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誘拐犯を追いかけて⑤

 メアリーの脳裏に浮かんだのは、友人が話していた「龍の牙」という言葉だった。それはゲームをクリアした証として手に入るアイテムであり、使用すると青龍戦争と呼ばれる、青い月の民と地上に住む龍たちの戦いの歴史に触れることができるという。『龍の牙』によって、彼女の内に眠っていた何かが目覚めてしまったのではないかと、メアリーは考えていた。しかし、本当に『龍の牙』にそんな効果があるのだろうか…。




「あなたは誰?」



 メアリーはフランソワに問いかけた。

 それを聞いて、フランソワは微笑みながら答えた。


「私のことを忘れたの?」


 メアリーは首を振る。


「知らないわ。あなたはフランソワじゃないでしょ…」




 その瞬間、フランソワの手から炎が放たれた。

 炎の塊がメアリーに向かってくる。



 とっさに、ドラゴンがメアリーをかばった。

 焦げたような匂いが漂い、その場にドラゴンが倒れこんでいた。

 「ぐぐっ……」と、ドラゴンは苦しそうな顔をしている。





 メアリーは叫んだ。




「フランソワ、何でそんなことをするの!!」




 フランソワは残念そうな顔をして、メアリーの顔を見つめていた。

 彼女の声が聞こえてきた。



「あら、ダメだったみたい…」


「あなたは誰なの!?」


「きっと、あなたのせいなのよ…」


「私のせい?」


「そうね、一度、元の悪役令嬢の魂に戻す必要があるみたいね…」



 メアリーは混乱していた。


 ただ、フランソワの言葉の意味を理解しようとしていた。

 メアリーの知っているフランソワではなかった。



 それだけはわかっていた…。




  ◇  ◇  ◇





「元の悪役令嬢の魂に戻す必要があるみたいね…」



 フランソワの声がした。



 その瞬間、メアリーの胸に鋭い痛みを感じていた。まるで薔薇のとげに触れたような。その途端、メアリーは深い悲しみに包まれた。

 その悲しみは、転生前のメアリーのもののようであった。

 自分とは別のメアリーが目覚めようとしているようで、メアリーは困惑していた。



「どうしてこんなに悲しいのだろうか…」




 この世界に住む人々、いや、青い月の民に対する恨みや怒りが溢れているように感じていた。

 それはフランソワへの否定につながっている…。



 この気持ちのせいで、メアリーは悪役令嬢としてフランソワを否定しているのだと気づいた。

 それは運命というものかもしれない。



「フランソワが憎い…」



 その言葉が頭の中に浮かんできた。

 それは乙女ゲームのルールのように、メアリーを縛り付けようとしているかのようであった。



 幼い頃、青い月を見つめていたことを思い出していた。

 その青い光を憎むように。

 そう、あの日、青い月の祭典の日、メアリーはあの日のことを思い出していた。



 ずっと、メアリーは青い月を睨みつけていた…。




 メアリーは問いかけた。



「どうして、そんなに悲しい気持ちなの?」



 そこには幼い頃のメアリーが立っていた。

 幼いメアリーは答えた。



「わからない…」


「何で、こんなに憎いの?」


「わからないわ…。ただ、青い月を見たら、私は憎しみに溢れていた」


「そうなんだ…」


「きっと、あなたが私になってくれなかったら、憎しみに溢れてしまったのかもしれない。体の中から溢れてくる炎が私を埋め尽くそうとしていた気がする。この炎があなたも焼き尽くしてしまうかもしれない。そうなったら、ごめんね…」


「大丈夫よ、私は強いからね。だから、あなたも助けてあげる!!」


「ごめんね。ありがとう…」




 そう言うと、本当のメアリーの声が聞こえなくなった。

 幼いメアリーの魂は燃え尽きてしまった。



「やっぱりね、メアリー、あなたは悪役令嬢なのよ、だから、私がそんなあなたを助けてあげる…。きっと、私たち、2人で分かり合えれば、こんな憎しみなんかに負けることはないんだからね…」




 そう思いながら、幼いメアリーの手を掴んでいた。

 ただ、小さな手を掴んでいた。


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