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何で、誘拐イベントまで起きるの!?

 大地には枯れ果てた草木すらもまばらにしか生えていない。その中を、軋む車輪の音を立てながら一台の馬車が進んでいく。目的地はドラゴンの生息地。人々が「死に辿り着く場所」と呼ぶ、この世の果てのような場所だと言われていた。


 突然、車輪がゆっくりと止まった。

 御者は鞭を握りしめ、顔を蒼白にしてこちらを見ていた。この先へ進むことは禁じられているらしい。



「これ以上は、行けません…」



 兵士たちは困ったように互いに顔を見合わせた。誰も判断することができなかった。その姿を見て、一緒に来ていたアンドリュース王子も困惑していた。



 すると、メアリーの声が響いた。



「じゃあ、私とアレックスは道の先へ向かうことにするわ。ここからはアレックスの試練になるんだから、あなたたちはこの場所にいてもいいわ。ねえ、アレックス、そうよね?」



 メアリーはアレックスに問いかけた。

 彼は頷いた。



「ああ、もちろんだよ…」


「何かあればすぐに連絡するから、じゃあ、行きましょうか!」



 メアリーの声を聞いて、エルムが一歩前に進み出た。

 彼は真剣な表情をしていた。



「メアリーさん、ぼくも連れて行ってください…」


「何であなたが行くの?」



 エルムはとっさに嘘をついた。

 青い月の女神に頼まれたなんて言うことはできなかった。



「知りたいことがあるんです…」


「知りたいこと?」


「そ、そうなんですよ。ぼく、ドラゴンを見たくて…」



 青い月の女神はエルムに告げていた。青い月の夜、この世界はおかしくなってしまったと。その原因はドラゴンの丘にあるかもしれない。世界がおかしくなるのをただ見ているわけにはいかない。エルムはそれを確認しなければならなかった。



「ドラゴン!? ドラゴンならここにいるわよ~。ねぇ~、どらちゃん!!」



 メアリーの明るい声が聞こえた。

 彼女の肩には、小さなドラゴンがちょこんと乗っかって、エルムたちをじっと見つめていた。




「いえ、ぼくは野生のドラゴンを見たいんです…」


「ふーん、わかったわ…。ただ、変わりはないと思うんだけどな~」



 ドラゴンも不満そうであった。

 その時、岩陰から、誰かの声がした。



「メアリーさん、聞こえますか?」



 視線を向けると、そこには黒い服を着た男が立っていた。忍者の格好をしている。

 メアリーは、その男を見て目を丸くした。



「電車ぶりじゃない!! クサナギ一族の人でしたっけ? いったい、どうしたの!?」


「クロウ様よりお言葉を賜りました…」


「あの、猫ちゃんね~」


「はい、そうです…。魔法学院にて、異変の兆候が確認されております」


「へぇー、そうなんだ…」


「魔法学院に戻り、私たちの手伝いをしてほしいとのことでした…」


「難しいな~。今、勇者イベントなのよね~~~~~~!!」


「承知しました。クロウ様にはご連絡いたします…」



 メアリーが忍者と話をしていた。

 その時、アレックスの声が聞こえてきた。



「おーい!! メアリー、いったい何かあったのか~?」


「大丈夫よ~。ちょっと、サブのイベントが発生したって感じなだけだから~」



 メアリーが叫んでいた。


 アレックスは、メアリーの声を聞くと、いつもながらよくわからないことを話しているな、と思いながら荷物をまとめた。



 その時、クサナギ一族の男の声がした。




「もう一つ、お伝えすることがございます…」


「まだあるの~」と、メアリーは大げさにため息をついた。


「兵士の中に王子に危害を加えようとする計画があるようです…」


「ああ、そっか、そんなイベントもあったわね!!」



 それを聞くと、メアリーは笑っていた。






  ◇  ◇  ◇






 クサナギ一族の男の言葉を聞くと、メアリーは急ぎ足でフランソワのもとへ向かった。

 その時、フランソワはいつものように白い犬と戯れていた。



「ねえ、フランソワ~」


「え、どうしたんですか?」



 フランソワが穏やかな笑顔を見せた。

 メアリーは真剣な話をする。



「あなた、王子様の近くにいなさい。そうじゃないと誘拐されちゃうみたいなのよ~…」


「え、誘拐ですか…」


「そうそう、あそこにいる兵士長がね。アンドリュースを誘拐するかもって…」


「そんな…」


「だから、あなたはここにいたほうがいいわよ~」


「そうですね。わかりました…」


「期待してるわ!! あと、あなたとはテニスで決着をつけないといけないんだからね!!」


「もちろん、受けて立ちます!」


「じゃあ、よろしくね~」



 そう告げると、メアリーはアレックスの元へ戻っていった。

 アレックスは、そんなメアリーの姿を見て不審そうな顔をしていた。



「いったい、何を話していたんだ?」


「ああ、兵士長が謀反を起こすってだけよ…。大したことではないわよ」


「謀反だと!?」


「もう、大きな声を出さないで、別に、問題なんてないのよ」


「謀反と聞いて、そんな気楽にはいられるか!何かあったらどうするんだ!」


「大丈夫だって、主人公がいるんだから…」


「言っていることがよくわからないが、何があっても知らないぞ…」


「へーき、へーき、問題ないって」


「まあ、お前に危害がなければいいんだけどさ…」


「え、何か言った?」


「別に、何も言ってない。ただ、お前に危険があったらオレが助けてやる。だって、オレは勇者だからな!」



 アレックスは照れながら言った。

 そんな彼を見て、メアリーはくすくすと笑っていた。



「へぇ~。頼もしいこと言うじゃん。じゃあ、頼もうかしらね~」



 アレックスの顔が赤くなる。


「おう、任せろ!」



 アレックスは得意げに胸を張っていた。


 


  ◇  ◇  ◇



 

 二人はドラゴンの丘を登り始めた。


 その時、小さなドラゴンが元の姿に変わった。巨大な翼を広げ、子供のように目を輝かせているドラゴンがそこにいた。

 戦う準備をするため、ドラゴンは山の奥の方へとふわふわと飛んでいった。


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