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96 猫は水は苦手

「ミリッサ先生、ほんとうにごめんなさい」


 まずは岩山の周囲を見て回った。

 足を滑らせて倒れているのでは。

 どこにもいない。

 それならもっと下だ。

 沢の方に転げ落ちたのではないか。


 斜面を埋め尽くすクマザサをかき分けかき分け、探して回ったという。

 が、いない。


 沢は、ちょうどそこだけ屈曲し、深みになっていた。

 まさか、ここに。


 残念ながら、猫は水は苦手。

 意を決して、深くて暗い水に飛び込んだ。

 しかし、ただ、身体を濡らしただけだった。


 もしや、一人で帰ったとか?

 でも、提灯を置いて?

 それになぜ?


 薄暗い中だ。

 夜目は利くとは言っても、見落としたのかもしれない。

 今の三つの工程を繰り返した。


 もはや、ミリッサは一人で戻ったとしか思えない。

 と、ここで、とんでもないことに気づいた。

 あの茶屋町の口は閉まっているはず。

 では、どの口を。

 いや、まだどの口にも辿りつかずに彷徨っているかもしれない。

 お礼のひとつも持たずに。


 まずい!

 急がねば!



 おはぎを置いたところまで戻ってきたが、茶屋町への道はすでに消え、直進するしかない。

 しかし、この道は先で、様々に枝分かれしている。

 常時開いている口は多いのだ。


 もっとも直線コースを取れば、どこに行きつくのか、ランは知らなかった。

 だが、行くしかない。

 ミリッサに径を道として判別できたかどうかは別にして。


 あいだみちに問うても何も答えてくれない。



 かなり走って出た先。

 どことも知れぬ岸辺だった。

 海のように広いが磯の香りが全くしない。

 さすれば湖か。

 民家もなければ道路さえない。

 遠く、街の明かりもない。

 ミリッサは、どこに。


 湖岸をミリッサを探して走り回った。

 違う気がする。

 いくら何でもこんな暗闇。

 やみくもに歩き回るようなミリッサじゃない。


 引き返し、何度もあいだみちに問うた。

 ありたけのお礼を差し出しても、うんともすんとも言わない。


 あいだみちの道中であいだみちと口をきいたことはない。

 そもそも、あいだみちは話せるのか。

 会話や声、という概念がない妖なのかもしれない。

 幼稚園児の私にはわからない。



 途方に暮れかけたころ、サルに出会った。

 手を出してくる。

 何か寄越せというのだ。


 こやつ。

 私に見返りを要求してくるとは、大した度胸。

 とは思ったが、ものは試し。なにか知っているかもしれない。


 いや。

 もしかして、今、依頼している調査の謝礼か。

 謝礼や報酬を渡す性質のものではないのだが。

 どちらでもいい。

 自分の夕食用に買ったアンチョビいっぱいのピザをやろう。


 結局、それがサルの気をよくした。

 べらべらと喋り出す。

 言うに、大学の裏山の口に逃がしてやったと。

 そしてなぜ、ミリッサが逃げ出したのかも聞き出すことができた。


 知っての通り、恥かしながら蛇は苦手なのじゃ。

 と、サルは、助けられなかったことをなんども詫びた。



 一目散に紅焔山の口を出て十二号館のバックヤードまで飛んで行った。

 すでに昼近くになっていた。

 フェンスのドアは意味をなさない。

 猫の私に。

 ミリッサはどこに!

 教室? そんなはずはない。

 授業準備室!

 そこにもいなかった。

 しかし、ガリに事情を聞くことができた。


 警察に!


 人に見られることのない姿となって疾駆し、警察に向かった。

 ヨウドウ部長とフウカが刑事に詰め寄っていた。



 ランはこの話の間中、何度も涙をこぼし、謝ってばかりいた。


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