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魔人 ベルゼブブ

 メアリーはグレース草原を見つめていた。この場所には見覚えがあった。主人公フランソワが聖女の力を得ると、この場所でチュートリアル的な敵と戦うことになっていた気がする。ただ、物語とは関わりのない敵だったため、詳しいことまでは思い出せなかった。


 そんなことを考えていると、ドラゴンがグレース草原に降り立った。

 そこにはスリープシープの群れがいた。


 スリープシープは大きな動物で、成長すると5メートルほどになるものもいる。鳴き声を聞くとその場で寝てしまい、踏み潰されることがあると聞いたことがある。だからこそ、捕まえる際には慎重に対応しなければならない。ゲームの中では鳴き声を聞くと5秒間動作ができなくなるため、本当に面倒だった。



「みんなでスリープシープを取り囲むわよ!」



 メアリーの大きな声が響いた。


 ゲームじゃないんだから、そんなことにはならないだろうと思っていたが、彼女はテンションが高く、スリープシープを捕まえることしか考えていなかった。

 ドラゴンに合図を出し、スリープシープを挟み撃ちにするつもりらしい。

 段々、3人はスリープシープに近づいていった。


 しかし、何かがおかしい。

 ザックはふと思った。

 スリープシープは体は大きいが臆病な動物のはず。それなのに、どうして逃げようとしないのだろうか。


 疑惑が頭をよぎった。

 彼らが逃げられないような出来事が起きているのだろうか。

 そう思うと、ザックは嫌な予感がした。




「ダメだ、メアリー。何かがおかしい。すぐにこの場所から離れるんだ!」




 その時、ドラゴンが動かなくなった。

 気が付くと、ドラゴンの前に人のような形をした影ができていた。

 攻撃を受けたらしく、ドラゴンは遠くまで吹き飛ばされた。


 ザックは震えていた。

 目の前には魔人と呼ばれる存在が立っていたからだ。




「ヤバい、魔人だ。そいつは魔人だよ。早くこの場所から逃げるんだ!」



 

 段々と空気が冷たくなり、ザックは汗が止まらなくなった。

 魔人は狂気に満ちた笑みを浮かべていた。



「ほう、私のことを知っているようですね」



 魔人が歩み寄ってきた。二つの角を生やし、黒い鎧のような皮膚を纏っている。

 ザックは動けず、横にいる妹のヒナタはガタガタと震えていた。



「おいおい、人間のガキどもじゃないか。ここに来たら魔王様からよく眠れると聞いたんだがな。まったく、もう3年も眠ることができないのにさ。ああ、オレは気分が悪いんだ。うさ晴らしをさせてもらうぞ」



 その時、ザックとヒナタの前にメアリーが立ち塞がっていた。

 魔人を睨みつけ、自信満々な姿で立っていた。



「あら、それはごめんなさいね。ただ、私にもやらなくちゃならないことがあるの」


「そこの女、いま、どんな状態なのかわかっていないようだな…」



 魔人は呆れた様子で言った。

 魔人は5メートル級のスリープシープを持ち上げた。それを見てメアリーは笑った。




「そんなことなら私にもできるわよ」



 同じように、メアリーもスリープシープを持ち上げていた。

 彼女は自信満々な顔をしていた。



「なるほど、オレと戦うつもりということか…」


「そんなつもりはないけど、私たちはスリープシープを捕まえようとしているだけだし。あなたには興味がないの。私たちに構わないでくれないかな」


「舐めやがって…」


「そんなことないわよ。あなた、自意識過剰なんじゃないの?」



 メアリーの返事に、魔人は突然殴りかかってきた。

 吹き飛ばされたが、メアリーは倒れることなく笑っていた。

 唇から血が出ていた。



「へえ、私を殴ったわね。絶対、あなた、許さないから…」



 メアリーの右手がメキメキと音を立てて大きくなった。



「な…、なんだ…。その腕は……」


「もう謝っても、許さないんだから!」


 メアリーが勢いよく振りかぶり、次の瞬間、目の前の魔人を殴りつけた。

 魔人は空高く吹き飛んでいった。



「ぐはっ、ふざけるな! お前のことは覚えたからな。今度会ったら絶対に殺してやる~!!!!」


「へぇ~、思ったよりも元気じゃん。わかった。待ってるね。ただ、わたしさ、春からサンタマリア魔法学院に行くことになっているの。用事があったら学校に来てくれると助かるわ~」


「わかった。魔人と魔術師との戦いということだな。オレの名前はベルゼブブ。宣戦布告、確かに受け取ったからな。待ってろよ~」


「はーい、バイバイ~」



 メアリーは手を振った。

 魔人は星になったかのように、空の向こうに消えていった。




 その時、スリープシープの大きな鳴き声が響いた。その声を聞いて、メアリーは気が付いた。昨日から眠っていなかったことに。


 ああ、眠くて仕方がない。


 


 気が付くと、メアリーはその場で眠りに落ちていた。

 パタリと倒れると、スリープシープの群れは一斉に逃げていった。



 メアリーが眠っている。

 ただ、ザックとヒナタはただその姿を見つめることしかできなかった。

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