テニス敗北イベント
テニスイベントが始まろうとしていた。ただ、テニス場にはアリブの王、ジャック・ターナーの姿はなかった。どうやらターナー王は自分の国に帰ってしまったらしい。乙女ゲームのイベントでは、テニスの練習試合でフランソワがケガをしてしまい、負けそうになる彼女をターナーが助けることになるはずなのに…。
(もう、ターナーがいないんじゃ何もすることなどなじゃないの、いや、ダメダメ、ダメよ、そんなことを考えるのはやめないと…)
メアリーは顔を左右に振っていた。
テニスラケットを握りしめると、メアリーは自分に言い聞かせる。
「こうなったら、私が優勝するしかないのね…!!」
その姿を見て、ドラゴンの声がした。
「やる気のようだな…」
「当たり前じゃないの。だって、私は悪役令嬢なんですよ!!」
メアリーはフランソワを睨みつけた。
絶対に、悪役令嬢として、フランソワを倒さなくてはならないと、メアリーは誓った。
◇ ◇ ◇
メアリーは次々に相手を倒し、テニスのトーナメントに勝ち進んでいった。現在、メアリーは腕力自慢のモブであるボーちゃんとの試合が行われていた。
魔法学院のテニスは普通のテニスではない。魔法や従魔を使用することも可能である。そのため、こんなラリーが続くようなことはない。ただ、ボーちゃんとの試合には縛りがあり、魔法も従魔も使うことはできなかった。
ただ、試合はメアリーの楽勝だというべきだろうと思われていた。
それなのに、メアリーは手こずっていた。
「オレは負けないぞ~。オレの母さんのためにも勝つんだぞ~!!」
ボーちゃんの声がした。
その時、メアリーは一つのことを思い出していた。
モブにはモブの設定がある…。
ただ、テニスの試合は乙女ゲームのサブイベントであり、誰もモブキャラのことなど気にもしないだろう。
しかし、メアリーだけは違っていた。
前世でテニスのゲームばかりをやり続けてきたのである。
だから、メアリーはボーちゃんのことを知っていた。ボーちゃんは家族のため、テニスで優秀な成績を得る必要があった。幼い弟、妹のため、彼は頑張っているのだ。
「思ったよりやるんだぞ~」
ボーちゃんの声がした。
「ダメだわ、私、ボーちゃんには勝ちたくない…」
突然、メアリーは動きが鈍くなっているようだった。
ボーちゃんのラケットの音だけが聞こえていた。
どうしても、メアリーはモブキャラのボーちゃんに勝利することができなかった。
試合はメアリーの敗北で終わった。
気が付くと、メアリーはそのまま倒れてしまったらしい。
生徒たちの歓声が聞こえてきた。きっと、テニスのイベントは、フランソワの勝利で終わることになるだろう。そう思うと、メアリーはゆっくりと目を閉じた。
「ああ、やっぱり、私はフランソワとは戦えないのね…。まあ、良いわ…。次は絶対に勝つんだから…」
その時、メアリーは意識を失っていた。
◇ ◇ ◇
メアリーは目を覚ました。呆然としていた。
保健室のベッドの上にいた。
「どうしたんですか?」
メアリーの横にはフランソワが座っていた。
彼女はメアリーを見つめていた。
「ねえ、フランソワ、どうしてあなたがここにいるの?」
「メアリーさんの治療のためです…」
「ああ、そうか、あなたは聖女だものね~。ありがとう、すっかり元気になったわ~」
「あの、メアリーさん、あなたはこの世界の人ではないんですか?」
突然、フランソワがそう訊ねた。
それを聞いて、真剣な顔をしてメアリーはフランソワを見つめていた。
「どうしてそう思ったの?」
「あなたの魂に触れました。とても純粋なものです。きっと、あなたは特別な人だと思ったんです…」
「なるほどね、間違ってはないと思う。ただ、私は悪役令嬢だけどね!!」
「私のライバルということですよね?」
「そうよ!!」
「嬉しいです…。私のことをちゃんと見てくれてるみたいで…」
そう言うと、フランソワは笑みを浮かべていた。ライバルと言われて、フランソワは喜んでいるようですらあった。
「あなた、喜んでいるの?」
「すごく喜んでいます!!」
「まるで、私と戦いたいみたい…」
「そうかもしれないです…」
聖女であるフランソワは好戦的な顔をしていた。
その時、ドアの方に視線を向けた。
「エルム、あなた、そんなところで何をしているの?」
「べ、別に、何もしてないですよ…」
その声が震えていた。
さっきの会話を聞いたせいだろうか、とメアリーが不審がっていると、校庭の方から大きな声が聞こえてきた。メアリーは窓を開けた。外では楽しそうに生徒たちがテニスの練習をしていた。
すると、エルムは時計を見て、次の授業が始まりますよ、と告げた。
メアリーはベッドからひょいと飛び降りる。
「ねえ、フランソワ、もう一度、テニスの試合を行いましょう!!」
そう言うと、メアリーは廊下を走り出した。
「廊下を走ってはダメですよ~」
エルムの声が聞こえてきた。
廊下を走りながら、テニスのサブストーリーについて考えていた。
「今度こそ、絶対に負けないんだから!!」
そう言うと、メアリーは笑っていた。
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