90 まずは、トーストとゆで卵を
雨はやんでいた。
まどろんだのかもしれない。
ごく近くでシジュウカラの高い声。
我にかえると、声を限りに叫んだ。
誰か!
まだ早いのかもしれない。
しばらくしてまた叫ぶ。
誰かいないか!
なんの変化もない。
かなりの時間が経って、ようやく人の姿が見えた。
守衛!
堂々として頼もしかった。
駆け寄ってきてくれる。
ライトウェイ!
なんていい名なんだ!
「先生!」
「助かった……」
「どうして。いや、そんなことより」
まずはと、宿直室に連れて行ってくれる。
「死体が……」
「えっ。でも話はあとで。身体、冷え切ってますよ。急いで着替えを」
とりあえずの衣類はストックしてあるという。
「傷の手当てを。風呂、沸かしましょうか」
警察が来るまでの間、淹れてくれたコーヒーをすすりながら、これまでのことを話した。
包み隠さず、すべてのことを。
この男なら、聞いてくれるような気がした。
「いろいろあるもんですな」
が、守衛の感想である。
これ以上の感想を聞く前に警察が到着した。
現場に急行したい警察をライトウェイが押し留めてくれる。
ええ、ええ。通報したのは私ですよ。
先生は疲れ切ってらっしゃる。
まずは、トーストとゆで卵を食べていただいて、一息ついていただいてから。
質問もその後にしていただきたい。
現場?
それもその後で。
白骨死体は、服装から見て、若い女性のもののようだった。
身元を特定するものはまだ発見されていない。
祠の屋根石のぐるぐる飛びはもう収まっていた。
ミリッサが現場から戻ると、ガリを含め、大学の職員が心配顔で出迎えてくれた。
出勤直後なのか、ヨウドウは鞄を持ったまま駆け付けてくれていた。
刑事が守衛に話を聞いている。
ミリッサにもその内容が聞こえてくる。
宿直室で起床したのは何時何分。
いつものようにまずは構内の巡回。
途中、人を呼ぶ声が聞こえたので、駆けつけてみるとミリッサ先生がフェンスの向こうで座り込んでおられて。
といった具合で、先ほどミリッサが語った内容は含まれない。
あくまで、自分の行動のみ、語ってくれている。
ミリッサの周りには他の刑事が立ち、守衛の聴取が終わるのを待っている。
こちらは警察署で、ということなのだろう。
ヨウドウが近づいてきた。
「何があったかしらんが、しっかりしろよ。オマエ、顔、真っ青だぞ」
と気遣ってくれる。
「ありがとう。えらいことに巻き込まれてしまった」
「まあ、それはことが終わってから聞く」
「すまない。迷惑をかけた」
「なにをいう。なにがだ。気にするな」
ガリは近づいてはこなかった。
昨夜、梅田で会った時とは違って、これ以上ないほど厳しい目を向けていた。




