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「レア職:ボス」の楽しみ方(単発)

シドウ・ハジメ

サオトメ・サクラ


 ◆ 「レア職」 ◆


「見習いボス…?」


そう呟いた俺は手を動かし詳細分を読む。


「『見習いボス…ボスになれる可能性を秘めている。通常より多くのステータスポイントを得られるが、一定の制限が課せられる』。意味がわからん」


説明にすらなっていない。公式サイトに書いてあったジョブ欄に載ってないのはどういうことだ? 俺は普通にランダムって選択しただけだぞ?


「はあ、仕方ない」


あんまり使いたくないが攻略サイト見るか。これじゃあ何もできんしな。


「ええと…『アクロス・フロンティア ジョブ ボス』っと。…お、普通に出てきたな」


あー、隠しジョブなのか。てかそんなのがあるのかこのゲーム。不親切すぎんだろ。


「で、本題は、っと…」


要約すれば、このゲームの敵は2種類あって、一つはNPC。いわゆる普通の敵だ。んでもう一つってのが俺らプレイヤーだ。あとは…あー、なるほど。こういうPvP系のジョブはランダム選択でしか選べれないのか。


「だから公式サイトで公表しないのか。まさにレアジョブだな」


それが当たりかどうかはさておき。


「で。もう一個知りたいのが、デメリットだ」


一定の制限、一定の制限…あった。


「ああ? これは、どうだんだ…?」


そこに記載してある内容に俺は少し頭を悩ませた。


 ◆ 「VRMMORPGアクロス・フロンティア」 ◆


VRの技術が発展し、ついに意識を電脳空間に移動するところまでに至った。

生身の体を失っても電脳空間さえあれば永遠に生き続けられるこの技術はまさに人類の一つの到達点とも言われ、人々の電脳化は人口爆発による飢餓や環境破壊への懸念を年々減少させていくほどだった。


だがすべての人々が電脳空間に移住したわけではない。電脳空間とはいえそれを維持する「ハード」は存在する。各国が所有する大型コンピュータは生身の人間でしか管理できない。なぜならいまだロボット工学が発展途上だからだ。


ロボットによる管理。それが可能ならばすべての人類は電脳空間に移住できるだろう。だがそこまでの技術開発が至っていないため、ロボットに管理を任すことができなかった。


そんな時代。俺は生身の人間と、電脳空間を行き来して生活している。なぜなら俺の親父はそのコンピュータの管理会社に勤めているからだ。だから俺も将来その仕事を受け継ぐかもしれないため、完全電脳化は保留ということになっている。


学生として青春を謳歌する時期を、今俺は生きているのだが正直ピンと来ていない。俺自身に感受性が無いのか、ただ興味が無いのか。とにかく、ネットの創作物でよくある甘酸っぱい青春とか、ラブロマンスとかに同情することができなかった。ゆえに同世代の奴らとは馴染めず、学校では専ら独りだ。


そんな俺が今なにに熱中しているのか。オンラインゲームだ。現実世界と違い、ゲームをプレイしているほとんどが割り切って遊んでいる。だから俺も現実世界の俺とは違う、ゲームの中の俺として割り切って楽しむことができるとうことだ。


そして今日、待望のオンラインゲームのサービス開始日。電脳空間に移動した俺はそのゲームの入り口に立っていた。


「いらっしゃいませ。ようこそ『アクロス・フロンティア』へ。ゲームに参加希望ですか?」


入り口前に立っている受付が俺に向かって話しかける。俺はそうだと答え、受付の指示通りに入り口を通り抜けた。


その後は他のゲームと同じような展開だ。自分のアバターを作り、ステータスやジョブを選択、そして最初の拠点を選んでスタート。こんな感じだ。


自分の姿を鏡で見ながら最終確認をする。


体の体型はそのままにした。動きのあるゲームは現実と同じ身長の方が混乱せず動けるからだ。

その代わり髪色と目の色は変えた。そのままだと知り合いにバレそうだからだ。バレたからべつにどうってことはないが、後々のことを考えて白を基調に毛先を桃色にグラデーションした髪、翡翠色の目に変更した。

種族は獣人にした。これは俺の趣味だ。普段ない部分があるというのは存外楽しいからだ。狐の尖った耳を頭の上に、膨らんだ尾を尾てい骨辺りから生やし、自分で触って感触を確かめる。うん、いい触り心地だ。


最終確認を終えた俺は次にジョブを選ぶ。事前に公式サイトでチェックしていたがどれもやってみたいものばかりだ。そのせいで今も悩むことになった。目移りする項目の中に見慣れないものがあった。


「ランダム? ジョブを勝手に選んでくれるのか?」


十中八九そうだろう。俺みたいなやつ溜めに一応選択肢として用意してくれたのか。ならばその胸を貸してもらおうか。俺は迷わずこの項目を選んだ。全身に何か光のようなものに包まれたが外的変化はない。まあジョブだからそうそう見た目が変わることもないだろう。


最後に自分の拠点を選ぶ。拠点と言っても序盤の"死に戻り"場所であって、攻略が進んでいけば別の拠点に移すことも可能だ。だから俺は適当に…いや、ここはあえてこだわってみるか。


「ジョブは拠点についてからじゃないと確認できない。できれば刀が振れるジョブだったらいいんだが…」


刀が売ってそうな拠点を探す。全体マップを俯瞰視点で見渡し、拡大縮小を使って街の様子を見る。場所によって特徴的な外見を吟味し、大陸の端にある小島の街を拠点に選んだ。


体が光り出す。いよいよゲーム開始だ。俺は真っ白になる眼前に眼を細め、これから始まる期待感に高揚していた。



 ◆ 「見習いボスの力」 ◆


「…とりあえずモンスター狩るか」


攻略サイトを閉じ、街の掲示板に張られている討伐クエストを受注、近場の森へと赴いた。

奥へと続くけもの道をしばらくすると茂みから頭に角を生やした兎のようなモンスターが飛び出してきた。こちら見ると威嚇して戦闘態勢に入った。


「さて、サイトに書いてあったことが本当なら」


おもむろにこぶしを握る。

そう、俺は今丸腰でモンスターを狩ろうとしている。その理由はいたって簡単だ。


「普通なら多少の苦戦はするだろうが、このステータスなら」


モンスターはこちらに突進してくる。頭の角が直撃すればそれなりにダメージが入るだろうが、


「ふん!」


俺はそのままモンスターの攻撃を腹で受け止めた。モンスターは刺さりきらない角に反発するように来た方向へ飛んでいく。俺はそれを見過ごさず。握った拳でモンスターの頭を殴った。


きゅい!と兎のような鳴き声を上げで光の粒子に変わっていった。


「一撃。まあ、そうだろうな」


改めて自分のステータスを確認する。ステータスの値は至極簡単で、種族の基礎値にジョブ補正、さらにレベルアップによるステータスポイントの自由な割り振りで構成されている。


先に言っておくが初期状態、ましてやレベル1は普通どのステータスも1桁、もしくは10いくつくらいだ。それは攻略サイトで確認したから間違いない。だからこそこの数値に疑問を抱いて冒頭の話につながるわけだ。


生命力100

精神力100

筋力50

技量50

俊敏性50

魔力50

神聖50


何だよこの適当に決めたような待っ平らな数値は。心の中で俺は散々悪態ついた。

だがこれも全てジョブの影響だそうだ。攻略サイトに書いてあった。レアジョブ、その一つである"見習いボス"はボスになる前の状態をさすそうだ。つまりジョブというより肩書きに近いのか。

あとステータスを見て種族の影響を受けてなさそうだが、これはジョブのランクアップ、つまり"ボス"になることでようやく変化が見れるそうだ。


なんて思いながら道中のモンスターを狩りながら進んでいく。なんとなしに進んでいるように見えるが実はある目的で進んでいる。

というのもまた攻略サイトの話になるが、このジョブは特殊中の特殊で、"ボス"に昇格するまでは装備が一切反映されないのだ。ボスとして資格があるか、たぶんそんな設定なんだろう。獅子は我が子を谷に突き落とし鍛え上げると言うが、俺は好きでこのジョブを選んだわけでもないし、好きでいきなりハードモードを選んだつもりもない。

だが、


「嫌いでもない」


少々強そうなイノシシに似た大きめのモンスターを狩ると目の前に洞窟が現れる。この先に潜むボスを倒せば晴れてランクアップだ。ほかのジョブと違ってこのジョブはいわゆる試練。このランクアップでようやく他のジョブと同じ壇上に立てるというわけだ。


じゃあ勝てなかったらどうなるのか、そう言う疑問はあるだろうが答えは単純だ。

勝てるまで続ける。それだけ。


「それが"ボス"としての威厳…か」


ボスとはRPGに置いてプレイヤーのひとつの壁だ。起伏のない冒険は刺激が無い、強敵として君臨するボスがあるからこそ、その心は躍る。あっさり負けるようなボスはそこら辺の雑魚と変わらない。強さを求める強者こそ、ボスとして風格が出てくる。


「もしボスに似つかわしくないプレイヤーがこのジョブを選ぶ…選ばれたらどうなるんだろうな」


そこは運営のみぞ知ると言ったところか。俺が考察しても不毛だろう。ただ俺はこのジョブに不満はない。だからここに来た。


洞窟の内部構造は至極簡単だった。真っすぐに掘られている横穴をずんずん進む。途中コウモリに似たモンスターが襲ってきたが軽くあしらう。"ボス"になる俺がお前らのような雑魚に苦戦するわけにはいかない。


『…来タカ』


多少ノイズのある声が最奥部から聞こえた。最奥部は広いドーム状に広がっていて壁には均等に掲げてある松明が妖しく揺らめいている。最奥部に入ると俺は声を上げる。


「俺の名はシドウ。お前を打ち倒す者だ」

『イイ面構エダ。俺ハ、ハギ。オ前ヲ挫カセル者ダ』


ドスン、と地面を揺らしながらこっちに近づく音が聞こえる。揺らめく松明の滓かな光に照らされたその体は現実世界では見ることのない巨体で、丸太ほどの太さを持つ巨腕は血管が浮き出るほど隆々と盛り上がっていた。

そいつは一言で言えば"鬼"。俺の身長の倍以上の巨体は見るものすべてを委縮しそうなほどの威圧感を漂わせる。赤い皮膚に白い角。口からはみ出る牙に右手に持つ巨大なトゲ付き金棒。


勝てるのか…?

そんな臆病が一瞬頭によぎったが雑念を振り払う。

弱気になるな。俺はこいつに勝って"ボス"になる。ただそれだけに集中しろ。

そう言い聞かせ、拳を握りしめる。信じるのは己のステータスと技術だけ。あとは運を味方につけるだけだ。


そしてお互いは何の予兆もなく激突する。その光景は激戦を言わしめるほどだった。


 ◆ 「"ボス"へ昇格」 ◆


「いやー負けた負けた。あんさんめっさ強いんな。いや、ステータスやなくてプレイスキルな」


そう言いながら腰を下ろしてどこからともなく持ってきた酒をがぶ飲みし始めるハギ。


「まあな。だからこのジョブでやっていこうと思っていたからな」

「せやろな。こんなマゾジョブ続けるんよっぽどプレイに自信あるヤツぐらいやからな。ほれっ」


ハギが飲みかけの酒を俺の方投げてきた。


「うちに勝っても死にかけとんやろ? それ回復役みたいなやつやから飲んどき」

「ああ、すまない」


俺は素直に感謝し、酒をあおる。酒と書いてあるが、こと電脳空間で酔うことはない。その気分を味わうことができるだけのただの幻だ。


「これで俺は晴れて"ボス"に昇格か?」

「せやな。おめでとさん」


目の前にいるハギを改めて見る。最初に相対したあの巨体はすでになく、今は少し背が高いマッスルな鬼だ。


「"ボス"モードになるとあんなふうになるのか?」


俺は飲み干した酒をハギに返し、聞いてみた。


「巨大化? せやで。性格に言うと"ボス"補正やな。普通の攻略はこんなんやけど、さっきみたいな"ボス"として召喚されたら見た目とか色々変化するんや」

「俺もあんなふうに巨大化するのか…」


俺の見た目は狐の獣人だ。あんな筋肉隆々な見た目になるのはちょっと気になるな。


「そんなことあらへんで。ほら、あんさんのジョブ項目に『設定』って増えとるやろ?」


言われた俺は空にメニュー画面を開き確認する。あった。


「そこにボス召喚時の登場方法とか、どんな見た目にすんのか、あと声もわざと獣みたいな鳴き声に変換させることもできるで」

「結構こだわれるんだな」


「せやな。掲示板でも専用のスレッドあるくらいし、結構人気ジョブやな。ただまあ成れるんに運が絡むんが玉に瑕やがな」

「俺もそこ覗いてみるか」


「最初はいかんでええと思うで。他のジョブは結構しんどいけど"ボス"ジョブなら適当にやっててもこの島出るくらいなら楽勝やし」

「ちなみにハギはどのくらい強いんだ?」


「うち? せやな、とりま100は越えとるかな。さすがにレベル10まで下げられるとHPバーの短さにビビるな~」

「100か。それでカンストか?」

「んや。このゲームにレベルカンストは無いで。大体200くらいで伸び悪くなるし、そっからはプレイスキルやな」


そう。俺が戦っていたハギは本気ではない。と言うよりそうならざるを得ないからだ。

理由は簡単。そのエリアに召喚されたプレイヤーはそのエリアの適正レベルまで制限がかけられるからだ。


だからこそ勝てた。ハギも言ってるがプレイスキルさえあればレベル差はどうとでも無いようだ。まあPvPだけに関してだろうが。


ハギがおもむろに立ち上がる。俺も習って立ち上がる。そろそろお開きだ。


「いやぁ、久々に楽しい対人戦させてもらったわ。これだからこのジョブは止められへんな」

「こっちもプレイ早々ギリギリの戦いをさせてもらって感謝する」


「そんくらいなら大丈夫そうやな。せや、せっかくやしフレンド登録せん?」

「ああ。だが俺はあまり他人とどうこうするタイプじゃないからPT誘われても断るが、それでもいいか?」


「ええで、あんさんが聞きたいときにメールでも飛ばしといてくれればそんでええで」

「なら」


お互いのフレンド登録が終わるとハギは手元からアイテムを出す。


「ほな。またな」

「ああ。機会があれば」


ハギはひらひらと手を振ると光に包まれ消えていった。残ったのは俺と静寂に包まれた洞窟と、松明のはじける火の粉だった。


「さて。これでようやく、か」


"ボス"に昇格した俺はさっそく街に戻っていった。


 ◆ 「ボスの身なり」 ◆


帰る途中でステータス画面で自分のステータスを眺めていた。このゲームのレベルは経験値で溜まったステータスポイントを割り振ることで増加する。そしてその消費量はレベルが上がるにつれ必要数が増えていくだ。

そして俺はまだレベル1だ。雑魚でいくら固まったと思っていたが逆で、ハギを撃破してようやくそれなりに溜まった感じだ。これもジョブの影響だろう。ゆえに来た道を歩きながら考えていた。


「…その前にこっちを決めた方が良いか」


"ボス"になったことで色々増えた。まず、ジョブを複数選ぶことが可能になったこと。これは他のゲームでもあるHP減少による形態変化、と言うべきだろうか。つまり対人戦する相手を楽させないためのシステムなんだろう。立ち回りが判明すればその繰り返しでHPを最後まで削られてしまう。ゆえに違うジョブを持つことで相手に苦戦を強いることができるということだ。


だが、かといってまるっきり違うタイプのジョブを選ぶのは得策ではないと俺は睨んだ。近接脳筋タイプの剣士が次の形態で魔法主体の遠距離タイプに切り替えてもそれを扱いきれるプレイスキルが要求されるからだ。

それに、一番の弊害はステータスだ。いくらジョブで補正されたとしてもそれは微々たるものだ。ステータス画面でそれぞれのジョブの変異を見比べながら思ったことだ。基礎値50の筋力と魔力。それぞれ剣士と魔法使いに当ててみたが±2、3程度だ。つまりステータスが増えてもそこまで大きな変動がないということになる。


そこまで考えたうえで改めで選択するジョブを吟味する。最初のキャラ作成の時に散々迷っていたが、3個も選択できるというのならばその迷いは払しょくすることができる。


「まずは刀を振りたいから剣士。次に槍も使えるようなりたいから騎士、最後に拳闘士」


とんとん拍子に選んでいく。正直この3つのどれかを選ぶか迷っていた。ゆえにこの仕様はありがたい。ジョブを選ぶとステータス画面のジョブ"ボス"に内訳でその三つが表示していた。

ジョブレベルは存在しない。あるのはそのジョブから派生するジョブと、それを解放するための必要ステータスだ。今はまだ初期として取得できるが、ここから派生していくとなると無駄なステータス振りはかえって器用貧乏になりかねない。今あるステータスポイントを慎重に振り分け、どうにか剣士の派生、侍士になることができた。これで刀を装備することができる。他の二つは追々やっていくか。


画面を消すと、いつの間にか街の入り口まで戻ってきた。道中でモンスターに遭遇しなかったのはなぜか疑問が残るがまあいい。


俺はそのまま掲示板の近くにあるギルドへ向かった。

ここは俗に言うクエスト受注場所だ。表の掲示板でも受注できるがあくまで低難度のものばかり。より難しいクエストを受けるのならば中に入って手続きをしなければならない。


「まあ今回は違う目的だが」


真っすぐ進み、受付のいるカウンターの前に着いた。


「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件で?」

「表のクエストを消化してきた。それの報酬とドロップした素材の売却だ」


俺は狩ってきたモンスターの素材をカウンターの上に出す。何かに使えるかと思ったが、ハギの話を加味してこの島を出るまでは問題ないだろうと判断した。


「かしこまりました。…清算完了です。こちらが報酬金と、素材の売却金です」


受付が受領したクエストの紙と素材をカウンターの下に仕舞い、その手で今度は硬貨の入った袋を取り出した。一瞬現実世界ではありえない動きをしていたが、電脳世界では専らこれが当たり前の風景だ。データのやり取りでいちいちやりくりしている動作は要らないからだ。


その袋を受け取り俺はギルドを後にする。

次に向かうのは武器屋だ。手に持つカネをもてあそぶつもりはない。振れる獲物はさっさと確保だ。


「いらっしゃい」


店の前で客寄せしていた店員と目が合い声を掛けられた。


「刀は売っているか?」

「ええ。ありますよ」


そう言って中に案内される。店内はいかにも武器屋といった感じか。そこかしこに武器が展示してある。

店員は奥にいた店長に俺のことを伝えるとこっちに来た。


「いらっしゃい。刀ですね。こちらへどうぞ」


そして案内された先は数点の刀が飾ってあるコーナーだった。俺はそれを見渡し、触ってもいいかと聞いた。


「ええどうぞ。ただ展示品なので刃は落としてあります。実際に振りたいのであれば奥に広場があるのでそこでお貸ししますがどうします?」

「いや、そこまでする必要はない。持ちやすいかどうかで選ぶ」


一通り刀を触り、数回振って吟味した結果、1本を選ぶ。店長は「まいどあり」と言い「装備していくかい?」と言ってきた。ネタなのかわからないがとりあえず「ああ」と答えておいた。装備するかしないかは俺が決めるんだがな。


 ◆ 「趣味の弊害」 ◆


次に防具屋に向かう。"ボス"ゆえに別に着る必要はないとさっきは言ったが、さっきギルドに向かう途中で気になる商品があったからだ。それを見に行きたい。


「いらっしゃいませー」


軽い声で来店を迎える女性店員。だが俺を見た瞬間いぶかしげになった。


「あのー、ここ、女性専門の服屋なんですけど」


そう聞かれた。当然だろう、俺は男だ。だがほいそうですねと出ていくつもりはない。


「ああ。今――」

「あ、もしかして誰かのお使い?」


一応返答の用意はしてあったが店員自ら先読みしてくれたか。


「そうだ。連れが他の店で買ってる間、俺がここを任された」

「そっか。じゃあどれ買う?」


よし、順調だな。

店員に聞かれた俺は無難に革装備を探した。と言ってもここはプレイヤーの初期拠点。そうそう珍しい防具もなければ、あってもカネが足りないだろう。


「革装備ね。そのお連れさんはどんなのが好き?」

「あんまり地味なのはイヤとは言っていたな」


ふむふむと言いながら店員は商品を査定する。しばらくして何着か持ってきた。


「多少防御力が落ちるけどこれとかどう?」

「ああ、それはいいな。連れも気に入りそうだ」


一発で決まるとは思わなかった。

「それはよかった」と、店員は自分の見る目があるのを少し誇らしげに胸を張った。


とりあえず一着だけ買って店を出る。「まいどありー」と背中から聞こえる声を後に早足で狭い路地に移動する。


「ここならいいか」


ふっ、と息を吐き髪を縛っていた髪留めを外す。ブァサ、と聞こえてきそうな髪の流れ。首を左右に降り流れる髪を軽く整える。


「アバターはこんなとき便利だよな」


そしてついさっき買ってきた装備を身に付けた。

買った装備は袴をベースに一部を革でカバーしたデザインだ。


「現実世界でもできればいいんだがなぁ…」


不意にそんな愚痴を溢す。

現実世界の俺は至って普通の風貌だ。髪は単発だし女装なんてしていない。いや、一回したことあったか。親に見つかったときは心底ため息を吐かれ、罪悪感で以降は手を出していない。

だからこそ、電脳空間はその罪悪感を払拭できる。アバターだと割りきりいつもと違う俺で過ごすことができる。


装備し終えた俺は近くの川辺に行き、水面を利用して自分の姿を見た。


「よし、似合ってるな」


そんな感想が漏れるのにはワケがある。容姿だ。俺は言葉使いは男だが、いかんせん童顔低身長の中性的な体つきをしているせいで女に見えなくもないのだ。

その、ふとした好奇心で小さい頃に母親の服を着て自分の姿を見てしまったのが運のつきだ。その姿は多少不格好だが似合っていた。ナルシストと呼ばれかねない台詞だが、俺ではない別の俺を見ているような、そんな錯覚を覚えた。


そのあとバレて、現実世界ではしなくなった。代わりに時間の合間、ひっそりと電脳空間で女装するようになって、今ではかなり女の姿になりきれるようになった。


まあそんな過去話はどうでもいい。










島を出るためのボスに挑むシドウ。その場所で先客がいた。

単騎で挑んでいるようだが、よく見たら全然勝てそうにない動きだった。

俺は偵察と言う意味合いで、その戦闘を観察しようと思っていた矢先。

「きゃあ!」

戦っていた女性プレイヤーが悲鳴を上げこっちに吹っ飛んできた。

「痛てて…あ」

彼女の目線が俺に止まった。

「えーと、もしかして順番待ちですか?」

「まあ、そうだな」


「ん? え? 声が…」

「なんだ?」


「あ、いえ、何もありません」

「まだ戦闘中だろ。余所見してる暇があるのか?」


言われた彼女は「あ、そうだ!」と慌てて振り返る。その先にはこちらにゆっくりと近づくボス。

「ひぅ!」

彼女はその威圧に小さな悲鳴を上げる。



「ボスの体力が上がった?」

「えと、マルチになったので…」

「そういう仕様だったのか」

「知らなかったんですか?」

「ああ、ずっとソロプレイだったからな」

「それは、やっぱり…」

「そうだ。だが、俺はお前のようなヤツを見捨てるほど、薄情じゃない」

「…! ありがとうございます!」

「ああ」


彼女の懇願で攻略を手伝うことになったのだが、少し気になったことがある。

「お前、回復しないのか?」

「あの、えと、私、回復できないんです」

できない?まさかボス戦だと言うのにアイテム補充を忘れたのか?

「い、いえ、私のジョブ、戦闘中に回復できないんです…」

なるほど、ようやく合点がいった。

「お前のジョブ、もしかして"ボス"じゃないだろうな?」

「あ、はい。そうです、それです」

はぁ、とため息を漏らす。それなら早く言ってほしかった。

「作戦変更だ。お膳立てしようと思っていたが、その前にお前がくたばってしまったら意味がない。俺が仕留める」

「は、はい!」






「あら! シドウ、それって」

「なんだよ」

「あらあらまあまあ! 久しぶりにみたわねー、シドウの女装姿」

「もう俺は自分を隠さない。そう決めたんだ」

「ええ、いいわよ」

「だから母さん――、なんだって?」

「いいのよって言ったのよ」

「いいのか?」

「ええ」

「でも、最初の時親父と一緒にため息をついていたじゃないか」

「あー、あの時の。だからあれから着なくなったのね」

「え?」


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