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そうめんと地球温暖化

 僕は、田中爽太。平々凡々な高校2年生。

 爽太という名前だが、爽やかではない。勉強も運動も見た目も、全てにおいて平凡である。

 故に、モテない。


 学園のマドンナに恋しているわけじゃない。2次元のアイドルと付き合いたいわけでもない。僕と同じような平凡な子でいい。

 なのに。女の子は誰も、僕のことを相手にしてくれない。ただのクラスメイトとしてはちゃんと話してくれるけど⋯。陰キャぼっちなのを必死に隠すためだけに薄っぺらい関係の友達っぽい人をを何人か作ってるけど本当の友達は1人もいないっていうのがバレてるのかな?


 でもさ、異性として見られたいじゃん?僕だって、これでも年頃の男の子だよ?恋愛に興味はあるわけよ。


 母さんに、「僕はどうしてモテないの?!」って聞いたこともあった。そうしたら、『爽太はモテてると思ってた⋯』と本気で驚かれた。まぁ、あんな父さんと結婚したぐらいだから、母さんの男を見る目は、他の人とは少し変わっているのかもしれない。


 中3の妹に聞いたら、

『お兄ちゃん、モテなさそうだもんね』

『永遠に付き合えないと思う』

『まだ諦めてなかったの?』

の3コンボだった。妹は元々、僕に対しては毒舌だけどさ。最後の一言のときは苦笑いしてたんだぞ。さすがの僕もそれを見て諦めようと思ったよ。


 でも⋯諦めきれなかった。

 そして、どんどん理想が高くなっていった。平凡な子でいいと思ってたはずなのに。今は、めちゃくちゃ可愛くて賢くて優しい子がいい!と思っている。

 僕はバカだな。身の程知らずだ。自分でも笑っちゃうぜ。


*


 僕は、今、母さんにおつかいを頼まれて、スーパーに行ってきた帰りだ。


 今日は夏休み初日。僕は高校2年生。

 めっちゃ青春の日じゃない?いや、青春してないからわかんないけど。イメージ。


 息子の青春を奪うなよ〜。と言いたいところだけど、このおつかいがなくても、僕には元から青春なんてありませーん。

 母さんはもう若くないし、父さんは10年前に離婚していないし、妹は拒否してるし。重い荷物持って歩けるのは僕しかいないから、しょうがないと思う。


 そして僕は、こんなことを考えている間、実はずっと立ち止まっていた。家のそこそこ近くにある、それなりに大きい公園の前で。

 この公園は普段は小学生で賑わっているが、今はとても静かだ。8月1日の昼前で暑いからな。この買い物袋の中には、そうめんも入っている。夏はそうめんがおいしい。

 それに、よい子のみんなは夏休みの宿題を早く終わらせようとしているのかもしれない。ちなみに僕は、夏休み後半から宿題を始めるタイプの人間だ。


 何の話だっけ?

 あ、思い出した。僕が公園の前で立ち止まってるって話だ。


 今は1人もいないのかと思ったら、1人いたんだ。ベンチの端っこに座ってる。1人しかいないんだから真ん中にドーン!と座っちゃえばいいのに。まぁ、僕も陰キャの癖で端っこに座っちゃうけど。

 そこに座ってるのは小学生じゃなくてね、僕と同じくらいの歳かな⋯?で、めっっっちゃ美少女。


 ほどよく白い肌。真っ黒でサラサラな髪は腰の少し上まであるストレート。ガラス玉に墨を塗ったように綺麗な目。

 肌は白すぎると体調が悪く見えてなんか怖い。髪はツヤツヤよりサラサラのほうが自然な美しさって感じがする。ガラス玉に映ったものは全て浄化されて見える。


 儚く、美しい。その周りまで美しくしてしまいそう。女神様と妖精のハーフかな?


 よく見ると、 赤ちゃんの肌のようなサラサラふわもちに見える頬が、少しピンク色だ。

 ん?なんでそんなに細かいところまで見えるんだ?

 僕は無意識に、この女神妖精様の近くに歩いてきていた。今は、女神妖精様の正面に立っている。


 目の前の女神妖精様は、こんなに怪しい行動をしている僕を見もしない。

 ガラス玉は、ずっと上を向いている。空を映しているのだろうか。


 女神妖精様が僕の存在に気づいていなくても、ここまで来て何もせずに帰るのは不自然だ。そう自分に言い訳をして、僕は女神妖精様の反対側の端に座った。

 ここで隣に座れないからモテないんだと思う。が、ガラガラの公園で、面識がない美少女の隣に座る男子高校生って、不審者では?うん、僕はこれでいいんだ!⋯と思うことにする。


 そして、ものすごく微妙な距離で、僕は女神妖精様に話しかけた。


「暑いね」


 ⋯話しかけようと思ったのに、緊張してうまく喋れない〜!!前を向いたまま、硬くて小さい声で、独り言みたいに言ってしまった。


 女神妖精様の顔を直視できない。さっきまで正面であんなに見てたのに、今更何言ってんだ、と思うかもしれない。でも、あんまり見ると不審だし、顔を見ながら話しかけて聞いてくれてなかったときの気まずさといったら⋯。あぁ恐ろしい。学校でそうなったときの空気は本当に怖かった。


 でも、この話題選びは褒めてほしい。

 今思ったことを言っただけではあるが、女神妖精様の頬もピンク色になっていたんだ。きっと、彼女も暑いと思っているはず!


「暑い、ですよね」


 んん?!声がした?!横から!

 美しく透き通った、儚げで感情を読み取れない声⋯。

 横から聞こえたんだから、これは女神妖精様の声だ!僕が「暑いね」って言った返事をしてくれた!?え、本当にそんなこと有り得るのか?いや、あるはずがない。女神妖精様が、急に現れたよくわからない僕に返事をするなんて、そんなに僕にとって嬉しくて都合のいいこと、起こるわけがないっ!つまり、これは僕の幻聴で


「暑いですよね」


 はなあぁい!!幻聴ではないな!これは!

 2回も聞こえたぞ!?うわ、僕は今日死ぬのかな。もしかして、もう死んでいる⋯?この子は女神妖精様ではなく天使で、これから「お前はもう死んでいる」とか言われるのか?!

 あ、とりあえず返事しないと⋯。


「暑いよね〜」

「暑いですよね⋯」


 おぉ、返事がすぐ返ってきた〜!これ、完全に会話の感じが出てきたぞ。

 よし、顔を見よう。


 女神妖精様⋯じゃなかった。天使様の瞳は、さっきまでと変わらず、空を映している。


「地球温暖化ですね」

「ああ、うん、そうだね」


 あれ、僕はなんで天使様相手にタメ口なんだ?めちゃくちゃ失礼じゃない?!相手は天使様なんだから!同じくらいの年齢に見えるってだけで僕より年上かもしれないし、敬語にしたほうが⋯。いや待て、僕。さっきまでタメ口だったのに急に敬語に変えたら不自然じゃないか?

 うん、もう僕はタメ口キャラになるよ。


「ごめんなさい」

「え?」


 なんで天使様は急に謝るんだ?


「私が生きてて呼吸をしてるから、二酸化炭素が出て地球温暖化が進むんですよね」

「⋯ん?」


「呼吸だけじゃなくて、私が電気を使うのも悪いんです。太陽光とか風力の発電もありますけど、日本はまだ火力発電が主です。電気をつくるときにも二酸化炭素が出ているわけで、私が電力を消費することで、より多くの電気をつくらないといけなくなって、より多くの二酸化炭素が出て、より地球温暖化が進むんですよ」

「え⋯」


「電気を使ってごめんなさい。呼吸をしててごめんなさい。あ、喋るのは二酸化炭素を出していることになるので、喋らないほうがいいですよね。黙ります」


 んん?この天使様、何言ってんだ⋯?

 あ、あと、ちゃんと生き物だったんだな、天使様。生きているということは、この子は天使様ではない。つまり、僕はまだ生きている!まぁ、幸せすぎて死ぬのかなっていう不安はなくならないけど。

 あ、待って。僕、これ恋してる。この子に恋してるわ。初恋。やば。顔面差えぐすぎ恋だわ。

 ⋯じゃなくて!この子はなんでそんな発想になるんだ?地球温暖化は、1人の人間がどうこうしたって変わるもんじゃないだろ。


「えっと⋯そんなに気にしなくていいと思うよ」


 返事はない。この美少女は、何事もなかったかのように空を見ている。

 あ、さっき「黙ります」って言ってたな。


「喋っていいんだよ⋯?」


 美少女は、ゆっくりと首を横に振る。

 えっと⋯じゃあ⋯。


「喋ってください!お願いします!僕が1人で喋ってる変なやつって思われるの、嫌なんで!」


 たっぷりと間をあけて、とても小さくてギリギリ聞こえるくらいの声で、美少女が話した。


「喋って、いいんですかね⋯?」

「喋っていいんだよ!というか、喋ってほしい!」

「どうしてですか?」

「どうしてって⋯」


 あなたのことが好きだからです!とか、あなたが好きだから、楽しそうにしてるのを見ていたい。とか、あなたが好きだから、僕は死にません!とか言ったら、何言ってんだコイツ⋯ってなるよな。

 えっと〜。


「喋ってほしいってことに、理由なんている?」


 何言ってんだ僕〜!!マンガとかアニメとかゲームの中でイケメンが似たようなことを言いそうだけど、僕が言ってもかっこよくないし、何言ってんだこいつ、理由教えろよ。って思うやつ〜!

 あぁ終わった。僕の初恋、終わったわ。天気はいいのに帰りたい。


「ふふっ、そうですか⋯。ありがとうございます」


 ぐはっ!死ぬ、死ぬ死ぬ死ぬって!!

 微笑んだよね?!美少女さん?!今のが「なにそれ」って思った苦笑い的なやつだとしても、笑顔が可愛すぎて死にそうです!もう付き合おう!?結婚しよう!それで子供は⋯うぉおおおおあ!!


 バキバキッという音がして、僕の意識は妄想から現実へと戻された。

 脳内がパンクして、無意識に腕を上げて振り下ろしていたようだ。僕はずっと買い物袋を手に持ったままだったから、それが振り回され、地面やベンチの角に叩きつけられた。その結果、買ったそうめんがボキボキに折れたのだ。⋯母さんに怒られるなぁ。

 あぁ、そうだ!そういえば買い物帰りだったんだ!完全に忘れてたわ。やばい。帰ったら、遅かったしそうめんボキボキだしで、母さん激おこぷんぷん丸になるわ、これ。


「ごめん!今日はもう帰るね!」

「あ、はい。では、また」

「うん、また!」


 ⋯うん?また?

 え、また会える?!うわ、やっぱり俺死んでるんじゃね?!幸せすぎるぅぅぅ!!


*


「爽太、このそうめん、どういうこと?」

「お兄ちゃんってバカなの?」

「⋯ごめんなさい」


 母さんが作ったそうめん入りグラタンは絶品だった。

 夏っぽさは、僕の浮かれた気分と共に消え去ったけど。

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