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Ⅰ-9

 黒い雲が空を覆う。

「ミシュカはまだかよ……それに……クヴィスさんは……」

 赤き狼煙の男……バンは一人、噴水のある広場で時を待っていた。


 彼以外にも何名か、明らかに様子がおかしい人間が何人か見受けられる。

 顔見知りも何人かいる……しかし、お互い話しかけるわけにはいかない。


 やがて歓声が王城の方から動き、パレードが近付く気配が辺りに広がった。

 ミシュカと共に急いで戻ったイル。もどったのはちょうどパレードが到着する直前。セレンとオルトの姿は見えない。


 イルは破顔の仮面をつけた。緊張が高まる。


 通りにはずらりと騎士たちが並ぶ。厳しい目つきをして辺りを睨んでいた。

 横ではミシュカが怒りを押し殺すようにして、前を見ていた。馬の足音、車輪が転がる音。人だかりからその姿が見えた。

 歓声が上がった。

 白馬が四頭、人の乗る巨大な馬車をひいている。ステージコーチタイプの巨大な馬車だ。男が五人と少女が一人。

 馬車の上に立つ四人にまず目がいく。男が三人と少女。

「あいつらが、この国の中枢か」

 中央で手を振っているのが王デューク・エスタトゥア。

 手を振って笑顔を作っているが、目が笑っていない。ブロンドのヒゲ、たくましい体付き、王冠。

 向かって右にいるのがバルド・ブラッドであろう。

 傷のある顔、隻眼、オールバックの髪型……細身の剣を差している。

 騎士団を指揮しているというが、青色の外套に、軽装の鎧。あそこまで装備を軽くしているということは、よほどの自信があるに違いない。

 また王の背後にひかえるようにしているのが、おそらく近衛騎士の一人……ウィルディアだ。

 白髪に鋭い表情。やや長めのロングソードを鞘におさめ、杖のようにもっている。

 整った顔……まるで作り物のような美しさである。

 バルドとウィルディアは王を守るようにたたずみ、辺りを睥睨していた。

 また、少し離れて少女が一人。青色の髪、肩まで揃えられた直毛。頭には帽子のような冠。

 小柄だが、高貴な雰囲気があり、目つきは鋭い。全身を青色のコーディネートでまとめており、なにかひとつの芸術品のように思えた。

「王女か……?」

 王の娘と見るのが正しいだろう。

 市井の人間ではあの空気を作ることは難しい。

 目が会えば手を振り愛想を振り撒くが、本当のところでは遠くの方を見つめている……そんな印象を受けた。

 一方、馬車の座席には眼鏡を着け、白い衣をまとった男が、外をのぞいていた。

 彼の反対側の座席には太った禿頭の男性。スーツのような服を着て落ち着いている。

 馬車を引く白馬の一つには、仮面の偉丈夫が鎧をまとって鎮座している。

 特徴的なのは背中の巨大な剣で、それだけで誰も近寄ることができない威圧感を放っていた。仮面のガラテインと呼ばれていた人物であろう。


 警護はかなり厳しく、王への動線には一分の隙もない。イルは辺りに立ち込める独特な空気感を感じ取った。


 そしてついに、怒りに震えたミシュカがパレードの一団の前に躍り出た。


「王様」

 先を制したのは、バルド・ブラッドであった。冷たく響く声が、辺りに響く。

「何をしている小娘。どけ。どかなければ斬る」

 隻眼の男はひとつの目で睨みをきかせた。

 しかし、ミシュカは恐れず王の瞳を見つめ、叫ぶ。

「王様……あなたさえいなければ……」

 刹那、バルドは跳躍し、剣を振るった。

 

 ザン……ただ虚しく響く斬撃音。

 無情に振るわれた剣。

 逆袈裟に斬られたミシュカは弱々しく、背後に倒れながら鮮血を放つ。


 少女は突然のことに悲鳴をあげることなく、口から血をもらす。

 奇妙なまでの静けさだった。数秒ほど、人々は何が起こったか気付かなかった。

 静寂をやぶったのは、少女が倒れた音。


「ミシュカ!」


 バンが叫ぶ声。しかし、それは群衆の悲鳴にかき消された。

 全てがスローモーションのように動き、イルの目には人々の動きがサイレント映画のようにカクカクと映った。

「……!!」


 全ての時間がゆっくりと動き、イルの耳には内なる魔王の声が響く。


『私はあなたのうちにあるもの。聞こえる?』

「レラシエ……」

『私はあなたの怒りを感じた。使って。エルドの本来の力』


 イルは馬車へと歩みを進める。


 パニックになった白馬たちは歩みを止め、怯えて動かない。

 イルの体から魔力が溢れていく。

「エル……」

 魔力はうずとなり、全身を駆け巡った。

 自分のうちにあるのは怒りなのだろうか。体が暑くなり、震える。

 血液の巡りと連動するように、心臓の音と重なりながら、魔力が体を覆っていく。

 そして、レラシエは魔力を解き放つ言葉を、イルに伝えた。

『エルディアス』

「エルディアス」

 レラシエの言葉とほぼ同時に、イルは声を響かせる。

 渦巻く魔力が放たれ、辺りを覆う。

 

 馬車に乗った何人かをのぞいて、その場にいた人間たちは目の光を失った。


 同時にそこは修羅場と化した。

 どこからか火炎瓶が飛び、それをウィルディアが切り裂いた。

「何が起こった!」

 近衛騎士が叫ぶ。

「魔法か!? そんな馬鹿な!」

 王が言いながら、後ずさる。

 落ちた火炎瓶の火がまわりに広がった。体に火をつけながら、市民が馬車にまとわりつく。

 騎士団が同士討ちをはじめ、市民も暴動を始める。

「ガァァァァァア」

 叫びながら馬車を襲う、炎にまみれた市民たち。

 鎧の騎士たちと仮面のガラテインが切り結ぶ。また、市民や騎士は馬車へと跳躍し、登ろうと動く。

 それをバルド・ブラッドが切り付けていく。

 火がつくステージコーチの馬車。

 暴動の群れの中を……イルは破顔の面をつけて歩く。

 地面に刺さった騎士団の剣をとり、前方を睨む。

「王……お前は!」

 言いながら跳躍した、白馬の背を蹴って、さらに馬車の上を目指す。


「クソ!」


 近衛騎士ウィルディアが地を蹴り、飛んだ。そのままロングソードを振るう。

 イルは近衛騎士の剣を、拾った剣で受けた。

 キン…………!

 重なる金属音が一層大きな音を響かせた。やや馬車から離れたところで、イルは着地する。

 ウィルディアは攻撃の手を緩めることなく、剣を振るった。

「魔法の力を受けていない……この混乱を生み出したのはお前か!」


 激しい剣撃をうけながら、イルは近衛騎士の言葉に応える。

 イルには剣の覚えがないが、不思議と相手の剣を受けることが出来た。

「混乱を生み出したのはお前らだ。少女を斬る、それがお前の正義か」

「平和の側に正義がある。平和を乱すものは常に悪だ。私たちがこの国を守る。この国は私の全てだからだ」

 金属がこすれ、打ち合い、削れる音が響く。


 近衛騎士は目も留まらぬ速さで次の攻撃を繰り出すため、イルが攻撃を行うことは出来ない。

「お前が守っているのは偽りの平和だ。そんなものを守って何になる」

「戯言を言うな。何者でもないものが、政治を語るな!」

 ウィルディアは叫びと共に、強く剣を振るった。

 ガギンッ! 音と共にイルの剣は高く舞い、折れて背後に落下した。

 

 ウィルディアがロングソードを振りかぶる。


「これが正義だ」


 手が痺れて身体を守ることが出来ない。

 ロングソードは袈裟に、イルの体を切り裂いた。

 熱い。

 熱したような感覚が全身を駆け巡る。

 総毛立つ。

 激しく血をまき散らす体に、先ほどのミシュカの姿が重なる。

 イルは倒れながら、ゆっくりと空を仰いだ。

 曇天が一層暗い色を浮かべ、今にも泣き出しそうな色をしている。

 薄れゆく意識……人々の暴動の声と怒声、騎士団の剣の音、足音、足音、足音。ドクン、という鼓動。やがて、全ての音が遠ざかり、イルの目の前には暗闇が訪れた。

「勝者が正義だ。そして勝者だけが平和を司る」

 ウィルディアの言葉が、聞こえた気がした。

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