第2話 繋がる実感
5月6日。この日をちゃんと迎えることができた。
コーチがいなかったら私達は今日こうして部活をすることが無かった。5月5日、ゴールデンウィークの最終日が分水嶺だった。
OGの皆さんに課題は与えられて綺麗に廃部が撤回にはならなかったけど、私達のワープリは続けられている。
朝起きて、今日が5月6日だと頬をつねって何回か確認した。夢じゃないと思って凄く安心した、変にドキドキしていた心臓も落ち着いてくると今度は嬉しくてドキドキしてきた。
部活が終わった今、大好きなワープリを続けられている事実を心の奥底で深く……深く実感できてる。
沢山動き回って汗をかいて、皆と連携したり競い合ったりして、お腹がグゥってなりそうになるのを堪える。そんな当たり前の部活動を続けられているんだ!
だから、コーチには感謝の気持ちで一杯!
「ようやく昔の蘭香に戻ったって気がするわ」
「え? 昔?」
「自分じゃそういうのは気付けないものよね。部長になってからは常に何かに追われるみたいにどこか辛そうだった。コーチが来て、廃部が延長されてようやく晴れやかになったんじゃない?」
「そうかなぁ?」
菫ちゃんの言う通りかも。
今までは世界滅亡の日が決められていてその日に少しずつ近づいているような恐怖があったけど今はそんなのを感じなくなってる。
心が晴れやかでとても軽い、今日の部活は軽めって言ってたけど羽が生えたみたいに身体も凄く軽く感じてた。今なら何でもできる気さえしてた。
皆が私と同じ気持ちを持っているかはわからないけど、部内の空気はとても良い気がする。
ひょっとしたら皆のテンションとか少し高いのかな? 疲れがストッパーになってても気分が上がってる気がする。
「Oh! 体重増えてマース! でもガンガン引き締まってマスからOKデス! これもコーチのおかげデスネ!」
セイラちゃんは下着だけになって体重計に乗るとそんなことを言い出した。
まぁ、実際育ち盛りだし身長伸びたりして成長もしてるから気にするだけ無駄だよね。コーチのおかげで練習の質も密度も爆上がりしたから食べる量もグングン増えたもん。最近はご飯が美味しいんだよねぇ。
ディフェンダーで使うシールドもちょっと重いから筋肉も必要、だから食事が多くなるのも当然、だから決して太ったわけじゃない。うん──
「それにムネ周りも最近キツくなってきましたネ。買い替えデスカネ?」
羨ましいことを言っちゃって。
私もそんなに負けてないけど、セイラちゃんは血が影響しているのかもしれないけど特別にグラマーでスタイルがすっごく良い。普段は元気な大型犬みたいな雰囲気があるけどちょっと整えて静かにするだけで艶やかな別人に映る。
これでまだ一年年下だからちょっと恐ろしいぐらい。
「それわかるっしょ~ワープリやって胸筋とかついたのかも? でも大きくなってくるとカワイイ系のデザイン少なくなってくるのが悩みなんだよね。そいえばさヒマチーってどの辺で買ってる?」
新人の鈴花ちゃんはオシャレに気を使ってる白華に珍しいギャル。ファッションの話になるとどこかともなくやってきて結構食いついてくれる。
お嬢様学校だと目に付いて色々言われそうだけど、学年一位の頭脳を持っているから誰も文句を言えずトップギャルとして君臨してる。まぁ、真面目で気の良い子だから気にすることないけど。
後はそう、入部してから練習試合の間で色々あったのかコーチに懐いてる気がする。
「え、あの……わたしはあまりオシャレとか考えてなくて、寮の購買で買ってます」
「わかる、めっちゃ種類豊富だもんね。シンプルだけどフィット感あるのに必ず出会えるのがいいよね」
流石にプライベートゾーンの話は向日葵ちゃんは同性でも苦手みたい。コーチとそう変わらないぐらい身長も大きいし、お胸も数字なら一番大きいんじゃないかな?
色々目立つこともあって男の人が苦手になったみたいだけど、コーチのことは信用してくれたのか逃げ出したり物陰に隠れることなく会話できるようなったみたい。
でも二人っきりはまだ無理みたいで誰かと一緒じゃないとダメ。
「全く……あたし的には小さくしたいぐらいだけどね。運動したら脂肪が燃焼されるっていうけど成果ないわ」
自分の胸をふにんと触って愚痴を零すのは菫ちゃん。
体力が少なくて頭脳担当でドローンを駆使してサポートするのが役目。コーチの指導でちょっとずつ体力も付き始めてきたみたいだけど、まだまだ理想の肉体には近づいてないみたいだ。
「スミーセンパイ、流石に勿体無いし。大は小を兼ねる、レアな武器だって知った方がいいっしょ」
「世間一般の価値観と一緒にしないでほしいわ」
「そ~かな~?」
菫ちゃんはトランジスタグラマーの自分を気にしてる。別に何かされたりしたとかは無いけど男性でも女性でも奇異な目で見られるのが嫌い。部室のシャワー使う時だって他の皆が使ってる時は遠慮するぐらいに。私に見られたりするのは幼馴染だからか別に平気みたい。
以前私が「そのままでも魅力的だよ」って伝えても首をそっぽ向けて納得してないような素振りをする。やっぱりこういうことは難しいね。
「そういえば蘭香は体重測ったりしないの」
「え~……ちょっと怖いからいいかなぁ」
「ランセンパイ……もしかして筋肉増えるスピードよりも贅肉増えるスピードの方が早くなってません? 廃部撤回できて喜びのドカ食いしたりしたんじゃ……」
「いやぁ~どうだったかなぁ!? 部長として健康的に食べる程度に抑えてるよ!」
どうしてそれがバレたんだろう!? 確かに昨日は母さんが慰めにしろお祝いにしろどっちでもいいようにって豪華な夕食とケーキも用意してくれた。お母さんの料理は美味しくてつい食べ過ぎちゃう。
近所に住んでる菫ちゃんも昨日は一緒に食べることになった。だからしっかり見られてる、隣からすっごい訝し気な視線が突き刺さってくるよぉ。
「……まぁ、腹にはいってなさそうで安心してるわ。流石にワープリ部部長のお腹がポッチャリしてるのって貫禄ないもの」
「もぉ~菫ちゃん!」
菫ちゃんの肩にポコポコと触れる。でもスラっとして腕前もすごかったら皆が憧れる部長になるだろうなぁ。
白華第二の閃光、槿蘭香──! てね。
OGの先輩達に言われたみたいに私達が目指して超えるべきは白華ワープリ部が全国に名を馳せていた黄金時代。
美しくて強くて誰もが見惚れるぐらいだった。
私はあの姿に憧れて白華女学園を目指して入学してワープリ部に入った。色々あって当時の強さは残ってなくて大変だった、私達が気付けないうちにどんどん枯れて腐っていた。
コーチが来てくれて再び芽吹くことができた。
コーチの指導に応えるためにも次は『流星祭』──がんばるぞ!
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