81 学生のふりをして、人間社会で遊んでる
私は、猫の妖。
黒猫の姿をしていた時もあるけどね。
学生のふりして、人間社会で遊んでる。
誰も気づかない。
気づいているのは、馬たちだけ。
私が牙をむくと、馬たちは興奮して浮足立つ。
それがおもしろそうだったから、競馬サークルに入ったようなもの。でも、そんなこと、もう最近はしてないよ。
七十歳になったって言ったけど、それはちゃんとした妖になってからという意味。
それまでは、捨て猫の仔として、死線を行ったり来たりの毎日。
私、運が良かったのね。
野犬やキツネに襲われることもあったけど、生き延びた。
生き延びて生き延びて、生き延びた。
病気になったことも何度もあった。
猫取りに狙われて捕まりそうになったこともある。
もし捕まってたら、三味線の張り革になっていたかもしれないけど、なぜかいつも逃げおおせた。
住んでいたのは、白山のふもと。まあまあ裕福な普通の農村。
場所が良かったのかもしれない。
市街地は遠く、山は近い。きれいな川が流れ、魚もネズミもいっぱいいた。
ちょうどいい穴倉を見つけたからかもしれない。
そこで、何十年も何十年も、何百年も死なずに生き延びた。
いつしか私の体に変化が起きた。
大した変化じゃない。
何となく、強くなったような気がした。気力が満ちるような気がした。
弱々しく、いつ死んでもおかしくないよぼよぼの猫に活力があふれた。
そして身体も一気に大きくなり、毛も輝きを増し、跳躍力も走力も、今まで体験したことのない境地になった。
そして私は、もう死ぬことを恐れなくていいのだと悟った。
ある日、私は初めて市街地に出た。
驚いたことに、人は誰も私に気づかない。
誰もが恐れるだろう大きさになった猫なのに。
顔は獰猛。そこらを散歩させられている大型犬さえ、尻尾を股に入れて私を避けるのに。
塀から屋根へ、屋根から屋根へと跳躍してるのに。
ミリッサは、聞けば聞くほど、最初に感じた驚きは小さくなっていった。
いとおしいと思うほどに、ランが語る話にのめり込んでいった。
猫の妖怪。
妖の幼稚園児。
今、目の前に。
黒いシャツから細い腕を出して、今度はプリンの蓋を開けている、この小さなランが。
「どれにする?」
牛乳プリンや抹茶ゼリー、一口チョコパイなどを出してくる。
「どんだけ買ってるんや」
「お土産もあるからね」
食事が終わって、言われるがままに、荷物はコインロッカーに。
向かった先はテレビ局のある一角だった。




