001 告白して頂きました。 ~ユルシュル・シュミット子爵令嬢side~
ある作家さんの嘘告が好きで嘘告を書きたくて
山も谷もなかったらどうしよう。
お付き合いいただけると幸いです。
「シュミット嬢。少しいいだろうか?」
図書館へ向かう渡り廊下にて、ユルシュル・シュミットは後ろから遠慮がちに声をかけられた。
いつもの無表情の顔を最大限に微笑むがあまり表情筋は働いてくれない。他人から見るとそれは貴族的な淑女の慎ましやかな微笑みでしかなかった。振り返るとそこには、ステファン・トリュフォー侯爵子息が立っていた。
走ってきたのかステファンの明るいレモン色の長い前髪は真ん中で分けられてた隙間から覗く額には薄っすらと汗がにじみ、呼吸も乱れているようだった。
殿下との約束を反故には出来なかったのね。表情には出さず落胆の溜息をつきつつもユルシュルは、少し高揚していた。
「何か御用でしょうか?トリュフォー侯爵子息」
無表情に近いユルシェルの微笑みは、もともと表情の乏しいユルシュルには最大限のほほ笑みであったが、彼は知る由もない。隙の無い令嬢の微笑に少し怯んで一息をつくと、意を決したように話を続けた。
「あぁ。少し話がしたいのだが時間を貰えないだろうか?」
「畏まりました。・・・・・なんでございましょうか?」
ユルシュルのスカイグレイの瞳に真っすぐに見つめられたステファンはさらに怯んだ。しかし、ステファンが何の用で呼び止めたかユルシュルは昼食の時から知っていた。意地悪かしら?とは思ったが、あえてその場で要件を尋ねてみた。
「いやっここっ・・・では」
「いかほどお時間がご入用でしょうか?」
「いかほど?」
やはり、今は人気がないとはいえ何処から誰が見ているのか分からない様な場所では言えないのでしょうね。と一人納得しつつ、殿下方が待機している場所へ誘導されるのかしら?そんなことを考えながら時間が必要な理由を述べる。
「はい。私、毎日配架のお手伝いをしておりましてお時間がかかるようでしたら司書様にお声がけしなくてはいけません」
「あぁ。だからいつも髪を纏めておられるのですね。・・・あの大変お手数ですが、お茶に誘ってもよろしいでしょうか?」
「お茶・・・ですか?」
ユルシェルはほぼ毎日、学園には一つ纏めの三つ編みで登園している。よく見ているなと思いつつもステファンの丁寧な誘いに僅かに目を見張ったユルシェルだったが、肩にかけていたの三つ編みに束ねた淡い空色の髪に目をやり、目じりを下げる。
華やかな装いの令嬢たちは、手入れされた美しい髪を見せつけるようにおろしているか、ハーフアップで留めて髪飾りなどで装うのが通例であり、ユルシェルの様に、髪を一つに纏めている令嬢は少なかった。
いつも、下位の人間にも丁寧な方でしたわね。そんな方でも、殿下のふざけた命令は退けられないものなのでしょうか。落胆する気持ちを抑え予定変更の手配について了承を伝えようと話を続けた。
「はい。一纏めにしていませんと作業に支障がありますので・・・。お茶という事は少し込み入ったお話でしょうか?司書様へ本日はお手伝い出来ない旨を伝えて参ります。どちらに向かえばよろしいでしょうか?」
「いえっ、こちらでお待ちしております」
!? 私と一緒に歩いている所を見られてもいいのでしょうか?
ユルシェルはまじまじとステファンを見つめてしまう。見つめられたステファンは少し顔を赤らめ小首を傾げた。しかし、動く気配を見せないのでユルシェルは小さく礼をすると図書館へ向かった。
「少々お待ち下さいませ」
司書へ手伝いが出来ない旨を伝えて戻ると、ステファンと連れ立って歩く。彼の少し斜め後ろを間隔を空けて付いて行く。
時折、振り返りユルシュルを確認し歩調を緩めるが彼の横に並ぶ気はない。ステファンが今から行うことは殿下の命令に近い【嘘】である。
もし、彼がその【嘘】を実行するのであればそれに、私は便乗しようと昨日たまたま話を聞いてしまった時から決意していた。
彼、ステファン・トリュフォー侯爵子息は私の憧れの人。13歳で学園に入学した当初に田舎から皇都で戸惑う中、親切にして頂いてから2年半片思いさせて貰っている。
貧乏で子だくさんな田舎の子爵令嬢の長女では、持参金を作る事は出来ず、結婚は難しいだろうと思った。可愛い妹たちの為にも女官や王宮侍女を目指し、妹たちの持参金を貯めるためにも学園に入る前も入ってからもずっと勉学とマナーに励んできた。
特技があればと、田舎で鍛えられた体力を活かし護身術の講義も履修しており、そのお陰で1つ上の第三皇女殿下付きの書類仕事も護衛もできる侍女なんて素敵とお声がけ頂いている。
皇女殿下は第三皇子である皇太子殿下のすぐ下の実妹であり、お二人は仲がよく優秀なので他の皇女方より公務が多い。公務が多い皇女つきの侍女は必然的に公務に同行するため、高給取りになる。
実家に三人いる妹達はまだ小さいのでそれまでに家はお父様に立て直して貰い。持参金はユルシュルが準備する心つもりで頑張ってきた。
年に2回の定期考査も残り後期1回を残し5回トップを収めることが出来た。そんな勉強ばかりの学園生活。恋愛に割く時間はなかったが片思いを励みにしていた。彼への。
【嘘】だろうと、僅かでも一緒に居れるのであれば申し訳ないが便乗させて頂こうと思っている。彼の時間を奪うのは心苦しいが、彼らも人の心を弄ぶのだからその代償だと思って諦めてほしい。
「こちらに」
罪悪感に重たくなり始めた思考を遮るように、ステファンが手を差し出した。彼が促した先にはガゼボがあり、そこには彼の侍従によって2人分のティーセットが準備がされていた。
こんなに手の込んだ事までしてもらえるなんてとうっとりと眺めていると手を取られガゼボへと促された。椅子を引いてもらい、腰を落ち着けると向かい側にステファンも腰を下すがソワソワと落着きがない様子が見て取れる。
トリュフォー様は、この様な事を平気で出来る方では無いものね。でも、そんなに罪悪感を抱かなくてもいいのに。こんな素敵なお茶に誘って頂いただけでも私は幸せだわ。
「あのっ!あっすみません。大きな声を・・・えっと」
「素敵な香りですね。お茶を頂いても?」
慌てふためくステファンをよそにユルシェルは全てを堪能する気であった。楽しむ気満々の上に、こんな素敵な状況に陥った事がないユルシェルはふっふっと顔が緩む。
今までの無表情に僅かばかり色が差して緩んだ顔のユルシュルをステファンは惚けて見てしまった。
「トリュフォー侯爵子息?」
「あっすみません。お茶ですね!お菓子も頂いて下さい。殿下のっ。あっ」
「ありがとう存します。お菓子はオクタヴィアン殿下のお勧めでございますか?楽しみです」
ユルシェルは、皇女殿下に招待して頂いた時以来の色とりどりのお菓子に心が高揚する。皇女殿下のお茶会では緊張しすぎて味が分からなかったのよねとワクワクをとめる事が出来なかった。
憧れの殿方と2人、素敵なガゼボで、素晴らしい香りのお茶と美味なお菓子。ユルシュルは、満足しかけていた。
「あのっ!シュミット嬢。お話をよろしいでしょうか?」
お菓子を堪能していたユルシェルは、本来の目的を思い出しお茶に口をつけると姿勢を正した。
「はい。トリュフォー侯爵子息。どういったお話でしょうか?」
ユルシェルが聞く体勢に姿勢を整えたせいだろうか、ステファンは緊張に顔を強張らせてゴクリと喉仏を上下させる。口は音を発することなくパクパクと開閉を続ける。しっかりと、目線を合わせるとターコイズブルーの瞳は真剣そのもので息をのむ。一度、キュッと最後に口を閉じ意を決して言葉を発した。
「シュミット嬢。お慕いしております。私とおつきあい頂けないでしょうか?」
顔色は青く悲壮を浮かべ、声はいつもより高く発せられ、直接的であったが、甘い台詞のない告白だった。
しかし、ユルシェルは気にしない。これは、殿下との勝負に負けた【罰】であり。彼の本心では無い事を知っている。
けれど、今まで【恋愛】など脇に置いて時折眺めていた。今後は皇女に仕え、妹たちの為に仕事に生きるユルシェルには一生【縁】はないだろう。
半年間の夢を見れるのだろうか?
期待と不安をかかえて。ユルシェルは、今まで全く働かなかった表情筋を総動員して柔らかな笑みを称えた。
「謹んでお受けいたします。よろしくお願いいたします」
拝読ありがとうございます。
容姿の色彩を妄想のお供にどうぞ!
ユルシュル・シュミット子爵令嬢(16)今年卒業で成人
髪型:ストレートロング一つ三つ編み 髪色:シアン 瞳:スカイグレイ
ステファン・トリュフォー侯爵子息(16)
髪型:ストレート・ショート・センターパート 髪色:レモンイエロー 瞳:ターコイズ




