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79 あなたにぴったり 初歩から学ぶシリーズ

 紀伊国屋の店内、巡りながらガリがしてくれた話は、かなり衝撃的だった。

 ノーウェはノンちゃん、アンジェリナはアッちゃん、ジーオはジーちゃんと言い換えられていたが。

 ランに聞かせてもいいことかと思うほどに、激しい口調で。



 ノンちゃんはとんでもない娘。

 彼女のおかげで辞めさせられた人がいたでしょ。

 とんだ災難。

 彼女に少しでも関わったおかげで、弄ばれて、最後は破滅に追い込まれ、結局、行方知れずに。


 あの人ほどではないにしろ、同じような目にあった男はたくさんいる。

 そのたびに問題にされたけど、男は立場が弱いよね。こと、こういう件に関しては。


 自分に男が靡くのを楽しんでいた。

 蔑み、おもちゃにして、ポイ。

 その後始末の仕方がえげつない。

 学校のハラスメント相談課に逃げ込んで排除する手。


 私、立場上、言えないけど、彼女が卒業して、心底ホッとした。

 彼女が訴えた「被害」ってのが本当に実在したのかどうか、調べるのが私の役だった。

 男たちの涙を何度見たことか。


 学校内で、学外で、男をたぶらかし回っていたノンちゃん。

 彼女が残した傷跡はまだ学校内に残っている。

 ご存じと思うけど、監視カメラやマイク、PC履歴の吸い上げ。

 もっとひどいことも行われている。

 秘密だけど。

 それらは皆、彼女がやったことの後遺症。


 それに、男だけかっていうと、そうじゃない。

 たとえばアッちゃん。

 かわいそうだった。

 あれじゃまるで奴隷。

 女主人と召使い。

 アッちゃんは不幸なシンデレラ。ノンちゃんは継母。ジーちゃんは、そう、意地悪なお姉さんね。


 私、聞いたことがある。アッちゃんに。

 どうしてそこまでされて一緒にいるの、って。

 抜けたらいいじゃない、って。


 彼女は泣きながら、こう言った。

 できないんです、と。

 なぜって聞くと、首根っこを掴まれていて。前世からの宿命なので、って。

 彼女、宿命って言ったんですよ。宿命。重い言葉。

 意味は分かりませんでしたけど、苦しくても逃げられない、なにか約束でもあるようでした。


 アッちゃんが助手として学校に戻ってきたとき、私、どれだけ喜んだことか。

 彼女が溌剌としていたから。

 ノンちゃんの呪縛からやっと逃れられたんだなって。


 でも、アッちゃん、えと、先生、ご存じでしょうか。

 彼女、いつの間にか行方不明に。


 これって、どういうこと?

 私には何もわかりませんけど、彼女がかわいそうで。

 どんな呪縛があったのか知りませんけど、逃げ切れなかったのかなと思ったり。




 ガリは参考書を取る手を止めて、顔を上げた。

「ということです」


 ミリッサは、自分の顔が紅潮しているだろうと思った。

 ランは、何も聞いていなかったよというように、少し離れた場所で本を次々に手に取っては放り出している。


「聞いてみたかった話って、こういうことでした?」


 どう答えればいいのかわからないが、とりあえずミリッサは礼を言った。

「ありがとうございます。疑念が解けました」

「私、アッちゃんが好きだった。目立つ子じゃないけど、頑張り屋で芯が強くて、まっすぐなところが」

「はい」


 ミリッサは耳が痛かった。

 先日まで、面影さえ覚えていなかったアンジェリナ。


「よかった。ここで先生と会えて。誰にも言えなかったことを聞いてもらえて、ありがとうございました」

「あ、いや、こちらこそ。誰にも聞けなかったことを、聞かせていただいた」



「これなんかどう? あなたにぴったりじゃない? 初歩から学ぶシリーズだって」

「もう!」

「うそうそ。知ってますって。貴女が最優秀成績賞を取った学生だって」


 ガリはこうして話を切り上げ、ではまた学校で、たまには授業準備室も覗いてくださいな、と背を見せた。



 ミリッサとランは何も買わずに、茶屋町口の出口から書店を出た。

 今の話はなかったかように、ランがはしゃいだ声を出した。


「ガリさんからお墨付きもらったから、そこらへんで晩御飯にしよう!」

「お茶じゃなかったのか」

「いいの。もうそんなこと」

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