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腐ったリンゴ売りの少女

 荒くれの街は、闇を抱えた人々が住む場所である。畔道には廃棄された酒瓶が散乱し、路地裏には怪しげな男たちがうろついていた。街は絶望に覆われており、藁を敷いた粗末なベッドで眠る浮浪者が横たわり、怪しげな露店には盗品と思われる鎧や剣が陳列されていた。善悪の概念が薄れ、生き残ることだけがすべてのように思えた。その光景を見て、アレックスはすっかり困惑していた。


 それなのに、メアリーは何事もなかったかのように荒くれた街を歩いていた。

 まるでショッピングモールを歩いているかのようであった。


「おい、大丈夫なのか、こんな場所を歩いていて!?」



 アレックスの声が響いた。

 すると、メアリーは自嘲気味に笑っていた。


「ホントよね~。悪役令嬢の私がどうしてこんな荒くれた街に来なくちゃいけないのかしらね~」


「そうじゃなくてさ…。この街には、犯罪を犯した逃亡者がたくさんいると聞いたことがある。こんなところに二人で来るなんて危険じゃないかということを言っているんだよ。誰か仲間を連れてきた方がいいんじゃないか?」



 アレックスは必死にメアリーを止めようとした。

 しかし、メアリーはため息をついた。



「そうよね~。私たちに仲間がいるならね~。だからさ、悪役令嬢がすることじゃないんだと思うのよ~」



 メアリーが不満そうな顔をしていると、怪しげな老人が近づいてきた。

 老人の不気味な笑みを浮かべていた。



「げっへっへっ、お嬢さん、とても神秘的な薬がありますよ。いかがですか?」


「へ~、あなた、何か売っているの?」


「もちろんですとも…。とても楽しくなる薬草を持っているんですよ…。げっへっへっ…」



 老人の言葉に対して、メアリーは子供のように好奇心を抱いていた。

 その時、アレックスは不安を抱いていた。とっさに、メアリーの手を強く握りしめ、その場から引き離そうとしていた。



「ダメだ、そんな怪しいものに手を出したら!」


「えー、なんで? ちょっとくらい話してもいいじゃない~…」



 しかし、アレックスはメアリーの言葉を無視していた。

 人通りの少ない路地裏にたどり着くと、アレックスは堪えきれずに声を上げた。



「いったい、何を考えているんだ!!」


「はあ!?」


「アイツが持っていたのは、明らかに毒草だ。そんなことも分からないのか!」


「わかるわけがないじゃない。ゲームにも出てこないし…」



 メアリーは肩をすくめた。

 アレックスはメアリーの無知に苛立ちを抱いていた。



「な…、助けてやったのに…」


「別に、私だったら毒草なんか食べても大丈夫だし~」



 そう言って、メアリーは笑っていた。

 アレックスは彼女の無神経さに言葉を失っていた。



「そんなことあるわけがない!!」


「冗談だって…。もういいじゃない。そんなことより、子供たちの集まっていそうな場所を探しましょうよ~。パンダマンの居場所がわかると思うのよ~」


メアリーは話題を変えようとした。すると、アレックスは呆れた顔をしていた。


「仕方がない、パンダマンを探すしかないんだな…。じゃあ、早く見つけてしまうべきだな…」


「そうよ、それがいいと思うわ…」


「いつもながら、メアリーは他人事みたいに話をするな…」


「そうかな~」


 

 しばらくの間、二人は荒くれた街の中を歩いていた。

 


 メアリーはふと足を止めた。

 道の真ん中に、小さな影がぽつんと佇んでいた。




 一人の少女が立っていた。





  ◇  ◇  ◇





 一人の少女が立っていた。



 虫食いだらけのリンゴをぎっしり詰めた籠を両手で抱えて、その少女は通り過ぎる人々に売り歩いているようであった。

 しかし、誰一人として少女に見向きもしなかった。




 そこに一人の女性が少女に近づいてきた。

 メアリーである。



 メアリーは少女の籠の中のリンゴをじっと見つめていた。





「そのリンゴを、全部頂いてもいいかしら?」



 

 メアリーの声が聞こえてきた。

 少女は驚きを隠せない様子でメアリーを見上げていた。

 


 少女は戸惑っていた。

 当然だろう。

 こんな虫食いだらけのリンゴを買ってくれる人がいるとは思っていなかったのだから。

 少女の戸惑いをよそに、メアリーはリンゴの代金を支払った。



 そして、少女に問いかけた。




「あなたは、パンダマンを知っているかしら?」




 突然の問いかけに、少女の瞳が大きく見開かれた。

 その言葉を聞くと、少女は逃げるように走り出した。ただ、メアリーはその少女を追いかけようとはしなかった。



 逃げる少女の姿をじっと見つめながら、メアリーは静かに微笑んでいた。




「どうやら、フラグが立ったみたいね…」


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