を知らないと思っていたから、ステファンは最初からユルシュルに好感を持っていたし、デートを重ねてからはどんどん可愛さが増していった。普通の恋人同士のやりとりのつもりで交わしていた手紙だった。
しかし、今は違う。彼女は知っていた。しかも始めから知っていた。彼女は今までどんな気持ちで自分の手紙を読み、どんな気持ちで返していたのかを考えると胸が軋む。それに、今日の手紙はどんなことが書かれているのか・・・。
ユリス様はステファンをお茶会に誘ってほしいとユルシュルに頼んだと仰っていたがそれについて何も触れていなかったら?彼女が最初から誘うつもりが無かったり、断ってほしいと書いてあったらとぐるぐる考えながら恐る恐る薄青の便箋をひらく。
一文字一文字、目で追い。単語を反芻しながら読んだ。少し読みたくないという心情が目を滑らせるのを抑え。きちんと単語と単語の意味を考えながら最後まで読んだ。やはり、大粒の涙がまた溢れた。さきほど、すでに湿らせたタオルに顔を埋めた。
「坊ちゃま?」
従者の気づかわし気な声に顔を上げ笑みを返す。きっと、酷い顔だろうかとは思う。
「彼女が・・・・シェルが・・・お茶会に呼んでくれました。しかも・・・体調の心配まで・・・・」
そこまで言うと、また涙が込み上げてタオルに戻る。従者は、わかりましたと返すとコップに水を足し足早に部屋を出て行った。
他の使用人に準備の連絡なのかと、ふと顔を上げるが閉まる前のドアの向こうから嬉しそうにステファンがユルシュルに会える事を伝える声が小さく聞こえた。ステファンは、たくさんの人間に気を使われ、支えられていたことに気が付いてまた涙が溢れた。
拝読ありがとうございます。
ステファンの涙腺は崩壊してますね・・・
ステファン・トリュフォー侯爵子息(16)
髪型:ストレート・ショート・センターパート 髪色:レモンイエロー 瞳:ターコイズ
ケヴィン・エチエンヌ伯爵子息(16)
髪型:くせ毛・ミディアム 髪色:ボトルグリーン(深緑) 瞳:グレープ




