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第6話 指導者の誇りと神童の誇り

 こうして俺、アマチュアコーチの鉢谷達也(はちやたつや)対白華の閃光金剛紫(こんごうむらさき)の娘金剛葵(こんごうあおい)との三本先取の試合始まる。

 練習試合とはいえこんな一対一の試合(バトル)は久々な気がする。この肌にひりつくような緊張感、プライドを賭けた内から湧き上がる熱。

 指導者の道を選んでも、選手としての情熱が消えることがないのが理解できた。


「実際コーチの実力ってどれくらいあるのかしらね? 彩王蓮華に在籍していたぐらいだから相当な実力を持っているとは思うのだけど」

「ウチも在校年から彩王蓮華の試合を全部調べてはみたんだけどコーチーの姿無かったんだよね。だからわっかんない。タツヤンチャンネルでもバトル無かったからね」

「あの退屈すぎて睡眠導入材なら星5みたいな動画見たの……!?」

「でも、何度も個人練習で手合わせしてきたからコーチが強いのはわかるよ……有効射程距離を全部把握してるのか射線が合ってても届かないとわかると動かないから」


 皆は管理室で試合を見ているかな?

 色々な心配をしているのか思わずクシャミが爆ぜてしまう。

 この先の指導のことを考えるとあまりかっこ悪いところは見せられない。

 試合に勝てば皆から尊敬の念で見られより指導もしやすくなる。

 逆に負けてしまえばどんなに正しい指導でも受け入れて貰えなくなる可能性がある。


「本気でかかってくるといい!」

「ん、展開が読めてる──」


 試合開始のブザーと共にトイを構える。

 すると、葵さんは飄々と余裕を崩すことが無く障害物の木々を縫うように縦横無尽に走り回る。なるほど、対面で見るとこの速さは驚異的に映る──!

 これが自分の生き様といわんばかりに迷いの無い速攻戦術で攻め立ててくる。

 姿を見せる一瞬の間で牽制のアンヴァルを放たれ動かされる。壁越しに相手のいる位置を正確に把握している良い証拠。

 さらに一発一発が当たる弾だからシールドを持っていないと立ち位置を確保することもできない。

 一本目は約一分程戦い瞬殺。

 二本目も同じような時間で瞬殺。

 瞬殺されたのは当然──


「ん、やっぱりこの程度なんだ──弱すぎて話にならないんだけど? はぁ……」

「…………これは驚きだな──」


 俺である。

 蘭香が一方的に負けた理由も良くわかる。それと同時に改めて視野の広さを褒めたくなる。このテクニカルな動きを前に蘭香は見失うことをしなかった。初見の相手だから対応できなかったという線が濃厚。

 負けられない理由がまたできた。まだ伸び代が沢山ある、安心して指導を受けてもらうためにも勝たなきゃいけない。


「ちょっとコーチ、やられっぱなしじゃないの!? 精々一分ぐらいしか戦えてないじゃない!?」

「コーチー……」

「で、でも何だか焦った様子とか、な、無いですよ……」

「むしろ落ち込んでるようにも見えマセン?」

「私のせいですいませんコーチ……」


 マイク越しに響く八重さんの怒りの声を皮切りに皆の気を落としたような声が続々と聞こえてくる。信用されないとは悲しいものだ──

 だが、できることを示していない自分サイドにも問題があるか……無条件で応援されるのは幼少期のみなんだなとここ最近は実感する。


「ん、お情けで一勝ぐらいあげてもいいよ。ストレートだとこの先辛いでしょ?」

「いや、気にしなくていい。手を抜いて負けを正当化されたくないからな」


 葵さんは余裕の勝利を重ねて殺気が抜けてきたようだ。

 ──どうやら、ワープリの感覚は小学生のままらしい。その頃の指導者は最後まで気を抜かないことを教えていなかったようだ。

 第三試合のブザーが鳴る。


「ん、これでお終い──」


 再び障害物を盾にしながら葵さんは素早く縫うように移動する。

 一本目と二本目と同じ速度、同じ流れ。

 障害物で姿が消えた瞬間に方向を変えるフェイントで一気に距離を詰める。こっちから出てくるだろうと予想して意識を集中している相手に対しその逆から姿を現す。相手からしたら瞬間移動したように見えてしまうだろう。それを可能とする体のバネも素晴らしい。

 同年代でこの速度に追いつける者は殆どいないだろう、ゼロから最高速(トップ)に達するまでの圧倒的加速力、跳躍力にブースターを加えた立体的な高速接近術。

 まさに魅力的な肉体を有している。

 俺が近接主体の選手(プレイヤー)だったら手も足もでず心を折られていた可能性すらある。同年代の選手にいたら嫉妬で狂いそうになっていただろう。

 しかし、三度目の正直とはよく言ったものだ……俺が抱いた彼女の根源は恐らく間違っていない。そしてそれが、最大限磨かれていないなら負ける理由がどこにもない──

 どれだけ速く動いていようと、視界に入っていなくてもどこにいるのかわかる。

 スレイプニルの引き金に手をかけて、焦らずに引けば──


「え──!?」


 彼女のブレードが俺のスーツに触れて黒く染まる。

 だが、彼女の困惑した声が結果を物語っている。

 まばたき程のほんの少し前。俺の弾丸が彼女の胸元を完璧に射抜き敗北の印としてスーツを完全に黒く染め上げていた。


「これで一本だな」

「ん……ま、まぁ私のも届いてるけどルールだからしかたない。遊び過ぎたかな? まぐれまぐれ……勘で撃った一発が当たっただけ」


 まぁ、状況的にそう言いたくなるのもわかる。

 後一瞬早ければ勝っていたのも事実。これは偶然だと捉えることもできる。

 勝ちを確信した状態での敗北、彼女の混乱した感情が手に取るように伝わってくる。

 

「今、コーチって脇の下から振り向かないで撃ったよね!? 位置がわかってないとあれってできないよね!?」

「流石に勘でしょ……アレが狙えてやってるなら最初から勝ててるはずよ」


 第四戦目──

 葵さんの気配が変わった。油断は消え瞳の鋭さが増し殺気に満ちる。

 踏み込む力強さも上がり速さが一段階上がる。

 フェイント、ブースター、スピン。移動術を全て組み合わせ、さらには障害物の壁を足場にして反転宙返り跳びで距離を詰めてくる。

 どうやら、この敗北一つでも彼女にとっては大きくプライドを傷つける結果になってしまったらしい。

 しかし、ベタ踏み全力疾走すぎる。先程までは滑らかで淀みの無いお手本のような書道の文字のような華麗さだったのに。今は荒く滲んだように雑さが目立つ。

 おかげで攻めのラインがさっきより良く見える。ここで踏み込み仕留めるって意識がはっきりと感じ取れる。

 彼女の移動速度にスレイプニルの弾速を把握している今、移動先に重なるように弾を置けば自然と当てられる。

 俺の背後に回り、足のブレードを伸ばし袈裟切りにしてくるのが見えなくても見えている。

 その位置にそっと銃口を向けて引き金を引く。


(読まれてた!?)


 今度は彼女のブレードが届く前に黒く染めることができた。

 どんな物言いも通用しない決着。

 それでも彼女は自分の身に起きたことが理解できていなかったのか呆けた顔をしていた。


「これで二対二──」

「…………っ」!!」


 だが、すぐに悔しさで殺意が満ちている表情へ変化する──

 ブレードを握る手に一層力が込められているのが見える。

 久々だな、ここまでの感情が向けられるというのは。ただ、高校時代は360度もっと強烈なのを大量に浴びていたからカワイイものだ。

 席を奪うために生死をかけるような試合(バトル)を持ちかけられたのも懐かしい。

 だけど、当時に戻りたいと言えばまた別の話。あの時の自分は好きじゃない、ワープリ以外はどうでもいい欠落した人間だったから。


「コーチ、一試合一発しか撃ってない──芯を捉えた一発でダウンさせてる。まるで未来が見えてる……ううん、むしろ葵さんが吸い寄せられているみたい」

「スレイプニルの性能を最大限まで引き上げている戦闘スタイルね。高威力の弾を素早い判断で丁寧に直撃させる。無駄が無さ過ぎるわ。正直ここまでのことできる人だと思ってなかった」

「流石コーチデス……バトルするとここまで強いんデスネ──銃口が追ってるって言うヨリ、来る場所に既に置いてありマス。タイマンに加えて射程差があったら勝てる気がシマセン」


 ここからが彼女のふんばりどころだろう。

 勝ちを確信していながら追いつかれた心理的負担は大きい。

 葵さんの表情は初めて見るものに変わっていた。怒りよりも焦りの方が強く彩られている。きっと「こんなはずじゃない」と頭の中で一杯だろう。

 小学生時代のワープリでは突飛な才能を持って大勢から羨望されていたとしても、前線から離れれば錆びるのは早い。さらに成長期真っ只中なら尚更だ。

 成長に伴う使用トイの変化、扱える戦術や戦略の変化。成長と共に向上させていかなければならない。

 他が鍛えているなら、中学過ぎればその腕前や実力の貯金はすぐに追いつかれる。

 まぁ、それでも葵さんは凄まじい量を貯蓄していた規格外なのはわかったが……。


「最終戦を始めるぞ?」

「こうなったら……!」


 最後の開始ブザーが鳴り響く──

 追い詰められた獣が最も怖い、瞬間的に首を落としに来ないか警戒していたが、開始と同時に彼女の攻めっ気がフッと遠のいていくのが感じた。

 距離を詰めてくるのを辞めて遠距離攻撃に切り替えた──

 戦略の変更。ではない──腰の引けた攻めだ。離れていれば弾は当たらない、避けることはできる。そういう思考が透けて見える。

 当然そんな攻撃、俺に当たるはずも無い。余裕を持って回避することができる。


「ずっと近接攻撃をしてきたのに今更遠距離か? 今まで使わなかったのは慣れてないからじゃないのか?」

「うるさい!」

「そんな距離で撃っても威力はでないぞ。有効射程距離は約20m。俺のスレイプニルと殆ど同じ。俺が当てられない以上そっちも当たらない」


 有効射程限界に到達すればUCIの弾は解けるように溶けて消える。それにスーツが触れたところでほぼダメージは無い。ヘッドショットには多少の注意が必要だが、その心配は無用。

 そもそもブレードの扱いと比べてアンヴァルの扱いは未熟。視界に収まっている間は当たる気がしない。自信に満ちている時は狙いが鋭いようだが逃げ腰になるとここまで腕が落ちるか……近づかせないように牽制が多くなっている。


(何このプレッシャー……? 射程範囲に入ったら終わる──撃ち抜かれる未来しか見えない。一体これは何!? こんなの初めてだ。今までコーチ達にこんなことできた人はいない。気のせいだと思ってたけど本物。だったら──)


 消費が軽いハンドガン種でも連射をしすぎればUCIの消費量は跳ね上がる。アンヴァルは中でも重い。二丁使っていれば消費は二倍。

 それはあの子もわかっている。リロードすればごっそり残量を持っていかれて終わり。

 UCI切れになれば確実に敗北、攻撃手段がなくなり逃げ回ることしかできなくなる。そんな終り方は恥を晒すようなもの望んではいないだろう。


「すぅ~……──はぁ~……」


 空気が変わった──?

 呼吸を整えて意識を集中している。どうやら彼女の本気が見られるってことか……となれば一挙手一投足見逃す訳にはいかない。

 しかし、やってくることは想像できる。最も得意を最高峰でぶつけてくるつもりだろう。つまりは電光石火の一閃──

 そんなやぶれかぶれな速攻でも、殻を破るような一撃を彼女なら放つ。

 才能に恵まれた者が極限にまで追い込まれたらどう化ける? どこまで進化し変貌する?

 コーチとして今の最高を見る責務はある。だが、成長させるためには満足させる結果で終らせてはいけない。

 続けさせてこそ一流の指導者だ。


(こうなったら……最速最短の一直線で切り抜ける──あの技をすれば怖くない!)


 こちらも集中力を高めて迎撃の構えを取る。

 彼女は射程外に立ち、その場で全身が緩み切った状態でトン、トンと跳ねはじめる。

 それはまるで人の形から液体へ変貌するかのように硬さが抜けて徐々に柔らかくなっていく。これは脱力──無駄を溶かすように削ぎ落とした0の筋肉。

 力を入れるのは須臾(しゅゆ)の狭間だけ、それが生み出す爆発力で俺を仕留めるつもりだ──

 空気がピンと張り詰めていく、心臓の音が激しくなり耳に聞こえてくる。

 瞬き一つ、視界が黒くなり次に視野が明るくなった瞬間──

 彼女は肉食獣が獲物を狩るかの如き最高速度で迫って来た!

 これを小学生時代に会得していたのか? ブランクとは何か? 様々なことが頭に過ぎるが。射線は完全に捉えている。

 冷静に引き金を引いた──


(見えたっ!)


 弾が射出されると同時に彼女の握るブレードが弧を描き始める──しかしその踏み込みでは俺に刃は届かない。ならば何を斬る? 何を見ている?

 すぐにわかった。彼女は最初から弾丸を斬るつもりで一直線に攻めてきた。

 彼女の刃が描く軌跡は俺の弾を見事に粉砕する。超高等技術の『弾斬り』は成し遂げられた。

 これが新しい時代の強さなのかと感服してしまう。 


(これで、障害は無い! えっ──!?)


 だが、何か覚悟しているのは知っていた。というより、意識が俺よりもスレイプニルに偏っていることに気付いた。一心同体となればすぐにわかる。

 だから撃ったのは二発──

 一直線に列を作り隙間を空けて迫るように撃った。

 彼女はもう片方のブレードを射線に重ねようと足掻くが──遅い。一発しか撃ってこないと油断していたのか、とどめように力を蓄えていたか。

 胸元に直撃し、白いスーツが真っ黒に染まり敗北の証が刻まれた。

 試合終了のブザーが鳴り、バトル終了──スーツが元に戻っても葵さんは仰向けのまま倒れて天井を見ている。

 フィールドに戻って来た皆は事の終幕に対して言葉を失っているようだった。


「…………」


 蘭香と南京さんは困惑、八重さんはどこか清々しさに満ちていて、セイラからはキラキラした視線を向けられ、騒いでもおかしくない鈴花は目が合った瞬間にそっぽを向いてしまう。

 もっとこう「すごいです!」って尊敬されるのかと思っていたが考えは甘かったらしい。

 むしろジャイアントキリング的なことやったと認識されているらしい。

 さて、倒れたままの葵さんをどうすべきかと悩んでいると──


「んんんんんんんっ!! ──ぐや゛じい゛……!! くやしいくやしいくやしい!! 大人にも負けなしだったのにっ!! いや! い~やっ!! も゛う゛いっがい!!」


 爆ぜた──

 手足を振り回して全身で怒りやら悔しさやらなにやらを表現している。さらに怒りの涙さえ溢れてる……!

 ここまでなるものなのか!? ここまでなられるとちょっと怖い。

 溜飲が下がってそうな八重さんもドン引きの表情をしている。蘭香も口がポカンと開いて目が点になってる。


「……こほん、単純に三年のブランクが長かったな。最後の動きは良かったけど必殺技を使いますってのが見えすぎていた。後は俺が一発しか撃っていなかったからって最後も一発しか撃たないと希望的観測に賭けたのはよくなかった」


 追い討ちかもしれないけど、これは必要な指導。

 彼女は暴れるのを止めてだらんと手足を伸ばしていた。ちゃんと話聞いているよな?


「まっ、まぁ、これで部長になるだなんてワガママは言えないでしょ?」


 挑発めいた八重さんの言葉だが、葵さんはのそりと起き上がると特に噛み付くこともせず。


「んっ……約束は守る──でも、コーチの言う事しか聞かない」

「Oh……まるでwild animalデスネ……上下関係が示されたみたいデス」


 とりあえず言うことを聞いてくれるみたいで良かった──良かったのか?

 こんな癇癪何度も起こされたら身体というより精神が持たないぞ?


「とにかく葵さんはまだ部長の器じゃないから部長の件は終了。いいな?」

「ん……」


 赤くなった目や頬で素直に頷いてくれる。


「次は皆と仲良くするように」

「…………」

「返事は……?」


 完全にそっぽを向いている。明らかに心から嫌がっている。仲良くなることを拒絶しているようにも感じる。

 命令するように言うのは恐らく悪手──とはいえ上下関係が出来上がっている今なら会話はしやすくなっているはずだ。


「何か理由があるなら話してくれ。これからは同じチームとして戦うことになる。馴れ合えとは言わない、協力し合える戦友にはなってほしい。葵さんだって勝つ目的は変わらないはずだ」

「──ん、そんなの理想論。向こうが連携できる位置にいない、どんどん合わせてくれなくなる。一番言われた言葉が「怖い」「エグイ」「速い」、「同じチームだと疲れる」「楽しくない」。一人で前に出た方が楽だし確実」


 愚痴のような言葉、嘘は吐いていない。

 彼女の才能や能力は文字通り格が違う、周囲の人達は合わせたくても合わせられなかったのが答えだろうけど、幼い頃の彼女にはそれを理解することができなかった。


「チームっていうのは複数の歯車がかみ合いながら動き、勝利に近づく装置だ。葵さんは余りにも強くて速い歯車、なおかつ真ん中に設置されてしまったんだろう。他の皆はその速度についていけずバラバラに分解してしまったということだろう」

「なるほどね……ワガママ具合にも納得がいくわ」

「その気持ちわかる気がするし。ウチの情熱をコーチーや皆が受け止めてくれなかったらどうなっていたか……」


 鈴花はこの白華で部活荒らしを行ってしまった。本気で挑む鈴花と適度にやる他部員。その熱量の差もあってか分解してしまった。詳しい理由はもっとあるだろうけど状況的には似ている。

 ワープリ部はそんな彼女の水に合った。廃部危機の脱するために皆が本気で強くなろうと奮闘した。新人の鈴花が後ろから全速力で追いかけていたのも良い発破になっていただろう。


「葵さんも子供の頃の嫌な記憶が残っているかもしれないけど、白華の皆は強くなるために努力を続けている。その頃と同じ空気にはならないはずだ。蘭香も八重さんも前のことは水に流して協力し合おう。な、皆?」


 ここで他の皆にパスを送ってみる。葵さんの唯我独尊っぷりの原因は共に並び立つことを諦めたチームメイトと才能の輝きに酔ってしまった指導者にある。

 聡い皆ならここまで読み取れているはず。だからこそ何を考えているのか受けて入れてくれるのか、言葉にして欲しいと思った。


「コーチが勝てるならワタシでも勝てるはずデス! 次はワタシともやるデース!」

「はぁ……あたしは大人だからこれ以上はとやかく言わないわ。変に噛み付いてこなきゃあたしだって大人しくするって」

「ま、まだ流星祭までじ、時間もありますから──だ、大丈夫だと。思います」

「ウチ的には学び甲斐がありそうでちょっとワクワクしてるかな? 葵センパイの動きを真似したいところもあるもん」


 後ろ向きに拒絶している子はいないようで良かった。

 ただ、気になるのは蘭香だ──一番思うところがあるのは彼女だろう。少々心配しながら視線を向けると、少し顔を伏せて深呼吸している。そして、「よし」と一声呟くと葵さんの目の前にたって右手を差し出した。


「私が部長の槿蘭香(むくげらんか)。これからよろしくね葵さん。次は負けないから」


 爽やかな顔でまっすぐと相手の目を見つめて言い切った。

 その晴々とした雰囲気に葵さんは少したじろぎながらもゆっくりと手を伸ばし。しっかり握り返し握手を交わした。


「ん……でも次も私が勝つから──」


 青春の瞬間に立ち会えた昂ぶりからか思わず拍手をしてしまう。


「よし、これで正式に六人目だ! 一騎当千も悪くないがワープリは連携がはまった時が一番楽しくもあるんだ。まだ葵さんはワープリの楽しさを半分体験していないまずはそれを知っていこう!」

「……ん、期待してる」


 葵さんの個としての能力はブランクがありながらも素晴らしいが、連携となると不安が大きい。ワープリ多対多になりやすいゲーム。連携の鋭さが流れを掴む。個人では限界がある。

 だが、不安以上に皆との可能性を考えればワクワクする気持ちの方が圧倒的だ。

 腕が鳴るというのはまさにこういうことだろう。

本作を読んでいただきありがとうございます!

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