015 私も聞きたいことがあります。 ~オデット・レノー男爵令嬢視点~
切るには短く。
長くなってなってしましました。
オデットが、『夕日色の髪の男』はお兄様だと告げた後です。
『え?』と言葉には出てないがしっかりとそんな表情をする4人にオデットは内心で溜息をつく。
高位貴族がこれでもいいのか?この状況がこの人たちをこんなにも表情豊かにしているのか・・・オクタヴィアン第五皇子の悪戯好きは有名だが、公務や執務での失敗は無い。
領地経営科の成績も忖度なく優秀で天真爛漫な性格は他の兄皇子から可愛がられているため皇家の立ち位置としても悪くない。どころか、自らの立ち位置をよくわかっていて、公爵領も皇家預かりで皇都からは少し距離があるが海路を開くことが叶うのであれば発展が見込める場所を自ら陛下に願い出たと言う話は、同年になった貴族子息令嬢は知っていた。
それなりに優秀で親しみやすい。困った(悪戯)癖があるが憎めない皇子殿下というのがオクタヴィアン第五皇子の評価である。
それに伴い、オクタヴィアン第五皇子の婚約者、側近も人気がある。親しみやすい性格に、鼻にかけない優秀さ、皇家に近しく歴史のある家々出身であり見目は美しい。
いくら親しみやすいと言われている彼らであってもポカンとした顔など、見たことのある人間はどれくらいいるのだろうか。とオデットは現実逃避気味に眺める。オデットの声に1番早く反応できたのは、その回答を望んでいたステファンは勢い良く立ち上がった。
「本当ですか!オデット!」
「・・・・・トリュフォー侯爵子息。何故、名前で呼び始めたのでしょう?」
「あっあっ!失礼しました!えっ。えっと。・・・・・いつもシェルがレノー嬢を『オデットが』『オデットと』と良く話されるのでつい・・・・大変、ご不快な思いをさせました。申し訳ございません」
「そこまでは謝る必要はございません・・・・先ほどから、高貴な人間がそれほどまで下位の者に頭を下げてよろしいのでしょうか?私、男爵令嬢なのですが・・・・」
あまりの丁寧な扱いにオデットも取り繕う事を半ば忘れてしまいそうになる。本当に勘弁してほしい。自分が気を抜いたら不敬だと言われてしまうのではないかと恐怖を感じてつい問うてしまった。すると意外な人から言葉を返された。
「自分に落ち度がある場合や、自分が教えを乞う場合に相手に真摯に丁寧に接することは当たり前ではないか?」
オクタヴィアン第五皇子殿下の声を初めて聞いたオデットは固まった。そして、その内容に殿下の周りに人が集まる意味を理解する。オデットは見開いた眼を、柔らかく細め答える。
「はい。私もそう思います。私共も、目上の方がそのような考えをもって頂くのは大変喜ばしい事だと存じます」
今迄の強張った顔が緩んでしまったオデットは顔を引き締めるが、それとは真逆にカディアは砕けた口調になる。
「出たわ!殿下の人たらし!」
「カティ!殿下はやめろと言ってる!」
「人前でカティと呼ばないで!」
ん。ゔん。オクタヴィアン第五皇子の背後に控えているチョコレート色の男が咳ばらいをして止めた。急に私的な雰囲気に目を瞬いているオデットだったが、ステファンとケヴィンは白けた目で二人を眺めているので通常運転なんだと苦笑いを抑え淑女の微笑みを装備する。
「恥ずかしい所を見られてしまったわ!ここで見たことは内緒よ。レノー嬢。オデットと呼んでもいいかしら?私もカディアと呼んでほしいわ」
カディアの言葉に他の方々も便乗する。
「私もステファンと呼んでください!シェルの友人は私の友人です!」
「私もケヴィンでいいです。是非」
「私もオクタヴィアンと呼んでもいいぞ!」
「・・・・・畏まりました。カディア嬢・・・カディア様。・・・・・・ステファン卿、ケヴィン卿・・・・・・・・・殿下、ご勘弁くださいませ・・・・私のことはオデットと呼んで下さいませ」
カディアの申し出に、やっとのこと答えを返し、何とかステファンとケヴィンを目上の者を呼ぶ『卿』付けで許してもらったが流石にしがない男爵令嬢、殿下を名前呼びするのは本当に勘弁してほしいと懇願した。
「そうね!私が一番親密ね!オデット様!何か聞きたいことがあると仰っていたけど何かしら?」
既に今迄のやり取りで疲弊しているオデットだったが、これだけははっきりしなくてはと精神力を奮い立たせる。
「はい。現在流れている噂の真相でございます。ユルシュルへのステファン卿の告白は罰ゲームであり【嘘】の告白という事が上位貴族の中で当たり前に話されていると伺ったのですが、その真相をお伺いしたいです!」
オデットの声に、血色を取り戻していたステファンの顔色が蒼白になる。
「オデット嬢・・・それは何処から・・・高位貴族の中でとどまっている話のはず・・・え?オデット嬢の耳に入るという事は・・・・シェルにも伝えたのですか!?」
そんな事、私の口から確証もなくユルシュルに伝えるはずがないと憤慨しつつ、震えた声で言い募るステファンを見て事実なのだと確信を持つ。でも、何かがおかしい。すべてを把握しなくては、ユルシュルが傷つかない様に立ちまわるためには・・・・
「確かに、伯爵位以上の高位貴族と子爵や男爵、裕福な平民の棟は別れています。目指すところによっては同じ講義もありますが、社交界のパーティーと同じように住み分けがこのリーヴバレンティ帝国の常識でございます。
しかし、私たちの世代は高位貴族が極端に少ないのです。有望で名家な子爵の嫡男、裕福な男爵は時勢に聡い伯爵令嬢や侯爵令嬢の嫁ぎ先として人気があるのです。
この噂も、ユルシュルの事を心配した子爵男性の妹君がわざわざ高学年のクラスに私を尋ねて教えて下さいました。ユルシュルの耳には確証もないのに入れておりません」
答えを促すオデットのオリーブの瞳が真剣なまなざしでステファンを捉えている。沈黙が続いた後、突然オクタヴィアン皇子殿下が頭を下げる。
「すまない!ステファンがシュミット嬢に【嘘】の告白をしたのは私の責任だ!しかし、ステファンは本当にシュミット嬢を慕って・・・」
「嘘から、本当に恋に落ちたんですか」
不敬とは分かっていたが、こんなにも人の心を弄ぶような人なんだと沸々と怒りが沸き、先ほど上がったオクタヴィアン皇子殿下の好感度がだた下がり思わず声に出た。
「最低ですね。今は、心が変わり慕っていようと【嘘】の告白をして人の尊厳を踏みにじる行為をした貴方方を私は軽蔑致します。私の発言を不敬ととらえるなら不敬と訴えられてもかまいません。失望しました。私はこれにて失礼します」
オデットはさっと立ち上がると素早く真っすぐに部屋を出た。
◇◇◇
「オデット嬢!申し訳ございません。もう少しお時間はありませんでしょうか?もしくは、後日お時間を頂くことは可能でしょうか?」
オデットを追いかけて来たのは、以外にもケヴィン・エチエンヌ伯爵子息だった。彼は普段あまり運動をしないのだろう。息を乱しながらオデットの進行方向に割って入ってきた。
勢いで、出てきたオクタヴィアン第五皇子の応接室での発言を振り返り、自分が訴えられることはあったとしても、レノー男爵家に類を及ぼさない為にはどう立ち回らないといけないのか回らない頭で考えながら歩いていたオデットの顔は真っ青だったのだろう。オデットの顔を覗き込むかたちになったケヴィンは慌てて説明をする。
「あっ、と、先ほどの発言は、シュミット嬢のご友人としてはあまりに当たり前の意見になりますので!殿下共々、貴方を不敬だと訴えることはございません!ご安心下さい」
ケヴィンの発言を反芻していると、ケヴィンは胸ポケットから薄紫のハンカチを取り出しオデットの顔にそっと近づけて来た。何故?と視線を上げると、ぽたっと雫が自分の顔から落ちたことに気が付いた。
「申し訳ございません。貴方の心情に配慮することなく話を進めてしまって・・・」
また、ケヴィンが謝る。ケヴィンはこの騒動に巻き込まれているだけで止めることは叶わなかったが諫めもしたと言っている。ふるふるとオデットは顔を振る。
「エチエンヌ卿は何も謝るようなことはなさっていません・・・」
「ケヴィンと呼んでください」
この状況で、なぜか名前呼びを促される。混乱する中、抵抗するのも面倒臭くなったオデットはケヴィン卿と呼ぶが、それでも違うとばかりにケヴィンと呼んでほしいと繰り返される。
「・・・・ケヴィン様?これ以上は無理です」
「・・・分かりました。それでお願いします。では、オデット様。お時間を貰えませんか?オデット様が落ち着くまででいいので・・・」
そう言うと、ケヴィンは手を差し出した。一瞬固まるが涙を流した女がここで男性と立ち止っている方が悪目立ちするとそっと差し出された手にオデットは自らの手を重ねる。
ケヴィンは、軽く握ると。肘にかけるエスコートでは無く。そのまま手を引きゆっくりと近くの東屋へと連れ出した。東屋に着くと、ケヴィンは上着をベンチにかけ、再度オデットの手を取り座らせる。あまりに、慣れている動作に座ってからオデットはハッとする。
「ケヴィン様の上着が汚れます!」
立ち上がろうとする。オデットの手を引き立ち上がることを許してくれなかった。ケヴィンはにっこりと微笑むと「女性を外のベンチに座らせるときは直接座らせてはいけないという教育を受けておりまして、申し訳ございませんがお付き合いください」と苦笑いをする。
少し遠い目をするケヴィンには座って下さいという有無を言わせない圧力があった。手をぎゅっと握られて引かれていることが余りに恥ずかしく、何故か遠慮をしすぎるのは男性に恥をかかせることだと淑女教育の講義を思い出すオデットは粛々と好意に従った。
「なにか?お話が?あの・・・不敬のお話では無いのでしょう?」
「はい。あのですね。一応、誤解を解きたいのと・・・オデット様とお話をしてみたくて・・・」
「え?私とですか?」
「はい。あのように感情を抑えて話をされる女性を私はあまり知らなく・・・姉は・・・まぁ置いといてカディア様も殿下のせいでわりと感情豊かと言いますか・・・・」
視線を落とし、少し口ごもるケヴィンの言葉を不思議に思いつつもオデットも視線を落とす。そこには先ほどからぎゅっと握られた自分の手が目に入る。
「あの・・・手を放して貰えますか?」
オデットの声に、バッと慌てたようにケヴィンの手が離される。先ほどまでぬくもりを感じていたせいか寒さと寂しさを一層感じオデットはふるふると首を振る。そんな中、ケヴィンは再度謝罪を口にする。
「あっ!すみません。私、さっきから謝ってばかりですね。ついでとは何ですが・・・・ステファンの所業、本当に申し訳ございません。ですが、1つ訂正したく・・・・」
「訂正ですか?」
「はい。殿下に【賭け】で負けた【罰】自体は。殿下の考えたシュミット嬢への告白でした」
ケヴィンの話の途中ではあることは分かっていたがオデットは1番の疑問を問うことにした。これもずっと気になっていた。
確かに、オデットの親友ユルシュル・シュミットは成績優秀で自慢の友達だけど、かかわりを持つ令嬢、令息たちも堅実な人が多く。悪目立ちしたわけでもなく品行方正で爵位は低いがウルリーケ第二皇女に仕えるという就職先も決まっている。やっかみは、女性貴族からあるが。皇女の後ろ盾があるので虐めの標的にもならない。
何故、オクタヴィアン第五皇子の【罰】の対象にならなければいけないのかオデットには不思議だった。
「何故、ユルシュルなんですか?」
「そうですね。学年1位の常連もありますが、多分シュミット嬢はウルリーケ第二皇女様に見た目の雰囲気が似ておりますので・・・それが原因かと。王妃様の御子様方へオクタヴィアン様はコンプレックスを拗らせておりまして・・・」
「憎々しいという事ですか?」
「いえっ。どちらかというと憧憬でしょうか。憧れを苛立つのは思春期の少年によくあることでしょう?」
「ふふっ。ケヴィン様も思春期の少年ではないのですか?」
「思春期は、家に置いてきました。姉に厳しく育てられましたので・・・。後、殿下の尻ぬぐいをする為には思春期を拗らせている場合はありませんので」
二人で、目を合わせくすくすと笑う。理解はできないがユルシュルが標的になった理由は分かった。もしもの時に、ユルシュルを守らないといけなくなった時に情報が大事だとオデットは考えていた。
「度々、言葉を遮ってしまって申し訳ございません。訂正とはなんでしょう?」
オデットが会話の軌道を修正するように、ケヴィンに問うと。ケヴィンに葡萄のような濃い紫の瞳の眼を下げ少し困った顔になり続ける。
「こんな、阿呆な事をしているステファンなのですが、シュミット嬢への好意は本物なんです」
「ユルシュルはいい子ですからね。一緒にいて好きになるのは分かります」
「それが、違うのです」
「え?」
「オクタヴィアン殿下と【賭け】をする前から慕っていた様で、凝った告白の場も、本気度が強い初デートも、それ以降も本気なのです・・・・どちらかというと【賭け】の【罰】に便乗したと言いますか・・・」
「えぇ!?」
「驚きますよね。告白した後、了承してもらえたとヘラヘラ笑うステファンは本当に気持ち悪いくらいご機嫌でした」
「あぁ!だから、シェルのお兄様を恋人と勘違いしてあんなに憔悴されてたんですね」
「はい。そうです。馬鹿ですみません」
「ケヴィン様も大変ですね。お疲れ様です」
再び目を合わせくすくすと笑っていると、オデットの涙もすっかり乾いた。また話したいと仰るケヴィンに、社交辞令だろうと了承を伝えやっと帰路に着くことが出来た。
拝読ありがとうございます。
オデット・レノー男爵令嬢(16)
髪型:くせ毛ロング・ハーフアップ 髪色:ラズベリー 瞳:オリーブ
ステファン・トリュフォー侯爵子息(16)
髪型:ストレート・ショート・センターパート 髪色:レモンイエロー 瞳:ターコイズ
ケヴィン・エチエンヌ伯爵子息(16)
髪型:くせ毛・ミディアム 髪色:ボトルグリーン(深緑) 瞳:グレープ
カディア・ニコラ伯爵令嬢(14)
髪型:ストレートロング姫カット 髪色:チェリーピンプ 瞳:サファイアブルー
オクタヴィアン・リーヴバレンティ第五皇子殿下(16)
髪型:ストレートロング 髪色:カーマイン(赤) 瞳:ジョンブリアン(黄金色)




