第3話 新入部員がやってきた!?
ゴールデンウィークも終わって二日目の学校。休み中に海外に行って時差ボケを感じている人も戻ってきた感じだ。
連休も明ければ高等部の授業も本格化、なにより一学期最初の門番、中間テストも迫ってきてる。気を抜く暇は全くない!
だけど廃部危機って心配事が消えて心が今はすっごく軽くて勉強もガンガン身に入ってくる! この調子が続いて行ったら上位10名も夢じゃないかな?
なんて、甘い妄想に浸っちゃったけど楽しい気分で過ごしているとあっという間に放課後になって部活の開始!
充実しているってこういうことなんだろうな、ルンルン気分で菫ちゃんを連れて部室のUCIルームに向かう。
ドアに手をかけると鍵はかかってない。コーチも遅れずに来てくれたみたい。こういう些細なことでも気持ちが通じ合ってるというか、ワープリができるって気持ちで嬉しくなってくる。
靴棚に靴を……あれ? 一足多い? コーチ以外にも別の靴? ローファーだから生徒……もしかして!
「おお、来たか蘭香! なんと新入部員が入ってきてくれたぞ! それも経験者だ!!」
思った通りだ! すごい、何て言うか流れが来てる! 今まで停滞していた全てが動き出したみたいだ!
コーチも新入部員が来てくれてご機嫌なのが伝わってくる。練習試合の時に解説とか色々頑張ってたみたいだからその努力が実って喜んでるんだ。
それに感化されて私も一層ウキウキしてくる。新しい仲間、それが経験者。こんなに嬉しいことはないもん! 私達が本気で真面目にやってるのが伝わってくれたのかな?
スっと扉の影から出てきた子の顔を見た瞬間──
表情が固まって全身に寒気が走った。
「あなたはっ……!?」
新入部員──喜ぶべきことはたしかなのに。
何で、どうして、何故、って感情が頭の中を占めていく。なにより『今』入部を決めたの?
「……よくもまぁ今更顔出せたものね!」
「八重さん……? 何故そんな怖い顔をしているんだい? もしかしなくても三人は知り合いなのか?」
コーチは私達の態度に疑問を感じたのか複雑な表情で見比べている。そして、恐る恐ると言った表情で彼女に視線を集中するけれど、彼女は首を振って。
「知らない、覚えてない」
なんてはっきりと悪びれる様子は微塵も感じさせず元からそんな出会いが無かったと感じさせる一言だった。
……「何を言っているんだろう?」みたいな表情をこっちに向けているから本当に覚えていない、忘れたんだと思う。
「ちなみにコーチ、まだのほほんとした顔しているってことはその子について何も知らないみたいね」
「いや、いきなりやってきて「入部届け受理されたから」って学園長の判子付きのを出してくれて。二人のタイミングも良かったから。え~と名前は……──え?」
コーチも気付いたみたいで口元に手を当てて思案している。
名前を見たら絶対に反応する。ワープリに詳しい人間ならその名前を見た瞬間に繋がる。「まさか」とか「もしかして」が頭の中で逡巡してると思う、あの時の私みたいに──
「あんたの想定通りで間違ってないわよ。その子は金剛紫さんの娘、金剛葵──三年前、蘭香が一緒にやらないか誘ったけど「つまらない」って断ったのよ」
「ん、少し思い出した──あの日見たのは退屈だった」
悪びれるとか申し訳ないみたいな感情は一切感じさせず、平坦な抑揚で言い切った。
「……あなたは確かにあの日そう言った。でもどうして今になって入部する気になったの? この三年間、何時でも入ることができたはずなのにどうして……?」
「ん? だって明らかに弱いチームに入ったって面白くとも何ともない。学べることも無さそうだった。だけど何か急にレベル上がったなぁ~って、気になって。深い理由はないよ」
「よくもまぁいけしゃあしゃあと……! あんた以外だったら普通に歓迎していたでしょうけど、大変な状態を知っていながら見捨てて、ようやく形になってきたら入部? 盗人猛々しいわ!」
「ん? あれが大変? どの辺が?」
素で全部言ってる──
ただ、その言葉一つ一つが菫ちゃんの琴線にひっかかって、眉が釣りあがっていくのが見えた。
突っ込みかねないのを抑えて落ち着かせる。
私の代わりに菫ちゃんが怒ってくれている。
「まぁ、まぁまぁ……昔に何かあったかは一先ず置いといて。白華が戦っていくためにも追加メンバーは必須だった。予選突破のためにも誰であれ入ってくれるなら歓迎すべきだ」
コーチのなだめる言葉に菫ちゃんも納得してくれたのか仕方ないと力を抜いてくれた。
だけど……正直複雑な気持ち。
あの時心底興味無いみたいな言葉で見限った葵さん。小学生の頃、同年代に最強の選手がいると常に話題にあがってた。楽観的で自主性に任せる先生でも「一番になるのはあきらめろ」と真面目な顔で言うぐらいだった。
白華に来たのもお母さんと同じ道を歩むためだと信じてた。
葵さんが入部してくれていたら何かが変わっていたと思う。
大会の成績も良くなっていたはずだから。廃部騒動は起きなかった──
あの後も少し葵さんを追いかけてみたけど、どこか別の場所でワープリをする訳でもなくまっすぐ寮に帰るだけだった。
もう二度とワープリをやらないみたいな雰囲気だったのに今更どうして……?
「ん、じゃあ今日から私が部長だね」
「なっ!?」「え?」「はぁ!?」
言われた言葉が理解できずに完全に目が点になって顔が固まってしまった。
私の耳がおかしくなかったら「私が部長」って言った?
「~~っ!! 冗談も休み休み言いなさい! 白華ワープリ部の部長の座は安くはないのよ! ポッとでの新人に与えられるわけないでしょうがっ!!」
どう答えたらいいのかわからない私の代わりに菫ちゃんが怒りの込められた声で拒否しているのが凄く伝わってくる。
「ん、だって私が一番強いから。部長はリーダー、強い人がリーダーなのは当然。だから私にふさわしい」
「何たる脳筋理論だ……彩王蓮華でしか聞けないようなセリフだぞそれは」
コーチが呆気に取られた顔で素の反応してる。
確かにネームバリューで考えれば葵さんが部長に相応しいと大勢が口にするかもしれない。金剛という名はそれだけでワープリ選手の目を引くのだから。看板として相応しいのがどっちかなんて語るまでもない。
偉大な女子選手、金剛紫さん──白華の閃光と言われて女子ワープリ人口を増やしたという偉業も持ってる偉人であり特異点とも言われた人。そんな人の娘なのだから当然部長が相応しい。
でも……でも──! はいそうですかって受け入れて譲れる程、私のワープリ熱は低くない!
先輩達が託してくれた想いを裏切ることはできない!
覚悟を決めるんだ──!
「だったら……勝負しましょう! ぶ──」
パンッ──!!
と大きく手を鳴らされ言い切る前に一拍入れられて、言葉が途切れた。
「──自己紹介にバトルは賛成だ。葵さんの情報は俺は殆ど持っていない。何十もの言葉を交わすよりもバトルを一つ行ってくれた方が手っ取り早いし価値がある」
「ん、構わない。実力の違いを教える」
コーチのたしなめるような視線が私に突き刺さる。
「口を滑らすな」
まるでそう言っているかのようで、それは私の実力を信じ切れていないようにも感じて胸の奥が何だかモヤっとしてしまいました。
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