92 所在ははっきりさせておけ
「いい加減、自分のしたことを認めたらいかがです?」
ついにこの質問が来た。
「おたくの話は辻褄が全く合いません。というより、隠されていること、抜けているところが多すぎて全貌が一向に掴めない」
「……」
「ここで何泊もするのは、気がすすまれないでしょう」
「当然だ」
「それなら、すべて話されたらいかがです?」
「……」
「それにあなた、数カ月前、競馬場で起きた事故にも関係されているんでしょう。その時もまさに、あなた、現場におられた。そして死んだ人、その人も、先生、あなたが教えた卒業生」
「いい加減にしてくれ……」
取り調べは昼を跨いで続く。
不毛なやり取りばかり。
さぞ、刑事も嫌気がさしたであろう。
ただただ、話せない、というだけの相手では。
いや、よくあることか。
経験のない者には分からない。
いったん休憩、ということになって、刑事たちが部屋を出て行った。
扉があいた時、女性の声が飛び込んできた。
ランだ!
フウカもいる!
俺に会わせろと言っている!
どれだけ心強かったことか。
と同時に、どれだけみっともないと思ったことか。
茶が出された。
案外おいしい茶だった。
飲みながらまた考えた。
どうすればいい。
どうすればここから出られる。
ランは無事だった。
それはよかった。
すまないことをした。
蛇に追われたとはいえ、彼女をあいだみちに置いて戻ってきてしまった。
会わせたい人が誰だったのか知らないが、困った立場にならなかったのならいいが。
いや、それより、この状況、何とかしなければ。
やがて刑事が戻ってきて、告げた。
「今日はもうお帰りになって結構です」
立とうとした。
膝がガクガクし、立てずに机に手をついた。
クラッとした。
意識が途切れそうになる。
しっかり机の端を掴んで眩暈が収まるのを待った。
やっとの思いで部屋を出、刑事に付き添われて玄関ホールに向かった。
所在ははっきりさせておけ、と釘を刺された。
容疑者扱い、という重いものがのしかかってきた。
ランが抱きついてきた。
泣きじゃくっている。
フウカも涙ぐんでいる。
ヨウドウもいた。
その目の前で、ランはきつく抱きつき、離さなかった。
そして涙声で言った。
ごめんなさい、ごめんなさい。
私のせいで。
こんな目に合わせて。
ごめんなさい、ごめんなさい。
ヨウドウが手を差し出してきた。
絆創膏だらけの手を握ってくれる。
「長居は無用。帰ろう。帰って、旨いもん食って。風呂も入って、ゆっくりして。話はそれからだ」
「すまない。ありがとう」
「礼は、この二人に言うんだな」




