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93 当学始まって以来の珍事

 大学に向かう車の中で、運転席のヨウドウが話してくれた。

「このミャー・ランって学生には驚いたな。当学始まって以来の珍事だ」


 助手席のフウカが再現してくれる。

「フフフフ! ラン、ったらね。ネコ妖怪だっていうのよ。先生を連れまわしたのは私だって」


 警察官に向かって、ロビーのど真ん中で、大勢の人がいる前で、ランはこう言い放ったのだという。


 妖界七人衆の一人、化け猫とは私のことぞ!

 刮目するのじゃ!

 これが本当の私!



 ランの大きな目がますます見開かれたと思ったら、いきなり体中に変化が現れたのよ。

 ググッと背が縮んで、四ツ足になり、衣服は消えて大きな、黒い猫の姿になった。

 顔は猛り狂ってた。

 牙を剥き出し、爪を現し、背中の毛は逆立って。

 空気が気迫を受けてビリビリして。

 今にも飛び掛からんばかり。


 さすがに、取り囲んだ刑事から悲鳴が上がった。

 拳銃を取り出す者もいる。非常ベルを押しに走る刑事もいた。


「わかったか!」

 と言うなり、化け猫はたちまちランの姿に戻った。

「ミリッサがどんなことを話したのか、知らぬ! しかし、これで十分だろう!」



 それは一瞬の出来事だった。

 目の前にいるのは若い女子学生。

 黒い服を着た、フェアリーカラーの髪を持つ、背の小さな女の子。

 目はクリッとして、愛くるしいほくろのある女学生。

 今見たものが幻だったのかと思うほどに、鮮やかな変身劇だった。


「さあ、先生を解放なさい!」


 ランの要求に即答できない刑事にとどめを刺したのはフウカ。

 こちらはランが説明してくれる。



「フウカがさ、ずるいよ。いつから持ってたのか知らないけど、書類を一枚出してきてさ。これが見えぬかって感じで。刑事たち、青ざめちゃって。何が書いてあるのか、知らないけど」


 きっとあれだ。

 フウカの両親の名を出したのだろう。

 警察庁大幹部の父と母の名を。


「なんて書いてあったの?」

「ひ、み、つ」

「ケチ。私だけ、あんな恥ずかしいことしたのに」

「恥ずかしい? めちゃくちゃ格好良かったよ」

「フウカが先に、効果てきめんの紙を出してくれたらよかったのに」

「そう? あの順番でよかったんだと思うよ。なにしろ、ランのド迫力。それがあってこそ」


 いずれにしろ、ミリッサはランとフウカに感謝した。

 この援軍なしに、自分だけであの部屋から晴れて出てくることは、絶対に出来なかった。



「それにしても」

 と、またヨウドウが言う。


「うちに妖怪の学生がいたとはな」

「先生、驚かない?」

「とんでもない! 気がどうかしたかと思ったぞ」

「もう、驚いてないし。というより、怖がってもいないし」

「なにを言う。めちゃくちゃ怖いさ。これから先、君を絶対に怒らせちゃいけないんだからな」

「大丈夫。ちょっと怒ったくらいであんなことしないし」

「ミリッサを助けるためには、するんだ」

「助ける? 違います。元はと言えば私が撒いた種。ミリッサ先生には本当にごめんとしか言いようがない」

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