99 エボリューション
「ということで、ミリッサはお館様に呼ばれることになった。それで、わかったか?」
「なにもわからん。なぜなんだ?」
「しつこい。それはお館様から聞くべきこと」
ふう!
なんとも居心地の悪い話である。
妖怪の棟梁が、俺を連れて来いとランに命じた。
ここまではわかった。
だから、なんだというのだ。
それに、やたらと出てくる蛇、蛇、蛇。
と、思い出した。
あの祠、たしか、紅焔竜神と書いてあったような……。
竜神様か。
妖怪のお館様とどっちが偉いんだ?
聞いてもランは、取り合ってはくれないだろう。
聞く意味なし、と切り捨てるにちがいない。
別のことを聞いてみた。
「なあ、ラン。妖怪って呼ばれる存在ってのは、世間にどれだけいるんだ?」
「なにか、気に入らない。その持って回った言い方。普通に妖怪は何人いる、と聞けばいい」
「ああ、それで?」
「日本に限って言えば、百万くらいかな」
「えええっ?」
「少ないか?」
「多い!」
「そう?」
ランが小さくため息をついた。
「そもそも、妖怪って言葉が嫌い。人間の側から見て怪異だという。こちらはこれで普通。妖怪という言い方を変えようという動きもある」
「妖か?」
「妖と言っても妖怪と言っても同じこと。違う呼びかた」
「へえ」
「我らは我らのことをエボリューションと呼び始めている」
「え? エ、エボリューション!」
「進化」
「ほおお。で、ランのような、つまり人の姿をしているエボリューションは?」
「人は一般的な言い方で、妖怪と呼んでいい。実際、エボリューションという呼び方はまだ全く一般的ではない。日本に限っていえば、人の姿をとれる妖は百もいない。しかし、その分類に何か、意味があるのか?」
「百か……」
「ホッとした顔してるな」
「いや、そういう意味じゃないさ。で、それ以外は? 全部、山の中?」
「それ、日本昔話か? 山の中に住んでいるのは約半分。残り半分は、町や村や、人のいるところに住んでいる。遠洋漁業の船に乗り込んでいる奴さえいる。別の姿をしているか、目には見えないだけ」
「ほう! 知らなんだ。お館様もその口か? それとも、ランのように人の姿をしているのか?」
「それはさっき、自分の目で確かめろって言った。お館様含め、ごく一握りは、妖だけが住む世界にいる」
「あいだみちを通っていくところだな?」
「そうだ」
昼食を作ってくれて一緒に食べた先ほどまでとは違い、ランの声は人が変わったようにいよいよきつい。
話しづらいが、次の質問だ。




