フェンリの森
「なぜ、ザイール村に行くのだ?」
「だって、冒険に出たら、一度は村へ行くものでしょ…」
「よくわからないな…」
「まあ、良いじゃない。さあ、ザイール村へ向かいましょう!!」
その言葉を聞いて、ドラゴンはフェンリの森の上空を旋回し始めた。川沿いを飛んでいると、遠くに村の明かりが見えてきた。あれこそがザイール村に違いない。主人公の生まれ故郷であり、のどかな田園風景が広がるその奥に、主人公が住んでいた一軒家があるはずだ。メアリーはその光景を思い浮かべ、嬉しそうな表情を浮かべた。
ドラゴンはゆっくりと方向を変え、ザイール村に降り立つことにした。
地面に降り立つと、そこには一人の女性が立っていた。彼女は涙を流していた。
きっと、彼女はフランソワの母親なのだろう。
「どうしたのですか?」
メアリーが尋ねると、女性の悲しそうな声が返ってきた。
「私の娘、フランソワが…。フェンリの森に行ってしまったのです。あの子には特殊な能力があって、魔力を完治することができるんです。きっと、何かに気が付いてフェンリの森に行ってしまったんだと思います…。どうか、娘を助けてください!!」
その女性はドラゴンに乗っているメアリーに懇願していた。
それを聞いて、メアリーは嬉しそうな顔をした。
「フランソワ!! やっぱり、そうよね。間違えてなかったんだわ~。お母さん、娘さんのことは心配しないでください。私がちゃんと育てますから!!」
「育てる? それはどういう意味でしょうか!?」
「お母さんはそんなことを気にする必要はないんです。どうせ、私は転生した身です。悪役令嬢をまっとうして見せますよ。どんときやがれってやつですよ。さあ、どらちゃん、フェンリの森に行きましょ!!
その時、少年の声がした。
「ちょっと、待てよ!!」
そこには少年が立っていた。
鋭く睨みつけていた。
彼の名前はザック。フランソワと同い年で、攻略対象でもある。彼は主人公であるフランソワの兄のような存在でもあった。ザックは猟師の父親を手伝っており、真っ黒に焼けた肌とすらりとした端正な顔立ちをしていた。村の女の子たちからの人気も高いらしい。
そういえば、ザイール村でのイベントもあると聞いたことがあった気がするわね。全然、そっちまでやってないからわからないけど。そんなことを考えながら、メアリーはザックを見つめていた。
「オレも連れて行ってくれないか?」
ザックの声がした。
「へえ~、あなた、フランソワのことが好きなのね?」
メアリーが質問すると、ザックの顔が赤くなった。その様子がかわいらしくて、メアリーは微笑んでいた。それを見ると、ザックは不満そうな顔をしている。
「ち、ちげーよ。オレはあいつのことなんて好きじゃねーから。ただ、森のことが気になっているだけだ!」
「じゃあ、大人に頼んだらいいんじゃないの?」
「今、男たちは村にいない。冬が来る前の食糧確保のため、狩猟に出かけているんだ。だから、オレが行かなくちゃいけないんだよ」
「ふーん、そうなんだ。まあ、いいわ。ザック、あなたも連れて行ってあげる」
「良いのか?」
「まあね、ゲームの攻略相手のことは知っておいた方が良いからね!」
「攻略相手?」
「まあ、こっちのこと、気にしなくていいわよ…」
「何か、変なことを考えてそうだな…」
「そんなことはないわよ。そうだ、あんた、冒険に連れて行ってあげると言っているんだから。もう少し喜びなさいよ」
「まあ、感謝はしているよ。ところでさ、どこに行くんだ?」
「サラヴァンティスの湖よ」
「嘘だろ。あんなところにフランソワがいるわけねーよ!」
「あなた、わかってないわね。あの湖に青い月が映し出されるのよ。あの神秘的な映像は忘れられないわ。そこで王子様と出会うから良いんじゃないのよーー」
「はあ!? 何を言っているんだ?」
「あなたみたいなガキんちょにはわからないことなのかもしれないわね…」
「お前だって同じぐらいじゃねーか!」
「何言っているの? 私はずっと進学校で勉強をしてきたんですけど…」
「何だよ、神学校って。まだ、お前、子供じゃねーか。言っていることがよくわからねーよ!」
「そうね、きっと、そんな話をしてもわかってはもらえないわよね。何だか悲しくなってきたわ…」
「そんなことはどうでも良いから、さっさと行こうぜ!!」
「あんたさ、そんなことを言っていると、女の子にもてないわよ…」
「そんなこと、どうでも良いんだよ。オレは有名な冒険者になるんだからさ!」
「はいはい、そうですね…。まったく、男子というのは…」
そう言うと、ドラゴンは二人を乗せてフェンリの森の奥へと向かっていった。
もう少し先にフェンリルの住処があるらしい。
◇ ◇ ◇
「村の人は、この先に行くことはないんだ…」
と、ザックが不安そうな顔をしていた。
それにもかかわらず、メアリーはお構いなしで森の奥へと進んでいこうとしていた。むしろ、微笑んでいるようであった。
「そんなことを気にしてはいられないわ。だって、私たちはフランソワを探しているのよ。彼女はこの奥にいるの。さあ、行くわよ!!」
うっそうと茂る草木をかき分けて進んでいくと、大きな大木が見えてきた。
そこでザックが立ち止まった。
大木の下にフランソワが倒れていたからだ。その横には白いオオカミのような姿をしたフェンリルが立っていた。
今にも、フェンリルがフランソワの頭をかみ砕こうとしていた。
それを見ると、メアリーはフェンリルの前に立ち、大きな声で叫んだ。
「待って、待ってよ!あなた、その子を食べようとしているんじゃないでしょうね!?」
その大きな声を聞くと、フェンリルは驚いた顔をした。
「なんだ、今日はおかしな日だな。普段、人間がこの場所に訪れることなどないのに…。また、人間が来るとはな…。お前たちは何しに来たのじゃ。これからワシは食事の時間なのだよ。さっさとこの場所から去れ。そうすれば許してやらなくもない」
「あなた、その子を食べる気なの?」
「そうだ。この女がこの森に迷い込んできたのだからな。別に、オレが食べてはいけない道理などないだろう?」
「だめよ、あなたって、この子、フランソワと従魔契約をすることになっているじゃない!!」
「従魔契約だと? そんなことをするわけがないじゃないか!?」
「またまた〜、あなたはフランソワの美しさに見惚れてしまい、彼女と一緒に森から出ることになるはずでしょ?恥ずかしいからそんなことを言っているのは知っているんだからね!!」
「いや、そんなことはない。オレが人間などに興味を持つはずがないだろうが……」
「え!?ほんとに!!??」
「当たり前だ…」
「ええ、えーーーーーーーー!!!!」
突然、森の中に、メアリーの驚いた声が響いていた。
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