第4話 蘭香VS葵
「──っで、ウチ達が来る前にそんなネットリしたのが繰り広げられて訳だ」
「ほ、本当にバトルをするんですかぁ!?」
中等部の皆が入ってくると、まずは新しい人に歓迎の表情を見せるが、この普段と違う異様な空気を察すると疑問符を頭に浮かべて恐る恐ると聞いて来た。
答え合わせをするとこれから始まる戦いに緊張してたりワクワクしているようにも感じられた。
「自己紹介にはちょうどいいだろう?」
「負けたら部長交代なんて言いださないでしょうね?」
どこか気楽なコーチに怒りを覚えたのか、菫ちゃんはコーチの服を掴んで下から睨みつけている。身長差なんて関係無しに自分の頭まで引き寄せようとしてる。
「まぁまぁ落ち着いてくれ。元より白華ワープリ部の部長を決めるのは俺じゃない。正式に契約されてないようなアマコーチにそんな権限は存在しない。ただまあ、自分の方がふさわしいと堂々と言うだけの力があるのかは気になるのも事実」
「指導者としてのサガデスネ」
「ランセンパイ憧れの人の娘かぁ。何か複雑そ~。てか何か装備多くない? ブレードが四本? 二本は腰なのはわかるけど両足の横にも一本ずつ付いてるん? 形は西洋の剣みたいだけどレッグガード的な? あんなに付けたら消耗えぐくない?」
「ブレードは斬る数秒前に充填して使用後すぐに消せば節約できる。見た目よりも消耗は抑えることは可能だ」
葵さんの恰好はどこか仰々しく感じる位武装が多い。
身に着けているのは中距離のハンドガン種『アンヴァル』それも二丁。射程距離は15m位で威力はペガサスよりも少し高め。
それと鈴花ちゃんが指摘した通り近距離のブレードが四本とかなり数が多い。内二本が足の横に装着されていて、剣先が床に向いてる。あそこにある意味はなんだろう? 予備?
そしてサブユニットはバッテリーに接続されている噴出機構。消費は大きいけど移動速度とジャンプ力の向上が期待できる機動力特化のサブユニット。
──紫さんと同じ近接短期決戦の組み合わせ。
対して私のトイはコーチから託されたリボルバー種の『スレイプニル』。良い所に当たれば一撃の高威力トイ、射程距離は19.5mで最大装填数は6。
それとライオットシールドな盾を生成できるシールド。厚みや広さの調整具合でどんな盾も作ることができる。
この二つのトイを運用して、攻撃を受けながら隙を探して狙い撃つ。それが今の私の戦法。
……本当だったら葵さんの戦闘スタイルが私の目指していたスタイル。
「コーチー的にはどっちが勝つと思うん? 葵センパイは何か強者的なオーラがすごいでてる気がするんだけど」
「……まだ何とも言えない。葵さんについては情報が全くないからな。ちょっとばかし本気で見る──親である紫さんの力は俺世代でも当たり前に伝わっている。指標となるのはその記憶だな……」
「な~る……!」
「三年もサボってる奴がちゃんと重ねてきた人に勝てる訳がないでしょ……」
皆も何だか固唾を飲んで見守ってる感じだ。
葵さんとバトルするのはこれが初めて、小学校の頃も機会には恵まれなかった。同年代最強と周知されていて私とどれだけ差があるのかわからない。ここ三年間は葵さんは多分活動していないはず、その間も私は練習を続けて来た。
いくら小学生の頃は最強でもブランクがある。きっと追いつけている!
「さて、試合は一本勝負。フィールドの広さは普段通りだが開始位置は中央近くで始めてくれ」
コーチ達がフィールドから出るとこの場は私達二人だけ──まるで嵐の前の静けさで少し緊張する。
そんな私とは反対に葵さんは落ち着いた表情。学園生活でたまに見かけるどこか退屈そうな顔のままだ。
「──ん、先手はあげる」
舐められてる──!
それも挑発している自覚がない。勝つのがわかっているからハンデをあげるみたいな声だ。
思わずカチンと来て、開始のブザーが鳴ると同時に銃口を彼女の中心に捉えて一発放った。
「甘いね──」
彼女目掛けて飛んでいった弾丸は射線上の背後にあった障害物の木に着弾した。
まるで煙に触れたみたいにスルリとすり抜けた。そのカラクリは特別なトリックでも何でもない、ただその場で一回転して回避された──!
早撃ちと狙いには自信があったのに!?
「あんな避け方ありっしょ!? フィギュア選手並みの速度じゃん!?」
「無駄が無さ過ぎるな……大口叩くだけある。これだけでも射線を見切る目と避けるだけの身体能力を有しているのがわかる」
「本当、ふざけた女だわ……!」
だったら──! 続けてニ、三と弾を撃つ。
けれど今度は駆け出され足の速さで簡単に回避され、弾は空を切る……! おかしい、あんなに的当て練習したのに何で!? 弾より早く動いているってこと!?
さらに独特な風を切るような高速ステップにヌルリとした前後左右の動きで銃口を向ける先が定まらない。
このままじゃ何発撃ったって当たる気がしない!? 完全に見切られてる──
「なんだ……そんだけか。次はこっちからいく──」
興味が無くなった。そんな冷たい顔になると両手にアンヴァルを握られ──その瞬間に鳥肌が立った。殺気──!?
撃ち抜かれるイメージが頭に過った瞬間にシールドをすぐに展開して身を隠す。
直後『ガキン、バシン』と弾が盾と衝突する音が響いてくる。菫ちゃんのペガサスよりも多少威力が強い程度のはずなのに、一発一発が確実に耐久を削っているように重い。
どうして? 何故? そう考えている間にもさらに回り込むように走りながら連射される。
動きが本当に速い、さらに一発一発の狙いが鋭い──普通だったら荒くなるはずなのに全弾盾に命中してる。
コーチと個人練習をしてなかったら防ぎきれて無かった。
これがブランクのある人の動きなの!? それにきっとまだ全力も出していない!
「──とった」
目では追えている、シールドは間に合ってる。でも、攻撃に回れない! その攻撃の瞬間を常に防がれている。
私の左側面の位置から両手をブレードに持ち替えると一気に距離を詰めてきた。それも一直線にシールドの正面に!?
ブレードで斬るつもりみたいだけど流石に舐めすぎてる。そう簡単には壊せない、不動で受け止めれば防げる!
それに、私にだって切り札はある!
このタイミングでコーチから教わったカウンターショットを使えば──!
「えっ!?」
跳んだ──!?
両腕のブレードを使うかと思ったのに、目の前でスケート選手のジャンプみたいに跳ね上がった。そして、右足がまっすぐこっちへ伸びてくる。蹴り? 蹴りじゃダメージは入らない──ううん、足に付けたブレード? だとしても当たら──
ジャキン
と音が鳴ると足に装着していたブレードが伸びて──そうじゃない、柄の位置が膝近くから足首まで移動してる。バネみたいに射出されたんだ!?
真横からギロチンの刃みたいに迫ってくる。でもシールドの壁が守って──くれると思ってた。
シールドの縁に衝突した瞬間にブレードが食い込んで、亀裂が一直線に割れる未来を描くように先走ってそのまま真っ二つに切断され、そのまま私の身体にも届いて。切り裂かれた──
「そんな……!?」
首元に叩かれる感触を理解すると白いスーツは一気に黒く染まり、ガチガチに固まって。敗者の証明へと彩られた。
「ん、勝負あり」
試合終了のブザーが鳴り響いても、自分がどうして負けたのか理解できなかった。
負けたのはわかる。でも理屈でどう負けたのかが理解できない。ただ実力が足りずに負けましたじゃ成長できないのに! レベルが違い過ぎるってことなの……?
「見事だな……ここまでとは思っていなかった」
トビラが開くと皆が入ってくる。
コーチの心から感心するような声にズシンと心に黒くて重いものがのしかかって気がする。
結局私は一発もかすらせることができていない。アレだけ個人練習してもらったのに何もできなかった……申し訳なさと情けなさで泣きそうになるコーチの顔を見れない。
「コーチー!? 一体何が起きたっしょ!? 足の方が腕より筋力あるって理由じゃ納得できない威力じゃんあれ!」
「その通り、あれは力で斬ったんじゃない技術だ。一連の流れはシンプルかつ論理的──アンヴァルの連射は特定部分、自分が斬ると決めていたラインを狙っていたんだろう。耐久強度を狭い範囲だけ著しく落とし、その弱った部分を足のブレードで切り裂いた」
コーチの解説を聞いた後に割れたシールドを見てみると、確かに弾が当たった位置は切り裂かれた場所と重なってる。他に着弾の跡が全然残っていない。
戦い始めた時点でこうやって決着を付けると決めていたみたいだ。
「ん、ちょっとビックリした。ビデオ無しでちゃんと説明できるんだ」
「確かに速かったがな同じようなテクニックは使うからすぐわかった」
経験の差……頭のワープリ辞書に入っているからすぐ繋がったんだ。
目で追えてはいたけど、対応できなかった……わかっていたら防ぎ方を変えられたのに──同じワープリなの? って感じるくらい動きが完成されてた。
「っで、あの足のトイはありなの? 今まであんなの使ってる人見たこと無いわよ」
「アリだ、やってることは伸縮しているだけ。トイの性能を改造するのは禁止だが補助機構を装着するのは違法じゃない、スナイパーライフルに三脚装着したり、シールドの装着位置を変えるためにベルトやボタンを着けたりするのと同じだ」
「そ、そもそも、やっていいよって言われたからってあの動きは、できる気がしません……! 体幹もそうですけど、どうやって操作してるんですかぁ?」
「ん? 靴の中にコントローラーがあるからそれ押して伸び縮みさせてる──こんな風に」
右足を90度開いてピンと伸ばした後、ブレードを伸ばして、縮めてを繰り返した。
その姿はまるでバレエダンサーのように天井から吊り上げられてるみたいに安定していてブレがなかった。
「動きは無駄が無くて綺麗なのが複雑だし……」
「何はともあれ白華が勝ち進むためには必要なピースがまた一つ揃ったのは確かだ。彼女が参加することで戦略や戦術に幅が生まれるだろう」
コーチのあの目──! 私達の練習風景を初めて見た時と比べ物にならないぐらいキラキラして期待に満ちている。
まるでダイヤの原石を目の前にしたみたいに。私と同じ目をしてる。
喜ぶのは無理もないけど、私は複雑な気持ちで一杯になる……負けたことが悔しいだけじゃない。
金剛葵さんは私の憧れた人、その娘──
白華女学園に入学したあの日、これは運命だと思った。張り出されたクラス分けの紙、自分の名前を探す途中で見かけた「金剛」という苗字、珍しいからもしかしてと思った。
恋する女の子の心臓の高鳴りはこういうこと? って思うぐらいにドキドキした、まだ自分のクラスがわかっていないのに、勘違いかも知れないのにけどとにかく一度会ってみようと決めた。
私のクラスは菫ちゃんに教えてもらって一緒だってことで喜んだけど、その時の頭の中は「もしも」の期待感で一杯だった。
初めて葵さんを見た時、何度も動画で見たあの人と似た印象が伝わってきて、親子なんだなって直感的にわかって何だか嬉しくなって、葵さんを通じて紫さんと一緒に試合するようなイメージもうかんでた。
とにかく条件が揃い過ぎてた。紫さんと同じ白華女学園、同学年これはもう運命だと思った。
絶対にワープリを一緒にやれると思ってた。もしかしたら黄金時代を再び蘇らせるんじゃないかって期待もあった。
──でも、有頂天に舞い上がることができたのはワープリ部の見学に行った時までだった……
練習風景を全部見終わる前に葵さんは帰った「つまらない」と一言そう言って。
あの時の冷たく、何より失望と退屈した目は覚えてる。あぁ、これはきっと何度誘っても無駄だと理解した。離れていく背中を止める言葉は思いつかなかったしこれ以上は誘えなかった。
おかしい……絶対におかしいよ──
こんなに強いのに……好きじゃなかったらここまでできないはずなのに……! どうして!? どうしてあの時入ってくれなかったの?
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